Aルート

第3話

  僕はまた目を覚ました。気がつくと腰辺りまで高めの、全く身体がフィットしない硬いベッドに体を横たわらせていた事を知る。


 

 枕や掛け布団などはされておらず、目覚めた瞬間は少しだけ身体が冷えるのを感じた。



 僕はゆっくりと上半身を起こし、一つ溜め息を吐いてから状況を把握しようと何も意識せず、ぼーっとベッド一つある恐らく寝室であろうその部屋の宙を見つめる。



 僕は気持ちを落ち着かせようと暫く上の空でいると、突然目の前の宙に文字が浮かんだ。それはみた事の無い物では無かった。



 あの時、気絶する瞬間見逃していたら初めてであっただろうそれは、どうやら僕自身の身体能力を数値で表示しているようだった。



Lv:4

名前:鴉谷 影


【体力】:300 【筋力】:34


【速度】:21  【感覚】:13


【知能】:58  【精神力】:61



 正直言って高いのか低いのか全く分からない。それになんの為にこんな物が用意されているのだろうか?



 僕はそう悩んでいると寝室に薄く髭を生やしたスキンヘッドで四十代くらいの男が入ってきた。



 男は目を覚ました僕のことを見て、後頭部を掻きながら言う。



「やっと目を覚ましたか」

「え?」




 スキンヘッドの男は、僕が目覚め自分の存在に今気付いた様な反応を示すと、困った表情で質問を返す。



男「ったく……お前、昨日の事覚えていねぇのか? 昨日の夜、突然村の目の前でぶっ倒れた挙句、こっちまでスケルトンの大軍を連れて来やがって、処理がどれだけ大変だったか……」



 僕はスキンヘッドの男の言う事情に一瞬記憶を辿らせるとハッと昨日あった事を思い出す。



 スケルトンの大軍……恐らくは、昨日の無数の白骨体の事だろうか。あれは初めて死の恐怖を味わった嫌な記憶だ。異質で異形の化け物に襲われる恐怖。



 人間に殺されそうになる恐怖より、遥かに怖かった。いや、本来なら人間の方がよっぽど怖い筈だが、生憎僕は慣れていたから。



 それにしてもこの人は僕の命の恩人だ。助けてくれた挙句に寝床まで用意してくれるなんて。



 そう僕はあからさまに目を輝かせ、スキンヘッドの男に感動していると、その感じを悟られたのか、感謝される事を嫌う様に男の表情が曇った。



「おい。こっちだって死にかけたんだぞ。あんな大軍見た事無え。俺らは部隊じゃなくて村人だからな。無理な戦闘は二度とやりたくねぇ」

「あ、すみません……」



 男は村の事情を話すと僕に片手を差し伸べながら、まるで何かを求めるように「それと」と言葉を続ける。



「それと、お前、金は有るよな?」

「え?」



 お金……? なんで? 僕はまた別の世界でも金を抜き取られ無くちゃいけないのか? そう僕は男の発言に目を睨ませながら警戒すると、馬鹿かお前と嘲笑われた。



「いや、此処宿屋だから。例え緊急に運ばれた野郎でも、無一文なんざ許さねぇぞ」

「あはは……」



 男が金を求める理由は、至極単純だった。宿屋だから僕に金を払えと求める。これはただの要求ではなく、正当な義務であると僕は思った。



 しかし僕は男の言った通り、有り金は全て没収されており、その通り金は一文たりとも持っていない。僕はどうすれば良いんだと、男の要求に苦笑いした後、頭を悩ませる。



「はぁ、しょうがねえなぁ……。お前、此処で働け」

「えっ!?」



 僕は男の意外な提案に思わず驚いた。いや、若しくは金が無い相手に無理矢理支払わせる方法としては妥当な判断なのだろうが、普段から身ぐるみ剥がされても金を取られていた僕にとって、この提案は意外たった。



「え、あ、でも……」

「あ? なんか文句でもあんの? つべこべ言わずには・た・ら・け」



 凄まじい威圧だ。見るからにそこまで大きいとは言えないこの宿屋にとっては、恐らく一人の無賃宿泊もかなり大きな損なのだろう。


 

 僕を働かせる理由も言わないまま、ただ"働け"の一押しで来る男の言動に、僕は慌ててそれを承諾する。



「は、はいっ! 此処で働かせて下さいっ!!」

「素直で宜しい。大丈夫だ。んなキッツイ仕事させる気はねぇよ」



 この気遣いの真意は本人に取ってはどうなのか分からないが、ほんの少しでも僕は人の優しさという物に触れた気がした。たが僕は働かせてくれる事に感謝もしたらまた何か言われそうだっので黙ってはたらく事を決めた。



 その後僕は、ボロボロになった病衣から新しく服を宿屋の店主に貰い、仕事内容を受ける為にロビーまで連れてこられた。



「んじゃ、仕事内容とは言うと……。客の呼び込みだ」

「え? それだけで良いんですか?」



 客の呼び込み。僕はそう聞いてとても簡単な仕事だと心の中で安堵すると、店主に睨まれた。



「それだけだぁ? てめぇ、客の呼び込みの大変さを知らねえな?」

「え、あ、はい」



 一見簡単そうに聞こえる仕事内容に楽な仕事だと安心すると店主は説明してやろうと言わんばかりに宿屋の仕事を語り始める。



「と言う訳だ。だから、一見簡単に見えても一番大変なんだぞー」

「すみません……」



 僕は宿屋の店主に約二時間程、客の呼び込みに関して熱く語られた。僕は客の呼び込みをかなり理解した。その瞬間。



《レベルアップしました》

Lv4→Lv6


【体力】:400【筋力】:46


【速度】:29 【感覚】:17


【知能】:82 【精神力】:89


《スキルを習得しました》


【交渉】:Lv1


 まただ。レベル上がった。一体これは何を基準としているのか。まだ分からないが今は仕事に集中しよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る