第24話 決勝戦開幕

『それでは、これから決勝を行いたいと思います! まずは一回戦を攻撃せずに突破したこの男、ランク=アインメルトォォォ!』


 アナウンスとともに、俺はステージへと上がる。

 まさかこんなに早く決勝が来るとは思わなかった。

 二回戦目のシリウスの圧倒的な試合を見て、三回戦目の相手であるCブロックの選手がまさか棄権するとはな。

 本当はもう少しだけ、シリウスの動きを観察したかったのだが…まあ、試合から逃げ出すようなやつとの試合じゃあ参考にはならないか。


『続きまして、魔法王から推薦された最強無敵の近衛兵、シリウス=アルディゴートォォォ!』


 シリウスがステージをゆっくりと登ってくる。

 その瞬間、今までの試合とは違うということを感じた。肌を伝うピリつく空気、湧き上がる高揚感、実戦を彷彿とさせる空気感である。


「久しぶりだな、シリウス。元気にしてたか?」


「お久しぶりですランクさん。ええ、元気でしたよ」


 シリウスはそっけなくそう応えた。

 やはり昔のようにはいかないのか。


「にしてもよ、お前お得意の『自己強化魔法』が見れると思っていたんだが試合では使ってなかったな。もしかして、俺のために取っておいたとか?」


「そんなつもりはないです」


 うむ、やはり返答はそっけないか。


『それでは早速、魔闘大会決勝戦を始めさせていただきます。最強の称号は一体どちらが手に入れるのか!? それでは、試合開始ィィィ!』


 それと同時に、シリウスがこちらへと突っ込んでくる。


「な…!? 危ねッ!」


 シリウスの突きが頬を掠る。

 紙一重だったが、なんとか反応できて良かった。

 そして、俺は一度間合いを取るために後方へと下がる。


「今ので終わらすつもりだったんですが、さすがはランクさんと言ったところですね」


 さらっと怖いこと言うな、こいつ。


「目論み外れて残念だったな。そんなに早く終わらせるつもりはねぇよ! 〈火炎球ファイアボール〉!」


 威力は低いが、まずは詠唱無しの対人魔法で様子見だ。

 火炎球をシリウスに向け連射する。しかし、それはすべて躱され、徐々に間合いを詰められていく。


「やっぱり無理か。なら、正々堂々やってやるよ」


 とりあえずは魔力闘法で足に三割、腕に六割、その他に一割を集中させ、一気に接近だ。


「オラァァ!」


 シリウスの間合いに侵入したと同時に、右拳で顔を狙う。そしてそれと同時に左腕に集めていた魔力を瞬間的に左膝に移動させる。

 右拳での突きは、膝蹴りを入れるためのミスリードだ。そして、確実に急所を狙う。


「甘いですよ」


 その言葉とともに、右拳の突きと左膝での蹴りはいとも簡単に止められてしまう。

 だが、まだ終わりではない。


「甘いのはお前もだ!」


 シリウスへと力一杯に頭突きを入れる。


「ぐはっ…!」


 頭突きを受け、シリウスはそのまま鼻を押さえて後ろへ下がった。


「何も攻撃の方法は手足だけじゃない。昔教えたろ?」


「さあ、もう忘れました」


 シリウスはフンッと鼻から血を出し、構えをする。


「ですが、やはりランクさんは素晴らしいです。魔力闘法も健在のようだ。どうです? お互い少し本気を出して戦うというのは」


「へぇ…悪くない案だ。体も温まってきたしな」


 久しぶりに見れるのか、シリウスの自己強化魔法が。


「〈攻撃強化パワーエンハンス〉、〈速度強化スピードエンハンス〉、〈防御ディフェンス強化エンハンス〉」


 シリウスは続々と魔法を唱えていく。


「相変わらず見事だな。強化に全くむらがない」


「ありがとうございます。ですが、油断してる場合ではないですよ?」


「がはっ…!」


 気づいた時にはすでに、腹部に激しい痛みが襲い、俺は後方に飛ばされていた。

 なんとか体勢を変え、手で地面を掴み止まる。


「八割腹に魔力を流さなかったら普通に死んでたぞ!?」


 そして次に、右の方から蹴りが飛んでくる。なんとか反応できたものの、あまりの速さに魔力を流しきれず、六割ほどで受けてしまった。

 折れてはいないものの、激しい痛みが腕には残った。


「そろそろ、ランクさんも少し本気を出してくださいよ。このままじゃあ僕の勝ちで終わっちゃいますよ」


「そうか、ならお望み通りやってやるよ。死ぬなよ! 〈炎煙スモーク〉」


 大量の煙が一気に周囲を包み込む。

 これでまずはシリウスのスピードを殺し、詠唱ありの対人魔法で畳み掛ける。


「全てを飲み込め、包み込め、天から降りし極大なる灼熱よ。〈灼灼の大火炎ザ・サン〉!」


 輝きを放つ巨大な炎が空へと現れ、下に向かって一気に落ちてくる。

 この煙の中でシリウスが動けないと言うことは到底考えられない。だからこそ、激しい熱風も伴うこの魔法で、一気にダメージを与える。

 地面へと到達した炎は、辺りに激しい熱風を放った。唱えた当人である俺以外は、この炎と熱風により大ダメージを受けるはずだ。

 そして、周囲の煙が熱風により晴れる。


「決まったか…?」


 周囲を見渡すが、どこにもシリウスの姿は見当たらない。

 いったいどこへ行ったのだろうか。


「後ろですよ」


 背中に蹴りを受けたのか、前方へと飛ばされる。

 振り返り確認すると、火傷を負ったシリウスの姿がそこにはあった。


「良かったよ、ダメージ受けてたみたいで。でも、戦闘不能って感じではないな」


「ええ、ランクさんが炎の対人魔法を使うことは読めていましたからね。あらかじめ〈炎耐性ファイアガード強化エンハンス〉を使って対策したんですよ」


 やはり、一筋縄ではいかないと言うことか。

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いつか英雄と呼ばれた頃に。〜元最強軍人で完全無職の少年は、戦乱の世の中で史上最高の英雄を目指す〜 Hachi @amumu0088

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