第18話 笑顔
そしてこの日は、午後から魔法や魔力闘法の特訓をし終了した。
それから翌日も模擬戦をし、大会当日の朝を迎える。リリィの回復魔法の効果もあり、この二日間ターニャと全力で戦った疲れは、全くと言って良いほど無かった。
「にしても、昨日はターニャに勝ったし自信出たぞ!」
「悔しい! でも、隊長の役に立てたなら嬉しい! 結婚しよ!」
「しない。だが助かった。ありがとな!」
「ありがとななんて…えへへ」
ターニャは俺の言葉を受けてなのか、頬を赤らめて嬉しそうにしていた。
「さあ! お二人とも予選大会行きますよ!」
扉の前に立っていたリリィが声をかけてきた。
「リリィ、なんでお前がそんな張り切ってんだ。出るのは俺なんだぞ?」
「そりゃあランクさんが戦ってるところを見れるんですもん! ほら見てください! お二人が特訓をしている間に私こんなの作ったんです!」
そう言うと、リリィはごそごそと背負っていたカバンを探り始める。いったいどうしたのだろうか。すると、その中からピンクの布を取り出しそれを広げ始めた。
「応援の旗作っちゃいました!」
「いや、でかい! 恥ずかしい!」
そこには『ランクさん頑張れ! 目指せ優勝!』と言う文字が大きく書かれており、しかも布の色と相まってなんか可愛い感じになっていた。なんで可愛くしちゃったの?
「ダメでしたか…?」
リリィも善意で作ったんだよな。さすがに無下にするのは悪いか。
「いやすまん、別にそう言うわけでは…」
「残念です、せっかく可愛くできたのに!」
「え、本当に俺のために作ったんだよな!?」
全く、俺の悪いと思った気持ちを返してほしい。
「おーい、二人とも何遊んでるの? もう少ししたら受付始まっちゃうから、早く行くわよ!」
ターニャは準備を終えたのか、注意するようにそう言った。良いタイミングだ。
「よし、じゃあ行くか。後リリィは声で応援よろしくな?」
「わかりました…」
俺の言葉に、ターニャは静かに頷いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
受付場所である王都の左側に位置する闘技場に着くと、そこはすでに多くの人で溢れ返り、たくさんの出店などが並んでいた。まさに祭りさながらと言った雰囲気である。
王都に軍人としていた頃も魔闘大会は開催されていたと聞くが、来たことがなかったからこんなにも大きな催し物だとは知らなかったな。
「こんなに人が来るんだな」
「当たり前よ! 魔闘大会は三年に一度開催される大イベントなんだからね!」
「でも、なんか楽しい雰囲気で良いですね!」
リリィは目を輝かせてそう言った。
そうか、リリィは記憶を失っているからこう言った場所に来るのは初めてなのか。
「よし、受付終わったら三人で少し見て回ろう。予選までは時間があるからな」
「さんせーい!」
「わ、私も賛成です!」
俺の言葉に二人はそう声を上げた。
「さて、じゃあ俺は受付をしてこようかな」
二人にそう言い残し、その場を後にして受付へと向かう。すると、そこには大会出場者の列が出来上がっており、見た限りでは軍人の数が多く、その他にも力自慢と言った体格の者がちらほらと居た。
列に並ぶと、俺を知る者が多いせいか並んでいる出場者たちがこちらを見てくる。そして、ひそひそと何やら声も聞こえてきた。
「おいあれってよ…」
「ああ、腰抜けのランク=アインメルトだ。王都に帰ってきたのか」
「どのツラ下げて戻ってきたんだ」
いや、このツラだけど?
そうは思ったものの、ここで揉めて問題が起これば大会に出場できないと言う可能性もあり得る。ここは無視して流すのが一番だ。
「おいおい何も言わないのかよ。本当に腰抜けだったんだな」
よし、大会で発散しようこのストレスは。
そう思っている内に列は進み、受付の順番が回ってくる。
「大会への出場受付を頼む」
「わかりました…!? あなたですか…」
受付の女性はそう言い、嫌そうな顔をする。
受付でもこの反応か。金のためとは言えさすがに面倒くさいな。
「ここは勇敢な軍人が多く出場しています。本当出場しますか?」
「当たり前だ。何か問題でも?」
「い、いえ…では、名前と持ち込む武器の申請をお願いします」
なるほど、魔闘大会では申請すれば武器の使用もありなのか。確かに、並んでいる出場者は全員何かしらの武器を持っていたな。
まあ、俺にはあまり関係のない事だ。
「名前はランク=アインメルト。武器の申請はなしだ」
「え、ええ!? 本当に良いのですか!?」
「ん? ああ、それで良い。さっさと受付してくれ」
ここで時間を取られては出店を回らなくなる。早くしてほしいものだ。
「わ、分かりました。受付完了です。それでは、今から二時間後に予選大会が始まるので、それまでには闘技場への入場をお願いします」
「了解した」
さてと、受付も終わったし二人のところに戻るか。
受付前に二人と別れた場所へと向かうと、色々な食べ物を手に持った二人がそこで待っていた。どうやら先に楽しんでいたようだ。
「受付終わったぞ。てか、食いすぎだろ」
「す、すいません。つい美味しくて…」
「隊長も食べる? あ! リリィ、あっちになんか凄いのがあるわ!」
「ほ、本当ですか!? 行きましょう! ほら、ランクさんも!」
走り出すリリィに手を引かれ、俺も走り出す。そんなリリィの横顔は、今までに見たことがないほどの笑顔をだった。
人がたくさんいる祭りとかの催し物は苦手なんだが、たまにはこういうのも悪くないのかもしれない。
リリィに手を引かれて走る中、ふとそう思った。
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