第23話 シリウス=アルディゴート
「ランクさんお疲れ様です!」
「お疲れ隊長!」
「おう、ありがとよ」
二人にそう返し、観客席に座る。
「ミルマはどうだったの? 最初の方苦戦してたみたいだけど」
ターニャが質問してくる。
「まあ、普通に強かったよ。正直フィールドが森林じゃなかったら負けてたかもな」
「嘘ばっかり。能力使わなかったくせに」
確かに、能力はあの試合では使わなかったな。
「かと言って、別に手を抜いたとかじゃないぞ。魔力はシリウスとの決勝を考えて、温存しておきたかったんだ」
「ま、そんなことだろうと思ったわよ。でも、隊長の能力久しぶりに見たかったなー。私との特訓でも使ってくれなかったし」
ターニャは頬杖をついて、少し不満そうにそう言った。
「ところで、シリウスの試合はいつだったっけか?」
「そうですよ! シリウスさんは第二試合で、あと三分後くらいに開始予定だそうです」
「そうか、ありがとう」
シリウスは俺の次だったのか。てっきりシードで第四試合辺りだと思っていたが、早めにシリアスの試合が見れるようで良かった。
『それでは、これから第二試合を始めたいと思います!』
アナウンスと共にラッパの音が鳴る。
どうやら試合が始まるようだ。
『まず紹介する選手はこの人! 筋肉に生き、筋肉を愛し、そして筋肉に愛された男。しかも、軍随一の怪力の持ち主ながら、魔法の扱いにも定評があるまさに二刀流! リュウ=アルゴンー!』
すると、入場口から二メートル以上の身長の大男が出てくる。
武器は鉄の棘が付いたグローブか。軍人では珍しく、肉弾戦が主体のタイプのようだな。
「てかあんなやついたっけ?」
「いましたよ! Bブロックの勝者の人です!」
「まあ、隊長はシリウスとミルマしか眼中にない感じだったからねー。でも、結構強いわよあいつ。予選では魔力を一切使ってなかったしね」
魔力を一切使わずに五十人を倒したのか。魔力闘法を使われれば確かに厄介そうだ。
『皆さんお任せしました! 魔法王様からの推薦で、本選からの出場となったこの男の登場だ! 無敗の戦士、白兵戦最強、魔族から恐れられた軍人、ついた異名は数知れず! シリウス=アルディゴートォォォ!』
「お、とうとうシリウスの登場か…ん? なんか雰囲気違くないか?」
入場口から出てきたシリウスは前に会った時とはずいぶんと変わっており、なんだか少し暗い感じとなっていた。
「あー、確かにそうかも。あいつ、隊長が軍を去ってからはすぐに近衛兵になってたから全然気づかなかったけど、雰囲気違うわね」
「そんなに違うんですか?」
「ああ、結構違うぞ。あいつはそこそこ明るい方だったし、なんか犬みたいな感じだった」
「犬…ですか?」
俺の言葉に、リリィは首を傾げた。
だがまあ、本当に犬っぽかったしなぁ。呼んだらすぐに来たし、お使い頼んだらやってくれたし、ずっと後ろ着いて来てたし、本当に犬みたいな感じだった。
だが、今のシリウスからはその面影は全く無いな。
すると、ステージのシリウスとリュウがないなら会話をしていた。
「ほう、あんたがシリアスさんかい。なんでも腰抜けランクの部下を前までやってたらしいな。それに、今回の出場も魔法王様から推薦ときた。もしかして、本当は弱いんじゃねぇのか?」
「煽ってるつもりか肉だるま。それに、先ほどの言葉は魔法王様への侮辱とも受け取れるぞ。言葉を慎め阿呆が」
「ぐっ…! ぬぬぬ…」
リュウは真っ赤な顔をして鼻息を荒げていた。
さすがはシリウスだ。
「こりゃあシリウスの勝ちだな」
「え? まだ試合も始まっていないのに、なぜ分かるのですか?」
リリィが俺の言葉にそう疑問を投げかけてくる。
「一対一の対決において、よく言われるのは『感情的になった方が負ける』というものだ。おそらくリュウは俺や魔法王を引き合いに出してシリウスのことを怒らせようと思ったんだろうが、言い負かされたリュウは逆に怒ってしまってる。あーなったらもう正常な判断は難しい」
「本当、あいつ昔っから真面目で理屈っぽいわよね。私もイライラしたし、リュウってやつが少し可哀想だわ。シリウス負けちゃえ!」
ターニャはイライラした様子でそう言った。
まあ確かに、シリウスはどんな任務も真面目にこなすようなやつだったからな。というかいくら性格が合わないと言っても、シリウスのこと嫌いすぎだろ。
『さて、それでは始めさせていただきます! 今回のフィールドは荒野! 隠れる場所がないからこそ、正面からの正々堂々とした勝負が行えます! それでは、行きますよ…試合開始ィィィ!』
「お、とうとう始まったか」
試合開始の合図と共に、先に飛び出したのはリュウの方だった。
「グハハ! 魔力闘法とこのグローブのデスコンボをくらいやがれ!」
リュウはそのままシリウスの間合いに入り、左手で顎を狙ったアッパーカットを繰り出す。
だがシリウスは、リュウのその一撃を左手の人差し指だけでいとも簡単に止めてしまう。
「確かに重いな。他の出場者たちを一撃で倒していっただけはある。ただ、突きの打ち方がなっちゃいない」
すると、シリウスは止めていたリュウの左手をぐっと掴み、そのまま右手を引いた。
「教えてやろう。突きの打ち方というものをな」
シリウスの拳がリュウのみぞおち辺りを捉える。
「ぐへぇあ!?」
リュウはそのままシリウスの手を離れ、吹っ飛んでいく。そしてそのまま闘技場の壁に叩きつけられた。
『試合終了ー! 強い! 強いぞシリウス=アルディゴート! あのリュウの重いパンチを指で止め、さらには一撃で倒してしまいました!』
シリウスの見事と言える圧勝に、観客席からは大きな歓声が上がった。
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