第32話 仮面の男
一方、その頃。
ところ変わって此処は、ロゼッタの所属する騎士団が置かれている
「畜生! どうしてオレ様がこんな目にっ!」
王都の下水の中に悪態をつくデクスがいた。
デクスの体はガリガリにやせ細り、目のしたには大きなクマができていた。
ストレスで体中を掻き毟った結果、傷跡は化膿を起こして腫れあがり、見るも無残な惨状となっている。
「クソッ! 聖遺物だ……! もっと聖遺物があれば……!」
強力な魔力を秘めた聖遺物であるが、その鮮度が落ちて品質が低下すると、悪質な中毒を発症することで知られていた。
「無様ですね……! 騎士団では、『剣聖』とも呼ばれた方が不甲斐ない」
下水道の中に不気味な声が鳴り響く。
「……何者だっ!?」
デクスが振り返ると、そこにいたのは不気味な仮面を身に着けた1人の男の姿であった。
「私の名前はグレイス。しがない魔族ですよ」
アーテルフィアにおいて魔族とは謎に満ちた存在であった。
彼らは他種族たちと常に一定の距離を取り、表に出ようとしない。
ただ1つハッキリ分かっていることは、魔族が他種族に対して友好的な感情を抱いていないということだけである。
「へへっ。魔族の追手が来るとは……とうとう俺もヤキが回ったということか」
驚きこそしたが、納得の感情が先にきた。
魔族たちは表舞台にこそ現れないが、人目に付かない裏社会で勢力を伸ばしていた。
人族の禁忌の力に手を出した自分は魔族に処分される運命にあるのだろう。
そう考えたデクスは腰から剣を抜いて最後の抵抗を見せようとする。
「まぁまぁ、武器は仕舞って下さいな。あくまで私は平和な取引をしにきたのですから」
男の声音には不思議と荒んだデクスの心を落ち着かせるものがあった。
「まずはこれをご覧下さい。きっと貴方も気に入ると思いますよ」
「それは……!?」
仮面の男が懐から取り出したのは、ガラスのケースの中に入れられた錠剤であった。
「聖遺物だと……!? 一体どうして……!?」
デクスは自らの眼を疑った。
何故ならば――。
ケースの中に入った錠剤には、聖遺物と同じ性質の魔力が秘められているように見えたからである。
欲しい。
一秒でも早く、あのビンの中の薬を手に入れたい。
「我々魔族は長年、人族を研究していましてね。聖遺物と同じ効果を持った薬を開発する技術力を有しているのですよ」
「…………」
魔族の男の説明はデクスの耳を空しく通り過ぎる。
「アメザキ・ヨウジという男を殺しなさい。そうすれば我々は貴方にビンの中のものを提供しましょう」
「何でもいい! 何もいいからっ! その聖遺物をオレ様に寄越しやがれっ! 詳しい話はそれからだっ!」
男の出した条件をロクに聞こうともせず、デクスは一方的に喚き散らす。
聖遺物の闇に取りつかれた彼の中には、もはや一片の理性すら残っていない。
デクスの眼前には、底知れない闇が広がっていた。
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