第24話 実は近くで……
東堂院雪菜は最低限周囲を気にしながら街中でスマホを弄っていた。
通行人の邪魔にならないように道の端によって、グループメッセージを開き、親友からの通知を見ていた。
エルザ:多分だけど、彼も私を意識しているんじゃないかって気持ちに確信を持てたと思うわ。そして、私自身がもっと彼と話をしたい、近づきたいって気持ちを持ってしまったので……ガンガン行くことにしたわ(`・ω・´)ゞ
雪菜:おぉおおおおお、カッコいいですエルザ! ファイトです!
ヒナタ:決めたんだね♡
エルザ:ええ。彼があまりにもヘタレすぎると、私から告白しちゃうかもしれないけどね
雪菜:告白ッ!? ついにエルザに彼氏が! 私たちの中でも初ですよね!
ヒナタ:まだ成功したわけじゃないけど、でもほぼほぼ大丈夫だよね~
エルザ:気が速いわよ。それに今後の展開によっては私もまだ分からないし……でも、どちらにせよ告白の勝率を上げるためにも、もうちょっと時間をかけたいと思うの
雪菜:大丈夫でしょうか? あまりのんびりしていて、彼に恋人出来たりしたらどうします?
ヒナタ:その心配はないんじゃない? 先月の下調べでそういう女の子はいないってなったじゃん
エルザ:いいえ、これから彼の試合とかを見てファンが増えないとも限らないし、一年生とかも意外と……なので、確かにノンビリはしていられないと思うの。だから、夏休み前には決着をつけたいわ
雪菜:夏休み!? え、意外と早いですね!
ヒナタ:期限決め? 大丈夫?
エルザ:だって夏休み前に恋人になれば、夏休みで部活がオフのときとか遊べるじゃない。海とか。それにラグビーのシーズンはどちらかというと秋や冬に集中するから、そこで告白されても彼は迷惑かもしれないし……
雪菜:流石です、エルザ……分かりました! 健闘を祈ります! 協力や相談はいつでも!
ヒナタ:だね。雪菜ちゃんも私も頑張んないとね♡
親友からの熱烈なコイバナの報告だった。
現在、リアルタイムで気になる異性とデート中の親友。
「ガンバです……エルザ……私も……」
自分も親しくなりたい男子がいる雪菜にとって、それを羨ましいと思いつつも、心からの応援と、自分自身への刺激にもなった。
「うぅ、私も休日に一人で本屋巡りしている場合では……でも、好きですし……でも、できれば彼と……」
今日は好きなラノベの新刊発売日。心はウキウキではあったが、エルザの報告を聞いて気持ちが昂ると同時に今の自分に少し苦笑してしまった。
好きなものには誇りを持っている。
しかし、それだけではもう満足できなくなっていた。
気になるクラスメートの男子と一緒に存分に好きなものについて語り合いたいと……
「お、あった……平積み……よし」
「あ、見つけまし……」
「え?」
「……へ?」
本屋のラノベ新刊コーナーで手を伸ばした雪菜は、自分の他にも同時にその本を取ろうとしていた手と重なりそうになる。
慌てて引っ込めて隣を見た雪菜。
すると、そこにいたのは……
「え?」
「あ……」
クラスメートの佐塚筆人……ヒットがいた。
「な、あ、せ、生徒会長……」
「なな、え、あ、ええ、え、佐塚くん!?」
丁度頭の中で思い描いていた男子が目の前に現れた。
雪菜はその状況に激しく動揺してしまう。
「あ、えと、き、奇遇ですね、佐塚くん」
「あ、その、どうもっす……」
「佐塚くんも、えっと、お、お買い物ですか?」
「……まぁ……」
「ッ!?」
とにかく挨拶をと取り繕う雪菜だが、すぐにあることに気づいた。
本屋。気になっている男子。しかも丁度自分と同じ本を取ろうとしていた。
「佐塚君! ひょっとして、投稿サイト・カケヨメで書籍化したこの新刊を買おうと!?」
「え、あ、いやぁ……その……えっと……」
「なんと! 佐塚くんはこの本もチェックしていたんですね! 私もWEB投稿されたときから追いかけているんです! 流石です! やはり私の目に狂いはありませんでした! 佐塚君はもはや同志です!」
「……え?」
「わ、わわ、今日は何という日でしょう! 佐塚くん!」
「あ、おれ、用事が――――」
バツが悪そうな、どこか恥ずかしそうにしながらヒットはその場を去ろうとする。
しかし……
「佐塚君、もしよろしければ私と一緒に語らいませんか!」
「あ、あの……その……」
こんな千載一遇のチャンスはないと判断した雪菜は、食い気味で身を乗り出してヒットの手を掴む。
ヒットはあまりにも急な展開に混乱と同時に顔を真っ赤にする。そして、雪菜自身も顔を赤くしているものの、その目は強い決意に満ちていた。
すると、そんな時だった。
「ダンシくん、これよ。私がこの間見た映画は」
「ほ、ほぉ……」
「ヒューマンドラマなんだけど、結構おすすめよ」
「そ、そっか」
「あっ、そーいえばー、今この俳優が出てる映画が上映されてるけど、それも行こうと思ってるの。あのね、もしなんだけどね、もしよければなんだけど―――――」
そのとき、聞き覚えのある声に雪菜とヒットは振り返る。
「あっ……」
「え?」
本屋に併設されているレンタルDVDエリアにて、デートしている二人組。
それは、よく知るクラスメート。
二人は雪菜とヒットに全く気付いていない。
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