夜の白昼夢
安良巻祐介
デイドリーム・コジマという個人雑貨店へ行こうと、蒸し暑い晩夏の夜に家を出たら、ふと見上げた中天にかかる丸い月が、何かおかしい。
目を凝らしてみると、円の真ん中部分がゆるゆると蕩けて左右に流れ、蜃気楼のようになっている。そして、その辺りから、月光が七色に変色している。
なんだあれは、と思わず口走ったとき、ヴィオロロロン、と古い
「デイドリーム、コジマ、交響曲!」
その絶叫は、先ほどの巴旦杏琴のような音色を幾分か帯びており、おやおやと思っているうちに、大小のきのこのシルエットの群れのような辺りの景色から一斉に、トォトォトォトォケルロー、テュオロロケルロオロロロロ、と不可思議な合奏があふれ出して、まるで目に見える音符の舞踊の如く、とろけた七色の月の横たわる夜空を震わし、見ている者全ての、瞳の狭間にある薄硝子の膜を震わし、知らず、奥のほうから塩辛く美しい、色とりどりの液体を、洪水のように溢れせしめた。
私は凍り付いたように、手足も頭も強張らして、白昼夢の名を冠した小さな雑貨店のシルエットを、滲む視界の中心に据えたまま、色彩の奔流に染められて夜でなくなっていく夜の中で、ゆっくりと、何もかもがわからなくなっていった。
夜の白昼夢 安良巻祐介 @aramaki88
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます