世界幸福保険営業員・立花アルマの輝かしい日々

不死身バンシィ

『孤児の僕が伝説の暗殺術で殲滅無双』最終回 光と闇の相克

「フハハハ喰らえ勇者よ!超次元滅殺粒子収束砲ワールドエンド・ディザスター!」

「ぐわぁーっ!」


 ここは世界の果て。物語の終焉の地。

 ギリシャ神殿と宇宙空間が雑に融合したような、なんかそれっぽい空間でこの世の闇を一身に集めた的な邪悪存在と人間社会から人身御供ムーブでチョイスされた一人の少年が対峙しています。ある意味似た者同士かも知れません。


「ああっ、勇者!しっかりして、勇者キリング・ブラッドレイ!」


 邪悪存在の怪光線によって吹っ飛ばされたスケープゴート少年にパートナーの少女が駆け寄ります。白金プラチナの長い髪に蒼玉サファイアの瞳を宿し華麗なドレスを身に纏ったこの少女は清楚が売りのキャラだった筈ですが、胸元はガッツリ開いています。


「ありがとう聖女エルザ、大丈夫まだやれる。しかし何故だ、神々から授かった聖剣ディヴァインブレイザーが通じないなんて!」


 少女に助け起こされた少年が果敢に立ち上がります。全身黒い革素材に無数のベルトと鎖と包帯をあしらった装備で大変動きにくそうです。左眼は黒の眼帯で覆われており、右眼にも雑に伸ばされている割には妙に艶めいた黒髪が掛かっているので視界の七割が覆われています。不利を自ら背負って戦う姿が格好いいですね。


「なんとなくだけど貴方とその剣、相性が悪いんじゃないかしら勇者キリング・ブラッドレイ」

「えっ、どうして?」

「いやなんというか名前的に。そもそもこれどっちが性でどっちが名なのかしら?キリング家なの?ブラッドレイ家なの?どちらにしても聖剣振っちゃいけない感が凄いわ。あと既視感も凄いわ」

「今更そんな事言われても困るよ!スラム街に生まれそこで匿ったおじさんから暗殺術を教えてもらい、重税を課す代官、裏で麻薬を売りさばく司祭、甘い汁を啜る国王、そしてそれらを操っていた悪魔とかを片っ端から暗殺してたらいつの間にか勇者に祭り上げられていた僕を信頼して神様が授けてくださったんだろ!?」

「途中の急激な路線変更が裏目に出たのね」

「フハハハ勇者よ、お前には散々手こずらされたがどうやらこれまでのようだな」


 格好のチャンスにも関わらず少女と少年の漫才を大人しく眺めていた邪悪存在が尊大に語りかけます。デザインとしては天使のような悪魔のような、蝙蝠っぽい羽と鳥っぽい羽が生えており尻尾の方も爬虫類と獣と魚類と節操ないのに手足だけは人間型です。胴には魔王っぽいおっさんの顔と女神っぽい顔が並んで付いていて肝心の顔部分は世界の闇を象徴するかのように黒い霧状で中にはうっすらと電子頭脳っぽいコアが浮かんでいます。コンセプトを一つに絞ってきてほしいですね。


「クソッこの世全ての悪を司る邪神ベルゼルめ!後はお前さえ倒せば世界が救えるのに!」

「フワフワした綿埃を一ヶ所に纏めてチリトリですくえたら便利ですわね」

「何故唐突に掃除の基本を?」

「なんとなくですわ。それよりも勇者、聖剣が通じない以上勝ち目はありませんわ。ここは撤退すべきかと」

「それは出来ない……!今を逃せばゲートをもう一度開くのに1年以上掛かる!それでは闇の呪いに侵された両親も親友も仲間の皆も魔の眷属になってしまうんだ!なにより、唯一ゲートを開ける幼馴染も呪われている以上やり直しは出来ない!これが最後のチャンスなんだ!」

「なんでそんな縛りプレイみたいな設定ばっかり用意周到なんですの。……仕方ありませんわね。ここは私が力を尽くしましょう。もとより私はそのために世界から遣わされた存在」


 少女の額のサークレットに備えられた神秘の石が輝き始めました。

 光は空間を埋め尽くすほどに広がっていき、少女もろとも邪悪存在を飲み込んでいきます。


「フハハハやめろ貴様、何をする!愚かな人間に罰を下さんとする我の邪魔をしようというのか!我が物顔に世界を蹂躙する人間をこのまま放置して良いとでも!?お前のような奴が居るから我のような悲しき存在が生み出されるのだ!だから母さんも私を愛さなかった!世界の誰一人として我を!人間は愚か!オロカナニンゲンノニクタベタイ!」


 中身のコンセプトも統一されていなかったようです。


「はいはい分かりましたから、少しおねんねしましょうね。それでは勇者、私はこれから100年間、闇の呪いごと邪神を封印します。その間に、今度こそ邪神を打ち倒せる存在を産み、育てて下さい。相手は幼馴染の方でよろしいですから」


「そんな、エルザ!確かに僕には幼馴染を始めとしておっぱいの大きなヒロインが5人とおっぱいの小さなヒロインが二人いるけど君を置いていくなんて出来ない!」

「大概にしとけよお前も本当に。それでは100年後、貴方の子孫と会えることを楽しみにしていますわ。……さようなら」


「エルザ!エルザーッ!」


 少年を一人残して少女と邪悪存在が空間ごと遥か彼方へと遠のいていきます。

 気がつけば、少年は生まれ故郷の近くの草原に横たわっていました。

 目尻に残った涙の跡が、先程の出来事が夢ではないことを物語ります。


「エルザ……僕、やるよ。いっぱい子作りするよ」


 少年は立ち上がり、仲間の元へ向かって歩き出しました。

 勇者キリング・ブラッドレイの物語はこれにてお終い。

 果たして100年後、彼の子孫は邪神を倒せるのでしょうか。

 それは神のみぞ知る、別の物語です。

 めでたしめでたし。 

 

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