7 TOAの仕事と彼女の能力



「それって、同情ですか?」

「そうだな。もっと器用に生きたらどうだ?」


 何もしていないのに勝手に妬みを買われ、勝手に炎上されて。生き辛くはないだろうか。顔を合わせたばかりの同級生に同情されてもなお、彼女はやっぱり顔色1つ変えずに言うのだ。「器用に生きてるつもりですよ」と。

 友人と呼べる者もおらず、近寄りもされないこの寂しい生活を送っているのに、そのどこが器用だと言えるのだろうか。考えれば考えるほど、この佐倉未来という人物が分からない。


「寂しいとは思わないのか?」

「仲良くしない方が楽に生きられる時だってあるんですよ。貴方に心配される筋合いはありません」

「せっかく人が少しは心配しているっていうのに・・・」


 ”仲良くしない方が楽に生きられる”と言った言葉が引っかかった。その言葉に深い意味があるとしたら、学校での過ごし方に納得ができるかもしれない。けれど彼女の言う通り自分が心配する筋合いなどなかった。

 本人がそう望んでいるのであれば、たとえ同情している樹が口出しなどする以前の問題である。


「この辺りに・・・あぁ、居ましたね」


 佐倉は「早く見つかって良かったですね」と、住宅街の中に佇む小さな公園で立ち止まった。

 遊具も何もない妙に閑散としたこの場所の奥で、ベンチにポツンと座っていた人物に目が止まる。


「あれが・・・普通の人だな。特に変わったところはなさそうだ」

「当たり前じゃないですか。私たちだって人間ですよ」


 そこにいたのは推定年齢30代半ばの痩せ細った男だった。見た目こそ普通の人間だが、その表情は何かに怯えている様な、何かを拒絶している様な、そんな顔をしている。

 その異様な姿を目にした彼女は「良かったです」と嬉々とした声色を発する。


「今回は楽に終わりそうですね。紬ちゃんのためにもサクッと終わらせましょう」

「終わらせるって言っても、何をどうするんだ?」

「シンプルに交渉するんですよ」

「あ、おい、・・・!」


 ターゲットの元へ何の戸惑いもなく近づいていく佐倉の背中を追う。そして佐倉未来はその男に向かって躊躇もなく声を掛けた。


「───こんな能力、消えて無くなればいいのにって思いませんか?」


 彼女の声掛けに男は顔色を変えた。


「!・・・・何でそのことを!」


 男の様子からして例の”能力持ち”で間違いなさそうである。佐倉の言葉に目玉が飛びしそうなくらい見開かせて驚いている様子だった。


「私はTOA協会のものです。貴方は一体何に怯えているんですか?」


 樹といえば3メートルほど離れば場所でただ傍観していた。また一歩佐倉が近付くことによって男は顔色をさらに悪くする。距離を詰めるほどわなわなと口を震わせる。恐怖に怯えて話すことが出来なくなるほどまでに。

 何か近づいてはならない理由でもあるのだろうか。体を小刻みに震わせる男に佐倉は衝撃的な言葉を放った。


「───人の記憶が勝手に流れ込んでくる、能力ですか。これはまた嫌な能力ですね・・・浅井和宏さん」


(待て、あの男はまだ何も言っていないはずだ───)


 男は名も名乗っていない筈なのに、彼女は初めから知っていたかの様な口ぶりで尋ねる。

 もしかしたらこの仕事を受ける時点である程度の情報は知らされていたのかもしれない、そう樹は思った。そうであれば何も驚くことはないのだ。


「なるほど。触れただけで流れ込んでくるんですね。だから近づいて欲しくない、ということですか」

「・・・・・」


 男はじっと黙り込む。その様子を見て彼女は「貴方も大変ですね」と労りの言葉を掛けた。


「残念ながら生まれつきのもので消えることはありません」

「・・・・・」

「それは神様からの与えられたものだからです」


 樹はだんだん違和感を覚えはじめる。会話をしている様に佐倉未来は男に話しかけているのだ。きっと独り言ではない。

 その場から離れている自分だけが男の声が聞こえないのかと思ったが、男自身も驚いている様で口をあんぐりと開けていた。


「何で喋っていないのに思っていることが筒抜けなんだって?」

「おい、佐倉・・・」


「私も能力持ちなんですよ。人の思っていることが全部聞こえてしまう・・・最悪で忌々しいものでしょう?」


 佐倉はクスリと笑った。樹はその笑みに背筋がゾッとした。彼女は笑みを浮かべているはずなのに笑っていない。彼女の能力を知る驚きよりも、まずその何を考えているのか読み取れない表情に恐怖を感じた。

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神様のおつかい〜ようこそTOA協会へ〜(仮タイトル) 岩瀬 @iwase-m

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