第7話
「……私も多くを知っているわけではないんです……ここで長い間過ごしましたけど……」
「気負わなくて大丈夫ですよ。無理のない範囲でお願いします」
シロもおそらくこの地獄で相当ひどい目に遭っているだろう。話すのが辛い様子なら聞かないようにしなくちゃ。
「……地獄の中でも……ここは良いところなんです……食べ物と水には困りますけど……危険な目には滅多に遭わないですし」
「危険な目によく遭う場所もあるということか?」
「……はい……海のように広い水の溜まり場とか……私たちが送られ川と呼んでいる大きい川とか……木が生い茂る密林……これらの場所には食料や水があるから多くの人間がいるんですけど……その分獄卒も現れやすいらしいです……それでも見たことないんですけど……だから獄卒よりも人間の方が恐ろしいんです……」
「人間?なんで人間が恐ろしいんだ?」
「食料があるとは言っても少ないですし喧嘩は起こるんですけど……それだけではなくて……皆が
「なんで骸って呼んでいるんだ?」
「その人間たちにはどんな怪我を負わせても動き続けるんです……まるで痛みを感じないみたいに……そして最終的に骨だけになっても動き続けるから……ほとんどの者が骨だけなんです……」
「それに襲われたら……どうなるんですか?」
「骸が現れたらすぐ逃げないと……動けないくらいに酷い怪我を負わされて船に乗せられるんです……そして送られ川を下っていくんですけど……それから送られた人がどうなるのかは知らないんです……」
「だから送られ川って呼んでいるんだな」
「はい……これは予想ですけど……送られ川の先に獄卒がいて……そこで操るための何かをするのではないかと思うんです……だから送られ川を沿って歩いていけば……何かあると言われています……」
シロの話の内容に、私は聞き覚えがあった。もしかすると……
「おそらく送られ川の先には、城があると思います」
私がそう言うと、皆が私の方を向いた。それに少し戸惑いながらも、私は口を開く。
「実は私、
「小説ってことは創作物だろ。信用できるのか?」
「私もそう思って何も言わなかったんですけど、シロの話とあまりにも似ているから、もしかしたら本当の地獄に沿って書いているんじゃないかと思ったんです」
「どんな……話なんですか?」
「主人公の閻魔奈々ちゃんは、骨の集団に仲の良い人間を連れ去られるんです。その人を助けるために奈々ちゃんと仲間たちは、船を使って川を渡り、仲間が捕らえられている城に助けに行くんです。そして捕らえられていた仲間を救うんですけど、そこにいる強力な敵から逃げるために、今までいた地獄とは違う地獄に逃げて次の章が始まるんです」
「……少し……似ています」
「……もしそれが本当だとしたら、その城には何かありそうだな。違う地獄に逃げるっていうことは、もしかしたらその城にそういった何かが置いてあるのかもしれねえ」
本当にこの小説が正しいのかどうかは分からないけど、シロの話と総合したら信用できる気がする。
「そういえば、もとはと言えばお前が地獄に俺を送ったよな?あの力を使って違う地獄に送ることはできねえのかよ」
「地獄円ですか?そういえば、前に一回地獄に来てから作ろうとしたんですけど、作れなかったんですよね。そもそも私は等活地獄に送る地獄円しか作れないんです。お父さんならどの地獄にも送れるんですけど……」
「じゃあその城に行っても違う地獄に行けるかどうかっていう確証はないってことだな。その小説の閻魔が、違う地獄に送る地獄円を作れたから逃げれたのかもしれねえ」
確かにその可能性もあるんだ……もしかしたら行ったところで危険が待っているだけかもしれない……
「俺は絶対に行くぞ。たった一つの手掛かりなんだ。ここでくすぶっているだけじゃ転生なんて絶対できねえ。とりあえず送られ川を目指して今すぐにでも出発する」
そう言って彼は素早く立ち上がった。確かに危険だけど、ここにいるだけじゃ何も変わらない。私も立ち上がった。そういえば、クロが何もしゃべっていないけど話についていけてるのだろうか。
「クロ、話分かった?クロはどうする?」
「だいじょうぶ、かわにいく、のどかわいた」
本当に分かっているのだろうか……また川に着いたら簡単に説明したほうがいいかな。シロはどうするんだろう……
「シロはどうしますか?川沿いは危険だと思いますけど……無理にこなくてもいいんですよ?」
シロは困った顔で下を向いて悩んでいる。実際にその場所で辛い思いをしたのだろう。行きたくないのも仕方がないし、無理に行かせることはできない。
「……まあとりあえず今日は疲れたし、一旦ここらで寝るか。起きたら出発するから、お前らも寝ろ」
「え、のどかわいた、みず、のみたい」
「我慢しろ」
そう言って、彼はこっちに背を向けて寝転がった。突き放すように言われたクロが絶望に満ちた顔をしているけど、シロのためにも少し時間が必要かも。
みんな寝転がって寝始めた。閻魔は寝ないから、周りを警戒していなくちゃ。そう思って警戒していると、彼が起き上がった。
「なんだ、まだ起きてたのか。早く寝ろよ」
「私は閻魔なので寝ませんよ。だから私が見張っておくので寝てください」
「そうか、しっかり見張れよ。じゃあ頼んだぞ」
そう言って彼はまた寝転がった。閻魔である自分だからこそ、こうやって皆の役に立てている。それに嬉しく思いながらも、再度気を引き締め直した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます