第21話 不気味な笑顔
ーー翌日の正午
『さてみなさん、お待たせしましたァ! 魔闘大会の本戦開幕です! 昨日のバトルロイヤル形式とは変わり、本日はトーナメント形式! では早速、第一試合の選手二人を紹介します!』
「よし、やるか!」
頬を両手でパチパチと叩き、自らを鼓舞した。
そして、入場口へ向け一歩一歩踏み出す。
『まずは昨日のAブロックにて、巨漢の戦士を一撃で倒し、その後他の出場者全てを戦闘不能にした炎の男…ランク=アインメルトォォォ!』
闘技場内に入場すると、観客の声援と卑下する言葉の二つが飛び込んでくる。声援に関しては未だに慣れないが、「腰抜け」とかの言葉は聞き慣れたな。なんならそれすらも声援なまである。
「さて、そんな変なこと思ってられるのも今のうちか…」
『では続いての選手はこの男! 神出鬼没にして試合開始数秒にして本戦出場を決めた彼は、今日も数秒で試合を終わらせてしまうのか!? ミルマ=ロールスゥゥゥ!』
ようやく来たか、ミルマ=ロールス。
昨日は遠くてその姿はよく見えなかったが、白髪と白い肌が特徴的な、少し痩せ型の男だった。その体つきを見る限りではお世辞にも強そうとは言えなく、むしろ弱々しいと言った見た目である。
「まさか一回戦目でお前と当たるとは思わなかった。正直、二回戦目とかで当たりたかったぞ」
「それは僕も同じだよ。ランクくん」
俺の言葉に、ミルマはそう返してきた。
にしても実際に近くで見れば何か分かると思ったんだが、これから試合だと言うのに殺気や覇気が気持ち悪いくらいに何も感じないな。
『本戦のステージは少し変わっており、実際の戦場を想定したフィールドが対軍魔法によって再現されます。第一回戦は森林! 戦い方は地の利を利用しても良し、体一つでシンプルに戦うもよしです!』
そのアナウンスとともに辺りの風景が木々の生える森林へと変化する。
なるほど、さすがは軍人の街で開催されている大会と言ったところか。実戦を想定しての試合とはなんとも面白いな。
「すごいねー! 環境を操作する対軍魔法は、魔族を欺いたり、身を隠すために使われたりするとは聞いたけど、こんな使い方もあるんだね! へぇー!」
辺りを見回しながら、ミルマは感心したようにそう言った。
「まぁ、複数人でしか使えない対軍魔法は、実際の戦場では使いようがほとんどないからな。こういった使い方が一番利口だろう」
感心するミルマに対し、そう言い放つ。
「へぇ、詳しいんだね。もしかして、元軍人とかかな?」
「優しい顔と声して、意外と性格悪いんだな」
「君ほどではないさ、ははは」
ミルマはそう言って不敵に笑った。
『おっと、どうやら両選手ともまずは言葉で勝負といったところなのでしょうか!? ですがそろそろ、実際に戦っていただきましょう! 今回も試合時間は無しで、どちらかが戦闘不能と判断される、もしくは降参するかで試合終了となります! それでは、試合開始ィィ!』
試合開始のアナウンスが終わると同時に、複数人の太鼓の音が会場に響き渡った。試合開始の合図である。
さて、まずは様子見から入るか。ミルマが未知数なのは今も変わらないからな。
すると、ミルマはいきなり詠唱を始めた。
「見るは幻覚、触るは叶わず。ならば、僕を見つける者はこの世に居らず、探す者すらも消え失せる。不可視は虚構、されど真実…」
「能力か!?」
「能力発動…〈
その瞬間、ミルマが目の前から消え失せる。そしてそれは姿はだけではなく、気配や息遣いなども全てが消え失せた。
「やはり、昨日のアレは能力だったのか…!」
すると、どこからともなくミルマの声が聞こえてくる。
「その通り。昨日は能力で身を隠した後、対人魔法の〈
その言葉が終わると同時に、強い痛みを太ももに感じる。
「つあ!? 矢…!?」
太ももに目をやると、そこには矢がグサリと刺さっていた。しかもその矢は刺さった方向から見て、正面からではなく右から放たれものだった。
「ま、まさか移動していたのか!?」
「そのまさかだよ。足音聞こえなかったでしょ」
この状況はまずいな。フィールドが森林ということもあって、木に登られれば容易に上を取られる。だがかと言って、俺が先に上を取ったとしてもミルマの位置を把握できなければ意味がない。
まずは逃げて、やつの能力を探るしかないか。
「あれ、逃げちゃうのかい?」
走り出した瞬間、ミルマが急に煽ってくる。
甘く見てもらっては困るが、そんな見え見えの挑発には乗らない。おそらくは俺を怒らせて、攻撃を誘おうと思ったんだろうがそうはいかない。
「やっぱ挑発はダメか。ははは」
すると、四方から急に矢が現れる。肩に一発は当たったものの、なんとか木の影に入り込めたため他の矢は回避できた。
全く悪趣味な能力だ。
にしてもミルマの声から位置が分かると思っていたが、耳に聞こえるだけでその途中は完全に消えてるな。さっきの足音が消えてたのもそうだったが、まさか様々なものを透明化させられるのだろうか。もしそうだとすれば、かなり戦いづらい。しかし、勝てないと言うわけではない。
「お前の能力は確かに戦いづらい。だが、手放した矢まで消せないのなら、恐るに足らない。避ければ良いだけなんだからな」
「さて、本当にそうかな?」
「は? ぐあッ!」
強烈な痛みが右腕を襲う。そこにはすでに矢が突き刺さっており、血が滴っていた。
決して余所見をしていたとか、油断していたとかではなかった。警戒していたにも関わらず、攻撃をもらってしまったのだ。
「そう言うことか…矢を消せなかったんじゃなくて、
「まーね、良い性格でしょ?」
どこからともなく聞こえたミルマの声は、少し嘲笑しているようだった。
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