第34話 作りかけの魔道具
アインラハトの作業場は母屋の地下にある。
一方の壁に大きな作業机を設え、四方の棚には様々な薬草や魔鉱石、道具作りの原材料が置かれている。
それは彼が昔、魔道具師として名を馳せていたときに集めた品々で、一部は希少で高価すぎる品もあるのだが、いかんせんアインラハトは物に頓着しない性格をしているので、作業場に一度だけ足を踏み入れたことのあるバウルンなどは真っ青になってもう二度と立ち入りたくないと宣言したほどだ。
今では見ることもできない竜に関する素材や、幻獣などの素材はもちろん、幻とも言われる魔鉱石もゴロゴロ置いてある。
誰もこんな王都の外れにある道具屋の地下室にそんな高価なものが転がっているなんて想像しないだろう。盗みに入るだけで一生どころか千人以上が遊んで暮らせるような宝の宝庫でもある。
もちろん守りはしっかりしているので、泥棒に入られる心配はないのだが。
いつもの作業机の真ん中に座りながら、アインラハトは作りかけの魔道具を見つめる。
本来であるならば、作りかけの魔道具は存在しない。
回路を刻む作業は保存ができないし中断もできないからだ。
そして一つの魔道具に一つの回路しか刻めない。いくら複雑な回路を刻んだところで、道は一つだ。別々の回路を刻んだ途端に、その魔鉱石は単なる石ころになってしまう。回路が相互に干渉しあって、力を潰しあうと言われているからだ。
だが、アインラハトは別々の回路を魔道具に組み込むことができた。
彼が天才と言われる所以である。
そして、だからこそ目の前に作りかけの魔道具が存在する。
過去の教訓のような魔道具を見つめながら、アインラハトは魔力を込めた。
回路を刻み、そして途中で、発光する。熱で腕が焼かれてじくじくと痛む。
結局未完成のまま、作りかけの魔道具はそのまま机の上に転がっていた。
これが完成すれば、魔道具師たちはもっと楽に魔道具を作れるはずだった。
これが完成すれば、アインラハトの名声はますます高まるはずだった。
世紀の発明であり、前人未到の行いだ。
画期的で世界を驚愕させるにふさわしい魔道具だ。
「バカだな」
神の領域に足を踏み込んだからこそ、罰として魔力失調症になどなったのだろうか。
驕っていたつもりはないし、人の役に立つ魔道具師でありたいと心がけていたつもりだった。
だが、それでも自嘲の念は消えない。
天才という称号に、浮かれていたのだろう。
だからこそ、今、この作りかけの魔道具を見ると恥ずかしく消え入りたい気持ちになるのだ。
泣き虫で可愛い義妹が最強って本気で言ってる? マルコフ。/久川航璃 @markoh
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。泣き虫で可愛い義妹が最強って本気で言ってる?の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます