第19話 予選大会始まる!

 ーー二時間後


『これより、予選大会を開催いたします!』


 アナウンスが会場内へと響き渡る。とうとう魔闘大会が始まるのだ。


『予選大会は選手のみなさんにA〜Dブロックに約50人ずつで分かれていただきまして、バトルロイヤル形式で行ってもらいます! そして、明日の魔闘大会本戦に出場できるのは一ブロックにつき一名のみ、いったい誰が勝ち上がるのかご期待くださいッ! まずはAブロックの試合からです!』


 Aブロックの俺は一番最初か。

 すると、アナウンスが終わったのかどこからともなくパッパカパーとラッパの音が鳴り始める。たしかこれが入場の合図だったな。

 同じAブロックの選手たちと共に、闘技場の中へと入る。そこは天井がない広い試合会場で、それを取り囲むように観客席があるという作りになっていた。観客席は見る限りでは満員で、さすがは三年に一度の大会と言った盛況っぷりだった。


「へー、なんか人に見られながら戦うなんて初めてだから緊張するなー」


 そう言うと、後ろから身長がばかでかいおっさんに声をかけられる。軍人ではないが、なかなか良い体格をしている。


「おいてめぇ、ランク=アインメルトだよな? 腰抜かしてお漏らしするなよ? ガッハッハ!」


 それだけ言い残すと、そのおっさんは大笑いしながら離れていった。いや、それを言いたかっただけかよ。


『制限時間は無し、一人の勝者が決定するまでのバトルロイヤル形式! いったい誰が勝つのか…それじゃあ行きますよ〜。試合開始ィィィ!』


 アナウンスの試合開始な合図と共に、周りの選手たちは勇ましい声を上げて一斉に動き始める。そしてその中には俺の方へと向かってくる者もいた。さっきのおっさんである。


「ガハハ! 腰抜け! まずはお前から息の根を止めてやる!」


 おっさんは持っていた大斧大きく振りかぶり、そう言った。


「はあ…」


 まったく、武器を持っていないことに加えて、軍人たちから腰抜けと呼ばれているから最初に俺を狙おうと思ったのだろうが、それは大きな間違いだ。


「知らないなら一つ言っておくが、俺はここにいる誰よりも強いぞ。あと、体がガラ空きだ」


「は? ぐへぇあ!?」


 おっさんは俺の蹴りに反応できず、そのまま闘技場の端の壁へと吹っ飛んでいく。大斧なんていう隙を作りやすい武器を使うからこうなるんだ。


「おい…うそだろ…?」


「腰抜けランクってあんなに強いのかよ」


 すると今の俺の攻撃を見たからなのか、選手の何人かが驚いたような声を上げていた。


「おい、めんどくせぇからお前らまとめてかかってこいよ。そしたら勝てるチャンスあるかも知んないぞ?」


 会場の選手たち全員に向け、煽るようにそう言った。


「やってやろうじゃねぇか!」


「ぜってぇぶち殺す…!」


 やはり煽ったのは正解だったようだ。

 闘技場内の選手全員が俺へと殺気を向けてくる。そして、「うおおおお!」っと大声を上げてこちらへと走ってきた。

 ちょうど、立っていたところが闘技場のほぼ真ん中だったということもあり、四方八方を囲まれる形となってしまう。


「おい腰抜けぇ! 調子に乗ったのが命取りだったな!」


 普通ならそう思うだろうな。だが、俺はこの状況を狙っていたんだ。


「もう少し…今だ!」


 十分に選手たちを引き寄せた後、勢い良く空中へと飛び上がり攻撃を回避する。そして、俺が急に目の前からいなくなってしまったため、選手たちはそのまま自滅する形でぶつかり合う。

 さて、まだ始まったばかりではあるが、ここでAブロックの試合に幕を引かせてもらおう。


「赤く、紅く、緋い灼熱、すべてを飲み込みすべてを燃やせ。〈大紅蓮ザ・レッド〉…!」


 その詠唱と共に、右手から真っ赤な炎を地面へ目掛けて放出する。そしてその炎は、中心に到着すると同時に、飲み込むように辺りへと広がっていった。


「心配しなくて良いぞ。死ぬような火力にはしてない。ただ、戦闘不能にはなってもらうがな」


 そう言って地面へ降りると、魔法によるダメージで選手たちは全員気を失って倒れていた。


「ありゃ、何人かは残るかなと思っていたが本当に全員倒しちゃったか」


『し、し、試合終了ー! 勝者、ランク=アインメルトぉぉぉぉ!』


 そのアナウンスの後、決着があっという間だったからなのか少しの静寂があったものの、観客席からは歓声が上がった。こうやって歓声を浴びるのも、意外に良いもんだな。

 そう思っていると、その歓声の中から知っている声が聞こえた。リリィとターニャの声である。


「勝ったぞ!」


 そう言って、俺は二人に向けて手を振った。

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