第16話 ハプニング!?

 その後、ガイズの店を後した俺たちはターニャに家へと誘われた。そういえば、ターニャの家は今まで興味無かったし見たことなかったな。誘われたことはあったが。


「ここよ!」


 家の前に着いたのか、ターニャはそう言って指を指す。そしてその先にはあったのは、一人で住むには少しばかり大きいレンガ造りの一軒家だった。階級が高い軍人にはそれに伴い良い家が軍から支給されるのだが、この一年間でまさかここまで昇進しているとはな。


「でかいな…てか、軍が用意した家に俺らを泊めても大丈夫なのか?」


「大丈夫! 隊長とおち…リリィなら歓迎よ!」


「ちょっと、今チビって言いそうになりませんでしたか?」


「気のせいよ、気のせい!」


 リリィとターニャは逆に仲が良いのではと言うほどに打ち解けていた。まあ、これも良い兆候だろう。

 家の中に入ると、どうやら中々にきれいにしているようでホコリひとつないほどに掃除が行き届いていた。また、リビングに入ると木製の家具とソファが置かれており、なんだかオシャレな雰囲気である。


「はへー、家の中綺麗ですね」


「本当にな。ターニャのことだから持て余して汚くなってるのを想像していたが、こりゃあビックリだ」


「当然よ! ここは将来、隊長と結婚して一緒に住むための家なんだから!」


 俺とリリィの言葉に、ターニャはふんと自慢げに鼻息を鳴らす。


「でも、軍人辞めたらこの家没収だぞ?」


「え? そうなの!?」


 俺の言葉を受け、ターニャは先ほどとは一転して肩をがっくり落とす。

 やっぱりまだ分かっていたのか。見た目はめちゃくちゃ綺麗なのに、頭が少しばかり残念なのがターニャの悪いところだ。


「ま、一千万ゴルドが手に入れば旅の資金に加えて、でかい家を建てたとしてもお釣りがくる。そんなに落ち込むな」


「さすが隊長! そこまで私たちの結婚を考えていたとは…!」


 まあ、結婚は全く考えていないが、拠点を作ると言う意味でも一千万ゴルドは今現在において最重要だ。

 ソファへと腰掛け、俺はターニャへと質問をする。


「それで、魔闘大会ってのはいつなんだ?」


「えーっと、確か2日後ね。一日目が予選大会で、2日目に本大会が行われるわ。シリウスは魔法王の推薦枠で出場するはずだから、来るとしたら2日後ね」


「そうか。だが、シリウスが出てるとなると一筋縄ではいかないかもな」


 すると、リリィが俺の言葉に驚く。


「シリウスさんって人、そんなに強いんですか!?」


「ん? ああ、軍で俺が抜けた後なら、ターニャとシリウスがトップレベルの強さだったからな。それに一年間の空白と考えると、ターニャもそうだがシリウスが同等、もしくはそれ以上になっている可能性がある」


 実際問題、俺はこの一年間ニートをしていた。それに比べて、ターニャとシリウスはその間も常に軍に居続けていた。特にシリウスに関しては魔闘大会の決勝でぶつかる可能性が高く、それを考えると、油断は全くできない。


「決めた。とりあえずは久しぶりに特訓することにする! ターニャ、明日の朝手伝ってくれるか?」


「もちろん良いわよ!」


 よし、これでとりあえずは一年間で鈍った体をどうにかできる。

 すると、リリィが裾を引っ張ってきた。


「あの…私は何をしたら?」


「そうだな…リリィはもしものことがあったときの救護を頼む。俺とターニャが模擬戦と言えど闘ったら、何があるかは分からんからな。どっちかが大怪我なんてこともあるかもしれない。いけるか?」


「はい! 大丈夫です!」


 とりあえずはこれで大会前の準備は大丈夫だろう。

 今日はひとまず、旅の疲れを癒すためにも明日に備えて休息だ。

 その日は、ターニャとの再会もあり疲れていたのか、ベッドに倒れ込むように眠りについた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 次の日、窓から差し込んだ光で目が覚める。前が野宿だったせいか、半端じゃないくらい体がスッキリしていた。


「ふぁ〜、よく寝れたー!」


 そう言いベットの中で体を伸ばすと、左手に何やらもにゅっとした変な感触を感じる。てかなんだもにゃって。それが何なのかを恐る恐る揉んで確かめてみると、とても柔らかかった。すると、毛布の中から変な声が聞こえてくる。


「う、あん、うぅ…」


 何だこの声…まさか!

 左手でかかっていた毛布を剥ぎ取ると、そこには案の定ターニャの姿がそこにはあり、そしてどうやらさっきまで揉んでいたのはターニャの胸だった。


「もう、ランク隊長のえっち」


「いやいやいや! えっちって言うか何でお前俺のベッドに入ってんの!? お前の部屋隣の隣じゃん!」


「へ? あ! 昨日の夜中、トイレから戻ったときに部屋を間違ったみたいね。てへ!」


 こいつは一体何を言ってるんだ。


「あのな、お前も女の子なんだからこう言うことは…」


 そう言いかけた瞬間、部屋の扉が音を立ててゆっくりと開く。そして、そこから顔を覗かせたのはリリィだった。


「ランクさん! 朝ごはんできたので、そろそろ起き…って、何やってるんですか!?」


 何でタイミングが悪いんだ。ここは、弁解をしなければ誤解されたままで終わる。変態の異名が付きかねない。


「これは違うんだリリィ、朝起きたらこいつがベッドにいてな?」


「そしてランク隊長は私の胸を優しく揉んだのよね」


「そうそう…って、違う! 俺は別に…」


「揉んだんですね?」


 俺の弁解も虚しく、目の前には今まで見たことのないような形相のリリィがそこに立っていた。あ、これ死んだな。


「ランクさんのばかー!」


 その言葉とともに、リリィからのグーパンチを顔面にもろに受けてしまう。

 なんてことだろう。最高の朝が、最悪の朝になってしまった。これはとんだハプニングだな。

 朝の日差しを浴びてベッドに横たわり、静かにそう思った。

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