第25話 追跡デート
「ん?」
「どうした? 白河」
「う~ん……なんだか雪菜の声が聞こえたような気がしたけど……気の所為ね。さっ、行きましょ」
「お、おう」
本屋でまさかデート中の親友と遭遇しかけた雪菜。
ヒットと一緒に反射的に本棚の影に隠れて様子を伺う。
「あの、別に隠れる必要も……挨拶ぐらいしても……」
「ダメです、親友のデートなんですから、邪魔をするのは無粋というものなのです! いや~、しかしエルザとダンシくんを発見してしまうとは、偶然とは恐ろしいものですねぇ♪」
「確かに……」
本屋を出ていく二人。それを確認してホッとする雪菜。
一方で、ヒットはすぐにスマホを取り出して……
「偶然発見……よしっと」
カシャッとシャッター音を響かせる。
それはぎこちないながらも二人で並んで歩くダンシコーとエルザのツーショット。
「あっ、佐塚君、それは?」
「状況確認とリア充への恨みを込めた拡散の準備」
「か、拡散ッ!? だ、ダメですよ、佐塚君!」
グループメッセージでリアルタイムに相談を受けていた張本人を偶然見つけてしまった。
面白そうなので、グループにその写真を流そうとするヒットだったが、それを雪菜は慌てて止めた。
「エルザはこの恋をゆっくりと育てていきたいんです。ですから、こういうのを拡散したりして、周囲が冷やかしたりするのはよくないと思うのです。私たちは応援することしかできません」
「え~、せっかくなのに……ん? んん?」
雪菜はヒットのグループメッセージのメンバーなどを知らないが、「拡散」という言葉を聞いて、あまりよくないことを想像し、それを止めた。
だが、今の雪菜の言葉を聞いて、ヒットはとんでもないことに気づいた。
「待って、今……会長……何て言った? この恋は……?」
「え…………あっ!!??」
聞き返してきたヒットの言葉で、雪菜は自分のとんでもない失言に気づいてしまった。
なんと、親友の恋を、その相手である男の友人にバラしてしまったのだ。
「さ、佐塚君、い、今のは、その、今のは、忘れてください! 何でもないんです!」
「いや、でも……」
「あぁ、私のバカ! なんという大馬鹿なのです! 心から応援すべき親友の恋を……私が邪魔をするなど……一生の不覚です!」
根が真面目な雪菜は激しく後悔して頭を抱えながら涙目になる。
静かな本屋で声を上げる雪菜の様子に皆が驚いて後ずさりしてしまうほどだ。
「佐塚君、お願いです! どうか……どうかこのことはダンシくん本人には言わないで欲しいのです。一生のお願いです!」
「いや、あの……」
「もし、エルザの気持ちがダンシくんに間接的に伝わってしまって……ダンシくんがもしその気がなかった場合、エルザはこれからアプローチをして好きになってもらおうという決意に水を差してしまうことになり……その……」
「あ~……とりあえず、会長……コレを」
「……はい?」
何とかこのことは内緒にして欲しいと懇願する雪菜だったが、そんな雪菜にヒットは苦笑しながら自分のスマホのグループメッセージを遡って、一つのメッセージを見せた。
それは……
「え? これは、クラスの……元ムサクルの皆さんですよね? ん? えっと……」
三上くん:で? 脈は別にして、お前は白河さんのこと好きなの?
ダンシコー:もっと仲良くなりてぇ……たった数十分の会話でこんなに夢中になるんだから……好きだわ……
ダンシコーが自分の気持ちを仲間たちに打ち明けたメッセージだった。
「え、えっと……」
「まぁ、そう言うこと……あっ、これ内緒で」
「は、はい……いや、でもつまりは……」
メッセージの内容に動揺してしまう雪菜。だが、何度かそのメッセージを読み返していくうちに、簡単な結論に行きつき……
「つまり……ダンシくんもエルザのことを?」
「……両想い……ちっ、やっぱり爆発しやがれ」
「なーんだ、そうだったのですか! 素敵です! うわぁ、エルザ、もうすでに両想いだったんじゃないですか!」
親友の恋は既に実っている。それが自分のことのように嬉しくて、雪菜は興奮して飛び跳ねた。
「なんだ~、エルザはこれから好感度をいっぱい上げて夏前までに決着をつけるとか言っていたんですが、そうだったんですか~!」
「え? そうなの? たぶん、ダンシコーはもっと長い時間をかけてと思ってるけど……」
「そうなんですか! これは、一刻も早く……」
もうすでに両想いが確定しているのなら「Youさっさと付き合っちゃいなよ」と言ってやろうかとも思ったが、雪菜はそこで少し躊躇った。
「……え、どうしたの?」
「いえ……う~ん……」
恋を実らせるために動こうとしている男女。しかし、それを立場上は第三者である自分がそれぞれの気持ちをバラすというのはどうなのだろう? それこそ無粋極まりないのでは? と雪菜は思った。
「やはり、それはやりすぎですよね……勝手に教えるなんて……」
「……会長……」
雪菜のその迷いと言葉を聞いて、その気持ちをヒットも察した。
たしかに、こんな形で二人が両想いであることを知ったが、それをバラすのは何か違う気がした。
「うん、私たちにできるのは、二人を応援して、自然と付き合うことが出来るように応援し、見守ること。それもありなのではないかと思います」
「見守るねぇ……さっさとくっつけ、イライラする、爆ぜろ……とか思うかもだけど……」
「んもう、そう言いつつ、佐塚君も皆さんと一緒にダンシくんを応援しているではありませんか」
「……まぁ……冷やかし半分だけど……一応……友達だし……」
「それが大事なんです!」
ポリポリと頬をかいて照れ臭そうにそう言うヒットの姿に雪菜は苦笑する。なんだか初めてヒットと二人きりで話せて嬉しくて……
「では、さっそく二人を見守るということで、一緒に二人を追跡しましょう!」
「え? な、なんで?」
「私たちの友達の初デートなんですよ? 二人の気持ちを知る私たちには、二人を見守る義務があります」
「う~ん……」
正直、ヒットはメンドクサイ……と思いつつも、なんか二人のデートを尾行するというのは面白そうという気持ちもあった。もし、何かネタを掴めれば今後それでダンシコーを弄れるし、それにラノベ作家としてクラスメートのデートに興味が湧かないということは無かった。
「ほら、行きますよ! さぁ、バレないように!」
「あ、待ってよ、会長」
結局二人で本屋を出て、ダンシコーとエルザを追いかける二人。
そしてこのとき、雪菜はまたあることに気づいた。
(わ、私、何だかんだで佐塚君と二人で……追跡……デートというものでしょうか? そして……初めて佐塚君と、自然に会話が出来ている……)
そう、望んで妄想していた形とは少し違ったがこれはこれで……という気持ちが芽生え、更に……
「ったく、カップルのそれぞれの友達が追跡とか……そんなアニメが去年あったなぁ……」
「あっ!?」
「……え?」
ヒットが何気なく口にした言葉は、モロに自分も知っているアニメだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます