まず最初に言っておきます。これは読み始めたら止まらない、止められない『魔力』のある作品です。
しかも朝からゆっくり読んでも午前中に読み終えてしまえる無駄無くまとまった構成と文章力が凄い。……私は一気読みしましたよ。
実は、私はこの作品を読むつもりはなかったのです。別の人の別の作品を読むつもりでいたのですが、検索をミスしてこの作品に迷い込んだのです。
一話を途中まで読んで「あ、間違えた」と思ったのですが続きが気になり2話、3話と……気が付いたら全話読み終えてレビューまでしています。
この小説は『面白い』と一言で括れない魅力と魔力に満ち溢れていました。
日清戦争後の東北。山間の寂れた寒村。
その閉鎖空間で起こるごく限られた範囲での『事件』。そして悲しい結末。
この3行で説明できる内容を非常に丁寧かつドラマティックに表現し、主人公の標準語の台詞と、ギリギリ理解できる現地人の方言の台詞回しで舞台の空気を見事再現し、淡い恋心を添えてかーらーの、あの終局……。
一度広げた風呂敷を開ける前より綺麗に折りたたむが如き作者様の手腕にわたくし感服いたしました。
……私はラストシーンの救われなさに救いを感じたのです。
深く静かに逃げ場を与えずじりじりと迫ってくるような緊張感を感じたい方は是非ご一読を。
主人公の『私』視点で日清戦争後の情景が細やかに描き出されていてタイムスリップしたような心地になりました。
また田舎特有の親密で温かいながらも陰湿で閉塞した雰囲気の寒村に帰ってきた『私』が過去の自分の記憶を掘り起こしながら、村の隠された真実に辿り着くまでの一部始終は、平穏としながらもやはりどこか虚昏く、ゾクゾクとして読者をいい意味で不安にさせます。
村人たちにとっては因習を断ち切るという意味では救いだったのかもしれないけれど、『私』と佐保子さんのことを思うと……。時代が違えば展開はまったく異なった結果になったのかもしれません。かつては実際にそんな村もあっただろうと一考する切欠として興味深かったです。また雪女郎の伝説やその他の怪異も源としてはこのような人間の深い業から生まれたものなのかもしれないと思いました。