第22話 第一回戦決着!
「さぁさぁさぁ! どうするんだい? このまま隠れ続けるのかい? 矢があたっちゃうよ!?」
ミルマの矢が、木の影に隠れる俺に当たるギリギリのところを通っていく。どうやら、わざと外すように狙って遊んでいるようである。
それにしても、矢でやられた傷が布で縛っておけば止血できる程度で良かった。それ以上の傷ならば、もうすでに戦闘不能だったな。
だがそろそろ反撃をしないと、体力を削り切られて戦闘不能になるのは時間の問題だ。魔力闘法でいくら防御力を上げたしても、さすがに矢を受け続けるのは難しい。
「悪いが、こちらも少々本気を出させてもらうぞ」
現時点ではできるかどうか不明だが、まずはやつの居所を掴む。
「散って舞いし粉塵よ、炎を纏いて飛散せよ。〈
周囲に赤い粉のようなものが現れ、それが一気に飛散する。
この粉は言わば炎の子供。そしてそれが外気と触れ合うことで成長して大人となり、最後には巨大な炎が相手を襲う。この広範囲ならば、いくら姿が見えまいが関係はない。
飛散した赤い粉は広がっていくごとに大きくなっていき、その過程で周囲の木々を飲み込み燃やしていく。すると、その炎上していく中、他とは異なる揺めき方をする炎を見つける。
「魔力闘法…両足集中」
その炎の場所まで、今出せる最高速度で近づく。そして、その場所を力の限り蹴りで振り抜いた。
「ぐはッ…!?」
確かな手応えと同時に、ミルマの声が微かに聞こえた。
「よし、当たったか!?」
どうやら蹴りは完全にヒットしていたようで、ミルマは透明化が消えて地面に倒れ込んでいた。
「なんで僕の場所が…!?」
「簡単だ。さっきまでの攻撃で、お前の能力が消すのは肉体、音、気配、武器だった。それで消さないものは何かないのかと考えた結果が、動くことで生じる風であり、さっきの俺の対人魔法はお前を攻撃するものではなく、お前を炙り出すためのものだったんだよ」
「まさか…炎の揺めき!?」
ミルマは驚いたようにそう言った。
話が早いじゃないか。
「そういうことだ。それに、フィールドが燃えやすい木ばかりの森林だったのが幸運だった。もしここが平地とかだったら逆転は難しかっただろうし、俺は負けていたかもしれない。だがここは森林だ。この炎はもう消えないし、いくらお前が透明化して動こうとも、逃げようとも、炎の揺めきの異変は必ず現れる。もう詰みだ」
そう言うと、ミルマは初めて余裕のない表情になった。
「なんだ、できるじゃないか。そう言う表情も」
「うるさい! まさか、まさか僕がこんな腰抜けに…!」
親指の爪をガリガリと噛み、ミルマは悔しそうにそう言った。
しかし腰抜けか、やはり最初からの余裕の表情は俺のその蔑称を知っていたからだったのか。
「残念だったなミルマ=ロールス。確かにお前の作戦は良かった、透明化の能力と弓矢に関してもかなり相性が良かったしな。しかし、お前は能力を最初から俺に見せすぎた。能力を使った戦闘において、一番大切なことは『弱点を悟られないこと』だ。常に『自らの能力は万能である』ということを相手に錯覚させなければならない。実戦の経験がないからなのかは分からんが、お前はそれを怠った。それが、お前の敗因だ」
「クソクソクソ! この僕が、こんな奴に…!」
ミルマは拳で地面を叩いて喚く。
「ミルマ、俺は余裕ぶってるお前よりも、今の人間らしいお前の方が好きだぜ? まあとりあえず、矢刺さって結構痛かったし、魔法で倒すのもなんだから殴るってことで良いか?」
「ちょちょちょ、ちょっと待って! 僕はもう戦意喪失だよ? 殴るなんて酷いじゃないか!?」
いくら試合とは言え、なぶるように矢を放っておいて酷い言い分である。
「てかさ、戦意喪失って言ってるけど『参った』って言うか戦闘不能にならなきゃ試合は終わらないんだ。俺も心が痛いが、試合も早く終わらせたいし、長引かせると観客にも悪い。だから、九割ほど魔力を込めてなぐってやるから、特別にどこを殴って欲しいか選ばせてやるよ」
「ひぃぃ…! た、助けて!」
悲鳴をあげ、ミルマは透明化してその場から逃走する。まったく、無駄だと言っただろうに。
炎の揺めきの異変をすぐさま発見し、そこをそのまま蹴る。
「あぁあ! 痛い痛い痛い!」
「で、どうする? 顔か、腹か、腕か、足か、さあ選べよ」
一歩一歩、ミルマとの間合いをゆっくりと詰めていく。
「ひ、ひゃあぁぁあぁあ!」
「選べ、ミルマ!」
「ま、参った! 降参するよ! だ、だからもうやめて…!」
それだけ言ってミルマは気を失った。
『試合終了ー! なんということでしょうか! 序盤のミルマ選手の優勢を完璧に覆し、ランク選手圧勝です! しかも、ミルマ選手に対し直接的な攻撃は一切していないというこの強さ! 凄い、凄すぎるぅぅぅ!』
「ミルマ、お前は確かに強い。能力にしても、弓矢の技術にしても軍人を超えていたよ。だがな、お前は調子に乗って遊びすぎた。その性格は、あまり戦場で好ましくないな」
気を失って倒れているミルマに対し、俺はそれだけ言い残し、闘技場を後にした。
そう言えば、結局のところミルマは暗殺専門の暗部組織だったのだろうか。まあ噂程度の話だし、どうでも良いか。とりあえずは、勝てて良かった。
帰る最中、俺は観客などに見られないように小さくガッツポーズをした。
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