第26話 情報集う

「アルキのシューズは先細りしていてな……俺はどっちかってーと、ランニングシューズとかはコッチだな」

「そうなんだ。私はずっとアルキを使っているの。たまにランニングとかでも愛用しているの」

「へぇ、白河も走ったりしてるんだ」

「うん、ダンシくんは?」

「部活がないときな。場所は……」

「場所は……?」


 スポーツショップでシューズの棚の前で談笑する二人。

 二人ともスポーツマンということもあり、話題は盛り上がり、ジョギングの話にまで行った。

 そして、ここで互いに不自然ではないように相手からの情報入手を心掛ける。

 なぜならば……



(つまり、走る場所と時間が被れば……)


(ダンシくんと偶然を装ってランニングデート……トレビアン過ぎるわ!)



 一緒に同じ場所をランニングする。本来、ランニングはトレーニング目的でやっている二人ではあるが、「好きな人と一緒にランニング」というイベントに憧れがないわけがない。


「場所は……河川敷とか」

「河川敷! 奇遇ね、私も同じよ! 河川敷をこれからも走ろうと思っているの!」

「おお、そうか! じゃあ、今まですれ違わなかったけど……今後どこかですれ違ってもおかしくないわけか」

「そうね。おかしくないわね。全ッ然おかしくないわね! あっ、ちなみに参考までなのだけど、あなたはどの時間帯で走っているの?」

「え? あ、俺は……オフの日は……朝だったり……夕方や夜とか……」

「ラグビー部のオフは月曜日と試合の翌日とかね。なるほど」

「えっ、良く知ってんな?」

「ッ!? たまたまね。たまたま。でも、それなら本当に会ってもおかしくないわね! 私も月曜日の朝とかにも走ろうとしていたし」

「おお、そうかそうか!」

「うん、そうよそうよ」


 このとき、周囲から見れば不自然だが、当人たちからすれば懸命な会話の果て、二人は心の中で……


((月曜は絶対早起き))


 と、心の中に決めたのだった。


「あっ、そろそろ良い時間だし……ランチも行きましょう!」

「おお、そうだな! 『白河は普段どんなところで食ってるんだ? 俺は普段ファミレスとかラーメンとか牛丼ばっかだから、教えてくれよ』」

「え? あらあら、女の子にエスコートさせる気なのかしら?」

「えっ!?」

「ふふふ、なんてね♪ 私は別にファミレスでいいのだけれど……そうね、それならこの間、雪菜たちと行ったパスタのお店に行きましょ。学生にも優しいお値段で美味しいの。パスタは好き?」

「ああ。俺は世界一パスタが好きだ」

「ええ? もう、なんなの? それは」


 そんな仲良く談笑してデートを楽しむダンシコーとエルザ。

 互いに笑顔を見せており、そして心の中では……


(ヤバい……超楽しいぃ……)

(うぅ~……もう、顔がニヤけてしまいそうだわ……)


 二人とも心の中で「ウヒョー」と飛び跳ねたいぐらい互いにデレデレで楽しんでいた。


「……なんか……もう、普通に付き合いたてのカップルにしか……」

「はい……確かに何で付き合っていないのか不思議ですね」


 そんな二人を物陰から追跡するヒットと雪菜は、何の心配もいらないのではないかと思えるほどの二人の様子に苦笑していた。

 ただ……


 

ダンシコー:パスタ屋に行くことになった。たぶん、オシャレなイタリア的な。パスタってどんな種類があるんだっけ? ナポリタンとかか?



 そのとき、ダンシコーから即座にメッセージが入った。



花京院翼:ヤバい、なんかリアル!


エロコンダクター:白河さんなら、オシャレなパスタ屋しか想像できない(*´Д`)


三上くん:パスタ屋がどういうとこか分からないけど、イタリアンな感じだとしたらナポリタンはたぶんおいてない。こういう時は定番で「ボロネーゼ」、「カルボナーラ」、「ボンゴレ」あたりで



 そして即座に反応するグループ。


「わお……こういうアドバイスやら情報共有されていたのですね」


 元ムサクル生たちのやり取りを覗き見て、雪菜は更に苦笑した。

 すると……



エルザ:彼とこの間のパスタ屋に一緒に行くことになったわ! でも、あそこっておいしいけど量が少なかったし……気に入ってくれるかしら?

 

ヒナタ:一応大盛とかできたよね? でも、そっか……ラグビー部だもんね……



 エルザからも同じタイミングでメッセージが入った。


「えっ? そっちもそんなことに?」

「はい……あっ、これは二人の秘密ですよ? 佐塚君たちだって、私があなたたちのグループの存在を知っているのは、あまりよく思われないでしょう?」

「たしかに……」


 実はエルザの方もデート中に友達にアドバイスを求めていたという意外な事実にヒットも呆れる。

 だが、そこで二人は同時にハッとした。


「そ、そういえば、佐塚君……さっき、去年のアニメの話をしていましたが……」

「あ、ああ……」

「こういうシーン……ありましたよね? 男の子の方と女の子の方、それぞれの友達が尾行して同時にメッセージでアドバイスを送るシーン」

「……うん」


 二人とも同じことを考えていた。

 それは、二人が見ていたアニメでのワンシーン。

 今と同じようなシチュエーションがあったことを思い出した二人は……


「わ、私たちも、一緒に……するしかありませんよね?」

「え、ええ?」


 男の子と女の子、両方の気持ちが筒抜けで情報が集まるのは、雪菜とヒットのところ。

 ならば、自分たちこそがこの情報を元に協力しなければと鼻息荒くして興奮すると同時に、少し楽しそうな雪菜。

 ただ、ヒットもまたメンドクサイ半分、恥ずかしい気持ちが半分の半分、だけど少し楽しそうかもしれないというのがもう半分の半分の気持ちがあり、その提案に乗ってしまった。



「じゃあ、とりあえず……」


ヒット:オシャレな店だったら、ダンシコーがお腹いっぱいにならない可能性もあるし、そうなったら白河さんは気にするだろうから、そこら辺は気をつけてね



 と、メッセージを送り……


「なるほど……。パスタか~! あんまり昼はガッツリ食えない感じだったし、ちょうどいいな!」

「え、そうなの? 良かった……私も提案した後に、あなたは大盛のお肉が食べられるところが良かったかなって思って……」

「全然! 俺、体を絞っているところだから! そんなに今は量を食わない方がむしろありがたいんだ! ナイス提案だ、白河!」

「ほ、ほんとう? よかったぁ~」


 そして、すぐにそれをダンシコーは実践し……


エルザ:問題解決! 懸念は解消されたわ!


 そんな返答がエルザから返ってきたことで、雪菜とヒットは気付けば……


「これ、いいですね♪」

「まぁ、ね……」


 お互いにナイスアシストだと笑い合っていた。

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ラブコメ初心者な元男子校生の共学ライフ~高嶺の花たちは苦戦の果てにポンコツ化する アニッキーブラッザー @dk19860827

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