第2話 宝石姫と村娘2

 さて、さて、問題はここからですね。ベリルはそう考えていました。一粒の黄金でシンスとお母さまを救えたとはとても思えないのです。


「メノウ。私のお願い、聞いてくれるかしら?」


 ベリルは宝石棚から一つの小さな宝石を取り出し、机の上に置きました。虹色の不思議な模様をした宝石です。その宝石にベリルは手をかざします。


「アゲートの宝石よ。私の願いを聞いてくださいな」


 宝石が白く輝きだすと、みるみる大きくなり、人間の形になっていきました。宝石から男の子が生まれてきたのです。名前はメノウ。ベリルが生み出した、宝石の精霊です。


「宝石の姫さまか。俺に何か用かな?」


 濃い、緑色の髪をした男の子です。とても綺麗な顔をしています。ここまでかっこいい男の子は、人間にもそうはいないでしょう。


「メノウ。さっきのお客さま。シンスが心配なの。様子を見てきてくれないかしら」


「いいよ。君の心配性は今に始まったことではないからね。俺でよかったら、いくらでも姫さまの力にるよ」


 そう言うと、メノウは風のように、消えていきました。



 シンスは家までの道のりを歩いていました。手にはあの黄金を握りしめています。シンスは嬉しそうです。これで、お母さんに薬を買ってあげられる。美味しいモノも沢山食べさせてあげらると、足どり軽やかに歩いていました。


「あれあれ? これはこれは、村はずれのボロ屋の一人娘じゃぁないか」


 急にシンスの目の前に怖そうな人達が現れました。彼らは立場の弱い人につけ込んで、お金などを奪ってしまう、悪い人達です。シンスやお母さんもよく苦しめられています。


「な、なんですか!? すいません。今日は急いで帰らないといけないんです」


 シンスは目を合わせずに、その場をやり過ごそうとします。しかし、数人の男に囲まれてしまい、身動きが取れません。


「おい。見ろよ。手に何か持ってるぞ」


 一人の男が仲間たちに言いました。男たちはいっせいにシンスの手を見ました。シンスの手は何かを必死に握り締めています。黄金です。しかし、この黄金がなければシンスはお母さんの薬を買えません。シンスは男たちに見つからないように、必死に黄金を握りしめていたのです。


「見せて見ろよ」


 男がシンスの腕を掴みました。シンスは痛みで顔を歪ませます。しかし、手を開こうとはしません。男はイライラしているようでした。このままでは、シンスに暴力をふるうかもしれません。その時でした。男たちの後ろから声がしました。


「一人の女性を、こんな大人数で囲むなんて、いいことではないよね」


 男たちは一斉に振り向きました。そこには緑髪の男の子が立っていました。メノウです。ベリルのお願いでシンスの様子を見に来たのでした。


「お前には関係ないだろ。お前から痛い思いをさせてやろうか?」


 男たちはメノウに凄んできます。しかしメノウは宝石の精霊です。そんな脅しはへっちゃらです。


「そうだね。君たちがその気なら、俺は俺の魔法で君たちを痛めつけてあげようか」


 そう言うとメノウはフッと手をかざしました。男たちの後ろ。路地にあった木のタルが大きな音を立てて破裂しました。


「こ、こいつ、魔法使いだったのか?こりゃヤベェ。に、逃げるぞ」


そう言うと、男たちは一目散に逃げていきました。しかし、メノウは魔法を使ったわけではありません。石の精にお願いをしたのです。そばに落ちていた石が協力をしてくれて、タルを破裂させてくれたのです。しかし、男たちには怖い魔法に見えたのでしょう。


「あ、あの。助けてくれてありがとうございます」


 シンスは深く頭を下げた。


「いや。お礼は宝石の姫さまに言ってくれよ」


「宝石のお姫さま?」


「ああ。君が訪れた、宝石店の店主さ。彼女にお願いされて俺は君の元にきたんだ」


 シンスは目をパチクリさせていました。どうしてそこまでしてくれるのかしら?と疑問に思っていました。そんな様子を見て、メノウは説明します。


「姫さまは困ってる人を放ってはおけないんだ。最後まで、君の手助けをしたいって思ってる。俺はメノウ。姫さまの使いで、宝石の精霊さ」


「精霊さんなの?」


 シンスは聞きました。

「そうさ。俺は精霊。姫さまの力で宝石から生まれたんだ。君の力になるよ」


 メノウは胸をトンと叩いて見せました。


「ありがとうございます。精霊さん。もう十分助けていただきました。明日にはこの黄金で薬も買えます。美味しいご飯もお母さんに食べさせてあげることができます」


 シンスはそう言うと、もう一度深く頭を下げました。

 しかし、メノウは困った顔をします。


「そうは言ってもな〜。このまま何もせず帰ったら、姫さまが悲しむんだ。もう少しだけ、付き合ってよ」


「わかりました。では、家に案内します」


 シンスはそう言うと、メノウを連れて歩き出しました。

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