快晴の日は異世界

はるきK

かいせいの日はいせかい


 私の住むこの街は、大都会の片隅の、さらに片隅のマンションやアパートが密集しているエリア。最寄りの地下鉄駅から徒歩20分。都会にしては不便な立地で洒落たお店も何もない、それでもコンビニだけはある。


 そんな立地であっても一丁前に公園なんかは設置されていて。ただ現代の例に漏れずに遊具なんかは軒並み撤去されていて、片隅にベンチがいくつかあるだけで地面は珍しく土のままの公園。


 そんなベンチしかない公園だけど、私は疲れたときにはコンビニで買ったコーヒー片手にこの公園のベンチに座って空を見上げてぼーっとするのが好きで。


 その日は朝から雲一つない快晴で、空のてっぺんは今まで見たことのないくらい深い、深い青に輝いていた日。いつものようにコンビニコーヒーと、今日は珍しく袋入りのドーナツを買っていつものベンチに腰掛ける。


 まずはコーヒーを一口。

 まだ熱々のそれは白い湯気を飲み口から立ち上らせている。うん、今日も変わらないこの芳醇な香りとインパクトのある風味。確かにカフェのコーヒーに比べたら一段落ちるけど、価格を見てしまえばむしろこのコストパフォーマンスは筆舌に尽くしがたい。


 そしてコーヒーの紙カップを横に置いて、手はいよいよドーナツに伸びる。


 だけどドーナツを包んだ袋の口が案外固くて上手く開けられない。知らず知らずのうちに手に力が入りすぎて、あっと思ったときにはもう遅かった。


 袋が派手にパッカンと破れたかと思えば、同時に空中に放り出されたドーナツ。私の大好きなチョコディップが、UFOのように空を舞う。めちゃくちゃスローモーションで空を駆けたように見えていたのはたぶんドーナツの見た走馬燈で。


 実際にはすぐに地面でバウンドして、そしてコロコロ転がって私の座っているベンチの下に入り込んでいった。


(さすがに丸ごとだから拾っておかないとマズいよね)


 そんな事を思って、身体を傾けてベンチの下を覗き込む。


 けれども。


 転がり込んだはずのドーナツの姿は、影も形も残っていなかった。


 私はベンチから立ち上がって、そのまま這いつくばってベンチの下からベンチ後ろの植え込みまで目を光らせる。だけど、どこにもドーナツの姿はありはしない。

 念のためベンチの下の暗い影にまで手を伸ばして地面を叩いて……叩いて……叩いて?


 そこに地面があるはずなのに、ベンチの下の暗い影だと思っていた部分には地面の手触りがなくて。


 ベンチの下に手を突っ込んだまま思案していると、その手が前触れなく引っ張られた。完全に虚を突かれた格好になった私はそのままベンチの下に吸い込まれてしまう。コーヒーをベンチに残したままで。


(コーヒー、最後まで飲みたかったんだけどな)


 それが私が現代世界で思い浮かべた最後のひとことだった。


――to be continued?――


→→→→→続き書きました! 別短編になります→→→→→


転生した日は、晴天でした

https://kakuyomu.jp/works/1177354055194406023

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