いつまでも続く日々の途中、きっと最後に辿り着くであろう幸せな結末

 収拾のつけられなくなった物語に介入し、ハッピーエンドをもたらしてくれる不思議な存在、世界幸福保険営業員・立花アルマの活躍の物語。
 メタを前提としたコメディ作品です。もうキャッチ・紹介文の時点でハートを撃ち抜かれたというか、ずるいぞ……こんなの面白くないわけないじゃない……。
 ある意味では出オチ的な面もあるのですけれど、その初見のインパクトに負けない内容が素晴らしいです。こちらが期待した通りの面白みをしっかり提供してくれると同時に、最後にはそれ以上のものを叩きつけてくる。「それだー!」ってなりました。そうだよこれだけ人の話をハッピーに導いているんだから、彼女の物語自体がハッピーエンドでないと締まらない。
 お話の筋としては最初一行の通りで、説明しようと思うと難しいのですけれど、でも内容(というか物語の構造)そのものは至って簡単です。いくつもの物語世界を渡り歩き、その内側から登場人物として干渉、半ば強引にでもハッピーエンドへと導く特殊なお仕事。その実例、というか作中で実際に二作ほど解決しているのですが、なるほど彼女に依頼するのも無理もない話で、それぞれの作中作(?)のめちゃくちゃっぷりがもう本当にすごい。笑える、というかもう涙が出そうなくらいで、気づけば自然と「頼むアルマさん、早く楽にしてあげて!」と祈っていました。いやすみません、だってこれ全然他人事じゃないから……。
 いや半ば身を切るような痛みもありながらも、でもだからこそ本当に笑えるというか、生み出されてしまった鬼子を幸せな終わりへと導く、その主人公の活躍が本当に楽しい。というか、笑ってしまいます。あまりにも無責任に広げられた大風呂敷に対する(正直この風呂敷を思いつくだけでももうすごい)、彼女のツッコミ——というよりも、堪えきれず漏れ出る容赦のない悪態のような。「わかる」と「ごめん」と「たのむ」みたいな気持ちが湧いて、ついつい感情移入してしまいます。
 以下はネタバレ、というほどバレでもないのですが、でもできれば未読の人には見てもらいたくない内容を含みます。
 その上で、というか本当に大好きなのが最終話『休憩室にて・2』、すなわちこの作品自身の物語とその決着です。最後に叩きつけられる〝それ以上〟の部分。まさかここまで真っ当(失礼)かつ真っ直ぐなストーリーを喰らわされるとは、正直微塵も思っていませんでした。
 なにしろ前提としてメタをかなり広く自由に使ってしまっているので、どうしても物語自体が〝なんでもあり〟になっちゃう部分がある。あるはずなのですけれど、でもその状態から主人公自身のドラマをゴリゴリやって、しかもハッピーエンドにできる手段があったなんて……(※キャッチの伏線回収)。
 いや本当、この最後一話だけでそれをやって、しかもそれがものすごく自然なんです。納得できる。普通に沁みるものがあるうえに、散々『ハッピーエンド』をやってきたこのお話の、自身が迎えたハッピーエンドがこの形というのがたまらない。端的な状況そのものとしては明らかに『つづく』(=エンドではない)で、つまりふたりの道自体はまだまだ先があるのですけど、でもいつか辿り着く終着点だけが予告されていること。
 幸せなゴールの予感、という形のハッピーエンド。最高でした。発想力と物量でこちらを魅了しながら、最後にはメタをきっちりストーリとして使い切ってみせる(ハッピーエンドをもたらす存在自身の迎えるハッピーエンド)、とても綺麗な物語でした。