第17話 ランクvsターニャ
その後、俺たちはターニャに連れられて自宅の地下へと案内される。そしてその地下には、一軒家には似つかわしくないとても大きな空間が広がっていた。
「こんなもんまであるのか。軍にあった訓練場そっくりだな」
「すごいでしょ! 私もいろいろ特訓はしたかったからね、前にお願いして魔法使いまくっても大丈夫な部屋を作ってもらったのよ」
ターニャの言葉の通りこの地下の部屋には魔防加工がなされており、魔法を試し撃ちするにはとても理想的とも言える環境だった。しかし、これを作らせるともなるとかなりの労力を必要とする。さすがは軍の最高戦力の一人ってところか。
「じゃあターニャ、早速模擬戦と行こうか。ちゃんと本気で来てくれよ?」
「分かってるわよ! 私がこの一年間でどれくらい強くなったか見せてあげるんだから!」
「それは楽しみだ。リリィ、そこには強力な防御魔法が張ってあるから動くんじゃないぞ! 死ぬからな」
「は、はい!」
俺の言葉に、リリィはこくこくと頭を上下させて頷く。これでとりあえずリリィは安全だな。
よし、では目の前の戦いに集中するとしよう。
「じゃあ、私から行くわよ!」
ターニャそう言うと、床を蹴って俺の方へと突っ込んでくる。そして、一瞬の内に右から蹴りが飛んできた。まずは魔力闘法で勝負ってわけか。
「確かに良いスピードと蹴りだが、甘い!」
右から来た蹴りを魔力を込めた右腕で受け止める。しかし、受け止めたは良いが右腕に痺れるような痛みが流れる。
「いってぇ…お前80%くらいの魔力を蹴りに乗せたな?」
「隊長の魔力闘法を抜くにはこれが最善だからね!」
いきなり防御無視の攻撃をしてくるとは予想していなかった。
魔力闘法とは身体内部の魔力を外へと放出し、身体に纏わせる戦闘技術なのだが、これは纏ってる魔力を一箇所に集中させることで、通常の攻撃を何倍にも強化することが可能となる。しかし、すべての魔力を一箇所に集中させてしまうと、他の部位に魔力が無くなり防御力が格段に落ち、それは戦闘において死を意味することとなる。
今のターニャの攻撃は、『普通はほとんどの魔力を一箇所に集中させた攻撃はしない』という常識を利用した、意表を突いた攻撃だった。
「面白いじゃねぇか!」
ここまで良い攻撃をされたら、こちらとしても黙ってはいられない。だが、とりあえず今は組手をし、隙を探すのが得策だろう。
そして、俺が攻撃をしてターニャが受け、そこからターニャが攻撃をして俺がそれを受けるという攻防がしばらく続く。
先程とは異なり、同じ手は通じないと考えたのかターニャはバランス良く魔力を体に纏い、攻撃や防御の際のみ必要な箇所に少しだけ魔力を集中させると言った、一般的な攻撃法を行なっていた。だが、これは好都合と言える。
膝抜きをし、そのまま一瞬の内にしゃがみ込む。
「な…! 消えた!?」
「下だターニャ!」
そしてしゃがんだ体勢を利用してターニャの足を刈り、姿勢が崩れたところで体目掛けてそのまま蹴りを出す。もちろん魔力は一極集中だ。
しかし、俺が蹴りへ移動するほんの僅かな時間で魔力を集中させたのか、ターニャは両腕で蹴りを受け止めた。
「いったーい! 腕がジンジンするんだけど!」
「当たり前だ。俺は相手が女だろうが、認めた相手には容赦しない」
「厳しいなぁ。でも、それでこそ私の好きな隊長よ!」
ターニャは嬉しそうに笑いながらそう言った。
てか、俺の蹴りを痛いの一言で済ませるような女に手を抜いていたらこっちが殺されかねない。
「さて、準備体操はここまでで良いか?」
「大丈夫よ! やっぱ模擬戦は魔法使ってなんぼよね!」
ターニャがそう言ったとほぼ同時に、両足に違和感を感じる。目線を落として確認してみると、地面に氷が張り、両足が凍って動けない状態となっていた。
「先手を取られたか…」
どうやらターニャは俺の不意をつき、氷属性の対人魔法を使用したようだ。
この氷属性の対人魔法は、風と水の二種類の属性を掛け合わせることで使用できる魔法なのだが、二種類の属性を混ぜ合わせるなど普通の人間には不可能で、それはもちろん俺も例外ではない。しかしターニャは氷という新たな属性を作り出し、それを用いた対人魔法を得意としているのだ。
この魔法は非常に厄介で、攻撃面においても防御面においても最高峰と言える。
「私の対人魔法、〈
「ああ、『氷の魔女』はより強力になってるってわけだな。さすがだよ、だがな…」
足が動かなくとも、魔法ならば当てられる。お前は、より強力な対人魔法で俺の身体全体を凍らせるべきだった。
「すべてを飲み込む豪炎よ、彼の者を焼き払え。〈
詠唱を行い、右手から巨大な炎の球体を出現させる。
すると俺の魔法に対応するためか、ターニャも詠唱を始めた。
「不壊不滅の氷壁よ、我を守り給え。〈
その声と共に、ターニャの目の前から分厚い氷の壁が現れる。
そして、炎の球体と出現した氷の壁が激突し、二つの魔法はそのまま爆発した。直後、大きな音と水蒸気が辺りへと拡散し、爆発により発生した風圧が体を襲う。
なんとか踏ん張り倒れずには済んだが、身体中がめちゃくちゃ痛い。
「いたた…あーくそ、やっぱ当たんなかったかー」
拡散していた目の前の水蒸気が晴れ、座り込むターニャの姿を確認する。どうやら先ほどの風圧で倒れてしまったようだ。
「もー、さっきの防御魔法はかなり自信あったんだけどな。やっぱり隊長の対人魔法の前じゃだめね」
「そんなことはないぞ。俺の対人魔法もしっかりと塞がれていた。その証拠にお前は意識があるしな。まぁ、今日はとりあえず引き分けだな」
リリィの手を引っ張って立ち上がらせ、彼女に向けてそう言った。悔しいが、結果は結果だ。
「ターニャ、明日は絶対に俺が勝つからな」
「私だって、隊長に勝つんだから!」
俺の言葉に対し、ターニャは笑顔でそう宣言した。
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