第8話
ここは見渡す限り本当に何もない。何も起こらないに越したことはないんだけど、それでもここまで見るものがないと、退屈で仕方がない。
人間ってどれくらい寝るんだろう……まだみんなが寝始めてそんなに時間が経ってないのにそんなことを考えてしまう。だめだ、ちゃんと集中しないと……もし今何かが来たら私が素早く発見しないと命にだってかかわる。一瞬たりとも気は抜けない。
「……
「え……あ、シロ……起きてたんですね。いいですよ」
いつの間にかシロがお座りをしている。遠い方ばかり見ていたから気付かなかった……二人は寝ているから、起こさないように小さい声で話さないと……
「その……さっき話してなかったことがあって……ここら辺は滅多に危険な目には遭わないんですけど……
「え……でもそれって、私たちを見つけても襲い掛かってきますよね……」
「はい……何も考えずに襲ってくるので……」
「……骸って……結構見ますか?」
「……はい……それに関しては……もう回数も覚えてないくらいです……」
そんな……それを聞いたら一瞬でも気なんて抜けない。話しながらでも周りを警戒していないと……
「……良さん……怖くないんですか?」
「え、骸ですか?もちろん怖いですよ」
「……こことは比べ物にならないくらい……川の方には凄くたくさんの骸がいます……その一人一人が……私たちを殺そうと襲ってくるんです……運よく逃げることができても……その先の獄卒の所にはもっと恐ろしいものが待っているかもしれません……私は……狼のくせに群れを追われるくらい臆病なので……群れが危険な時でもすぐに逃げちゃうんです……こんな私が……群れの一員になる資格なんて……ないんです……」
シロが下を向きながら暗い顔をしている……彼女にとって群れというものは凄く重要な意味を持つんだ。だから私たちについていくかどうかも、凄く真剣に考えてくれている。それは嬉しいんだけど……正直、危険なところに行きたくないという彼女を私たちと同行させるのは、駄目だと思う。
「さっきも話したように、私たちはそれぞれの目標があって……怖いですけどそこに行くしかないんです。シロは私と違って閻魔ではないですし、戦うにしても限度があると思います。個人的にはシロについてきてほしいですけど……今の私にシロを守れるだけの力なんてないですし、どうしても彼頼みになってしまいます。だから、群れに入ってなんて私には言えません。シロが自分で考えて、自分の意思でこれからどうするかを考えて下さい……」
「はい……ありがとうございます良さん……自分で考えてみます」
シロがお辞儀をして寝転がる。私も監視はしないと……いつ骸が現れてもおかしくないんだ。
辺りを見回しながら、さっきシロにかけた言葉を思い出す。もしかしたら少し冷たかったかもしれない。シロは、私にもっと違う言葉を期待していたのかもしれない。それでも、あれが私に言える唯一の言葉だ……私のわがままで彼女を危険な目に遭わせるわけには、いかないんだから……
どれくらい時間がたっただろう。三人が目を覚ました。凄く長い時間待っていた気がする……その間、いつ現れるか分からない骸を必死に警戒していたから、集中力を高める良い鍛錬にはなったけど。
「みんな、おはよう、おなかすいた」
「……お……おはよう……」
「ああ……すまないな閻魔。」
「いえ、大丈夫ですよ。閻魔は疲れとか怪我の治りが早いので」
「そうか。俺らは定期的に寝なければならないから、また頼む」
「いえ、数少ない私が役に立てるところなので、当たり前のように使ってください」
「そうか、頼む。じゃあ送られ川に向かうか」
「そ……その……待って下さい」
シロがいつもより大きい声を出している。彼女の中で、答えが出たのだろう。
「……色々考えたんですけど……私は送られ川とその先には行けないです……すぐに逃げるような臆病者ですから……でも……途中まではこの群れにいれてください……川の近くでお別れすることになると思いますけど……」
そこに行く必要のないシロにとって、ただ危険なだけの場所なんだ。それに、あれだけ真剣に考えてくれていたんだ。受け入れなくちゃ……だめだ。
「そう……ですよね。寂しいですけど、シロの判断は何も間違ってないと思います。別れるまで……仲良くしてください」
「良さん……ありがとうございます……」
おそらく別れたら二度と会えないだろう。シロと別れるのは悲しいし辛いけど、彼女のことを思えば、反対なんて無責任なことは絶対できない。
「……じゃあ送られ川に向かうぞ。狼、どこにあるのか分かるか?」
「……はい……風を右から受けるように歩いていくだけです……送られ川は長いのでそう歩いていけば辿り着きます……ここは大分離れているので相当歩かないといけないですけど……」
「そうか、迷う心配はなさそうだし歩いていたら着くだろ。じゃあ行くぞ」
これから先、何が起こるのかは分からない。危険な所に行くと自分で決めたんだから、私も強くならないと。誰かに頼ってばかりじゃ駄目だ。暇があればどんな方法でも鍛錬して、戦えるようになるんだ。その気持ちを胸に、送られ川に向けて歩き始めた。
閻魔ですが悪い人を助けたら地獄に落ちてしまいました 大木クスノキ @garuoji
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