第20話 暗部組織

 Aブロックの試合終了後、Bブロック、Cブロックと試合は進み、順調に本戦出場者が決定していった。だが、順調だったのはCブロックまでであり、Dブロックの試合にて異変が起こる。


『し、試合終了…Dブロックはすべての出場者が一斉に倒れ、しょ、勝者が見当たりません…』


 いきなり起こった信じられない現象に、アナウンスの声はかなり困惑していた。そしてそれは俺を含めた観客全員も同様であり、唖然として闘技場内を傍観する。


「おいターニャ、今何が起こったか分かったか?」


「いや、分からないわ。ただ、試合開始の合図と共に全員が倒れた…どうやら眠っているようね」


 眠っているか。

 対人魔法の中には睡眠を誘発する魔法は確かにあるが、それを使って自分まで眠ってしまうのはさすがに間抜けすぎる。だが、勝者がいない以上はそう判断するのが妥当である。


『い、い、居ました! 一人、一人だけ立っています!』


 アナウンスが会場に響き渡り、観客全員が闘技場内を注目する。すると、そこには先ほどまでは確かにを確認する。


『Dブロック勝者…ミルマ=ロールス! 本戦出場決定です!』


 観客は先ほどまでの驚きから一転、急に現れた勝者に拍手と歓声を送る。ミルマという男は、それに応えるように笑みを浮かべて手を振っていた。


「おい、あの男さっきまで居たか?」


「居なかったわ…私たちが見忘れるわけもないし、あの場に急に現れたと考えるのが妥当ね」


 ターニャは信じられないといった表情でそう言った。

 しかし、いったいどうやって現れたのだろうか。瞬間移動をする魔法など聞いたことがないし、あり得るとすれば自己強化魔法を脚力を強化しての高速移動だが、それならば俺とターニャは確実に気づく。残るは考えづらいが、能力を使った可能性か。


「予選には特に気になるやつはいないと思っていたが、まさかのここに来てすげぇのが出てきたな」


「隊長、しかもあいつ軍服を着ていないわ。となると、実力も本当に未知数よ」


 ターニャの言う通り、ミルマという男は軍人ではなかった。だがしかし、能力使用の可能性から考えても、ただ魔法の扱いが上手く戦闘ができる一般人というわけでもなさそうである。

 勘でしかないが、ミルマにはなにか、そう思わせるような何かがある。そう俺は確信した。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「それでは、第一回ランクさん本戦出場おめでとう会と本戦に向けた作戦会議を始めます!」


「いぇーい!」


 リリィの第一声に対し、ターニャが掛け声と拍手で応えた。

 いや、なんだこれ。


「これなに? 罰ゲーム?」


「違いますよ! お祝いも明日に向けての作戦会議も必要不可欠なことなのでこの会を開催したんです!」


 リリィはバンッとテーブルを叩いてそう言った。だがその後、ちょっと痛かったのか両手にフーフーと息をかける。痛いならやるなよ。


「まぁ、おめでとう会は置いておくとして、作戦会議は確かにしたほうが良いかもな。明日はトーナメント制でくじ引きで決まるらしいし、ミルマやシリウスと初戦で当たる可能性だって十分ありえる。対策しておいて損はないな」


 すると、俺がおめでとう会を置いておくと言ったのを受けてなのか、リリィとターニャは揃って「えー!」と声を出す。

 そんな声を出しても置いておくと言ったら置いておく。てか恥ずかしいし。


「で、二人は今日の試合を見てて何かあるか?」


 二人に対しそう問いかけると、ターニャが先に口を開く。


「やっぱミルマね。正直、BブロックとCブロックの勝者は警戒する必要性が全くないし、シリウスに関しては手の内を隊長は知ってるわけだから対策のしようがある。でも、ミルマは試合内容から言っても本当に強いのかも不明だから要注意よ」


「わ、私もそう思います! それに、急に現れたのもすごい気になります。何かの能力とかなのでしょうか?」


「ああ、なんらかの能力だとは俺も思った」


 だがそれだとすると、少しおかしい部分もある。


「でも、ちょっとおかしくない?」


 どうやらターニャも同様のことを思っていたようである。


「構造が難しい能力は魔法とは違って一朝一夕じゃあ身につかないし、なにしろ能力なんて芸当を扱えるのは軍でも一握りだけよ。一般人がおいそれと使えるものでは無いわ」


「確かにな。だがもし、一般人では無いとしたらどうだ?」


「まさか…!?」


「噂でしか聞いたことがないが、もしかすると軍人が知らない軍人と呼ばれる『暗部組織』のやつなのかもしれない」


 正直、軍の暗部組織というのは噂程度の存在のため、可能性は低い。だが、これがミルマという男を推測するにあたり一番有力である。

 すると、リリィが驚いたように口を開く。


「あ、暗部組織ってなんですか!? なんか怖そうですけど…」


「噂では人族を殺す軍人だとよく言われている。なんでも、魔法王の政治や軍の運営にあたり、邪魔だと判断する者を消すための戦闘兵らしいな」


「ま、ただの噂だから大丈夫よ! 隊長なら余裕だろうしね!」


 ターニャ笑ってそう言った。

 だがしかし、噂とは言えども不安材料が残ることに変わりはない。

 能力使用の可能性、計りきれない実力、暗部組織という噂、それはミルマという男を警戒にあたり十分すぎる情報だった。

 そんな不安を残しつつも、作戦会議は終了した。

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