第3話 宝石姫と村娘3

 ここは砂漠の中の小さな村です。すぐにシンスの家に着きました。


(そっちはどう?)


 メノウの頭の中でベリルの声がします。ベリルは離れた宝石と会話ができるのです。


(これからシンスさんの家に行くところだよ。シンスさんがどんなことに困ってるのか、報告をするよ。姫さまの出番はそのあとだろ?)


 メノウもベリルに心の中で語りかけました。


(わかったわ。よろしくね。メノウ)


「ここが私の家です。どうぞ、お入りください」


 石で出来た家。その入り口にある布をめくってシンスはメノウを中に招き入れました。

 小さな家です。ベッドが一つあるだけです。そのベッドはシンスのお母さんが寝ています。メノウには、シンスがどこで寝ているのか、わかりませんでした。

 メノウは家の中の様子を探ります。ベリルに報告をするためです。とは言ってもここには何もありません。食べ物もなければ、暖かい衣服もありません。体を温める火もありません。いくら砂漠の中の村でも、夜は冷えます。こんな家に母と娘が二人で暮らしていることが、メノウには信じられませんでした。

 そんな様子を察したのか、シンスが言いました。


「冷えますよね?すいません。火を起こす燃料も買えないんです」


 ここ石の国には火の燃料になる木がほとんど採れません。隣の森の国から買ってくるしかないのです。

 この家での生活はとても大変そうにメノウの瞳には映りました。

 ベリルもまた、メノウの目を通して、この家の様子を見ているはずです。そう、宝石に力を込めました。

 さてさて、どうしたものかとメノウは考えました。この大変な暮らしぶりを見た姫さまのことだ。きっとここに飛んでくるぞ。メノウはそう感じていました。しかし、今の段階でメノウが力になれることはなさそうです。ここは素直に姫さまに任せた方がいいのだろうか?とメノウは考えていました。


「ごめんくださいな。宝石店の店主、ベリルです」


 家の入り口から声がしました。やっぱりかとメノウは思いました。おおかた、プルームアゲートの宝石の力を使い、羽を生やして空を飛んできたのでしょう。シンスは驚いた様子でしたが、快く家の中に招き入れました。


「突然すいません。あなたの力になりたくてここまで来てしまいました。どうか、お話を聞かせていただけませんでしょうか?」


 ベリルは強くシンスの手を握り、言いました。


「そんな、話して聞かせられることもありませんが。元々ウチは裕福ではないんです。でも、家族3人で楽しく暮らしていました。けど、働きに出ていた父が事故で亡くなってからは苦しい日々でいた。食べることにも困ってしまい、暖も取れないので、母も身体を壊してしまいました。働こうにも、私のような何もわからない村娘では、ろくにお金も稼げません」


 シンスはそう言い、悲しそうに俯きました。そんなシンスをベリルは優しく抱きしめました。


「辛かったのね。でも、もう大丈夫よ」


 そう言うと、ベリルはシンスの目を見つめました。


「で、でも、私にはどうすることもできません」


 シンスはまだ、悲しそうな顔をしています。


「宝石の力を借りましょう。宝石には不思議な力があるもの。ね、メノウ?」


 メノウは姫さまならそう言うだろうと思っていました。目の前の困っている人を放っておけないのです。


「俺も精一杯、お手伝いするよ」


 メノウは姫さまに言いました。


「まずはこう暗くて寒くては、気分が落ち込んでしまいますわ」


 そう言うとベリルは持ってきた鞄から一粒の宝石を取り出しました。パイロープガーネット。真っ赤な宝石です。深く、とても濃い赤。とても貴重な宝石です。


「火の力を宿している宝石はたくさんあるけど、この宝石が一番なんですよ」


 ベリルはそう言うと、宝石を上に掲げました。


「ハイロープガーネットの宝石さん。私たちに元気な光と、心地の良い温もりを与えてくださいな」


 ベリルは宝石に語りかけます。宝石は一瞬強い光を放ったかと思いましたが、すぐに優しい揺らめくような光に変わりました。優しい光と優しい暖かさを持った火の塊のようになったのです。けれども、宝石を持つベリルの手は燃えることはありません。不思議な火のかたまりです。

 ベリルはその宝石を家の真ん中に置きました。家中が明るく、暖かに変わりました。


「す、すごいです」


 シンスは感動していました。


「あら、これは」


 灯を感じて、シンスのお母さんが起き上がってきました。


「お母さん。ごめんなさい。起こしてしまって。お客さんが来ていて、すごくよくしてくれてるのよ」


「それは、ありがとうございます。……ゴホゴホ」


 シンスのお母さんは苦しそうに咳き込みます。病気はとてもひどいようです。


「ごめんなさい。お母さん。寝ていて」


 シンスはすぐにお母さんのもとに駆け寄ると、布団を直してあげていました。そんなやりとりを見ていたベリルは心配そうに言いました。


「お母様、お辛そうね。なんとか助けてあげたいわ。そうだ!」


 そう言うと、ベリルはまたカバンの中をゴソゴソと探し、一つの宝石を取り出しました。深い紫の宝石です。


「この宝石はスギライトです。美しいでしょう。この宝石に秘められた力は『癒し』です。お母様の病を『癒し』て見ましょう」


 ベリルはスギライトの宝石をシンスのお母さんの胸元に置きました。優しく手をかざし、宝石に語りかけます。


「スギライトの宝石さん。お母さんを苦しめる病気を癒してあげて。お願い」


 スギライトはベリルのお願いに答えるように、優しく光りだしました。スギライトから発せられた優しい光が、お母さんを包み込みます。

 すると、みるみるお母さんの顔色が良くなっていくではありませんか。どんどんと若々しい顔つきになり、元気を取り戻した様子です。元気になったお母さんはベッドから立ち上がれるまでになりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

宝石のお姫さま 近衛いさみ @lonesomeyuu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ