茗月【フリー台本】

江山菰

茗月

注意事項

 *指定したSE・BGMは変更・割愛可。その他のSE・BGMも演者さんの任意でどうぞ。

 *上記以外の一切の改変及びアニメ風ボイスでの演技不可

 *間を十分とって、ゆったり目に



登場人物

 けい・・・60代後半の男性? 茶房「茗月めいげつ」を営む。マニッシュボイスの女性キャスト希望。

 ゆい・・・ごく普通の女子高校生。圭と魚名の孫。女性キャスト限定。

 魚名いおな・・・60代後半の女性? 圭の配偶者。きゃぴっとしている。フェミニンボイスの男性キャスト希望。


本文


〇夕暮れの茶房「茗月」の店内。静かに二胡の曲が流れているところへ、ドアベルの音


結「こんにちはー」


圭「こんにちは。いらっしゃい、結ちゃん」


結「あれ? 今日は圭さん一人? 魚名さんは?」


圭「ちょっと買い物に行ってるよ」


結「ふーん。(大きく伸びをして)あー小腹空いたわー……よいしょっと」


  SE:前後の茗の台詞に少し被せて、鞄を置く音、木の椅子を引いて座る音


結「金木犀、満開だね。お店の中までいい匂い!」


圭「窓を開けてるからね。この匂いが苦手で花酔いする常連さんも結構いてね、この

時期は来てくれないんだ」


結「私はこの匂い好きだけどなー」


圭「あの木はうちの店のシンボルツリーなんだ。金木犀であんなに大きいのは珍しいんだよ」


結「知らなかった。咲かないと金木犀だってわかんない」


圭「ははは……」


結「今日のおすすめは何? 金木犀のシーズンだし、桂花茶けいかちゃ?」


圭「お茶まで金木犀の選んじゃうと、生きてる花の香りに負けちゃうよ。今日の茗月リコメンドは月餅げっぺい龍井茶ろんじんちゃ


結「じゃあそれ!」


圭「はいはい」


  SE:お茶を淹れる音、食器を目の前に置く音


圭「どうぞ、お嬢さん」


結「いただきまーす!」


  SE:飲食中の茶器の触れ合う音


結「(食べながら)おいしーい! これ何でできてるの?」


圭「こっちは金時豆とくるみ、今食べてるのは無花果いちじくと松の実だって。栗のもあったんだけど、もう売切れちゃったよ」


結「そうなんだ……月餅って難しそう」


圭「(ぼやいて)私が手伝おうとすると、魚名が『触らないで』って怒ってた」


結「あはは、私、魚名さんにお菓子作り習っちゃおうかな」


  SE:飲食中の茶器の触れ合う音をしばらく適当に入れる


圭「(間をおいて)もう二か月になるね、結ちゃんがここに来るようになってから」


結「(食べながら)うん」


圭「『あなたたちの孫です』って結ちゃんが訪ねて来てくれたときはすごくうれしかったよ。孫がいることすら教えてもらえなかったしね」


結「私も正直びっくりしたよ。探し当てて会ってみたら、圭さん、背も高いし、背筋もピシッとしてるし、スーツ似合いすぎだし。魚名さんもふわふわっとして可愛くてさ」


圭「あはは……ありがとう。子育てが終わって、夫婦でSOGIソジに正直になったら、こうなっちゃって」


結「ソジってなに?」


圭「エス・オー・ジー・アイでソジって読むんだけど……まあ、自分をどの性別だと認識しているかとか、恋愛対象はどういう性別の人か、そもそも性別っていう境界線自体を持つのか持たないのかっていう、根本的な属性のことだよ」


結「SとかMとかもソジ?」


圭「それは……(ちょっと困ったように)違うと思う」


結「(笑って)冗談だよー、もー」


圭「(間をおいて)……ところで……孝明たかあき祐子ゆうこさんに、結ちゃんがここに来てるってまだ言ってないんだよね?」


結「(食べながら)うん、言ってない……父さん、両親とは関わりたくないって言ってたから。頭固いよね」


圭「いやいや、母親が父親になって、父親が母親になるなんて、受け入れられなくても仕方ないよ。受け入れるべきと思う方が傲慢だ。孝明のことはこうやって遠くで見守るくらいにしとくよ」


  SE:ドアベルのなる音


魚名「(晴れやかに)ただいまー。あ、結ちゃん、いらっしゃい」


結「魚名さん、お帰りー! あ、そのワンピ可愛いね!」


魚名「あらぁ、可愛いのはワンピだけ」


結「魚名さんも可愛いよ!」


魚名「うふ」


結「お買い物だったの?」


魚名「うん、キビ砂糖。これと、金木犀の花でシロップを作るの。馬拉糕まーらーかお豆花とうほぁに使うとおいしいわよぉ」


結「ねえ、そのシロップって今から作るの?」


魚名「今日は花摘みだけ。明日は雨らしいから、今のうちにね」


結「手伝う!」


魚名「うれしいわ、ありがと」


結「ねえ、ところで、あの金木犀ってこのお店のシンボルツリーなんだよね?」


魚名「ええ、そうよ」


結「なんで金木犀を選んだの?」


魚名「圭の名前が金木犀なの」


結「なんで? 圭さんは土二つの『圭』だし、金木犀と関係なくない?」


圭「中国の伝説でね、月にはかつらの木が生えてるって言うんだよ。私は月のきれいな夜に生まれたらしくて、私の父は、私にかつらっていう漢字で『けい』と名付けようとしてたんだけど、子どもに植物の名前を付けると早死にするっていう迷信があってね、それで木偏きへんを取ったんだ」


結「それ、かつらの話でしょ? 全然違う木じゃない」


魚名「結ちゃん、金木犀の花のお茶、なんていうか知ってるわよね?」


結「桂花茶……あ、かつらの字」


圭「そうなんだよ。月に生えている桂というのは、本来は金木犀のことなんだ」


結「(納得して)ああ、それで!」


魚名「それにね、月には『かつらおとこ』っていうのが住んでいて、絶世の美男なんですって」


結「へえ」


魚名「うちの圭にぴったりでしょ」


圭「(小声で)そういうの、やめなさいって」


魚名「(ふざけて)もう、照れちゃって。ねえ結ちゃん、圭って可愛いでしょう?」


結「可愛いっていうか、……ツンデレイケ熟トランスジェンダー紳士って、属性てんこ盛りでどっかのアニメキャラみたいだよ」


魚名「じゃあ私はどう?」


結「きらりんキューティトラジェン美魔女?」


魚名「素敵! ハートのステッキ持って変身しそうだわ」


圭「(呆れて)もうほんとにこの人はいくつになっても……」


魚名「うふ」


結「……なんかいろいろ、ご馳走様」


魚名「さ、じゃあみんなで、花、摘みましょ?」


――終劇。

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