第5話 エカテリーナ

エカテリーナは昔、俺の弟子として育てていた人間だった。

あることをキッカケに俺から離れ、

『氷姫(鬼)』という二つ名のついたAAランクの冒険者として活躍している。

ちなみに、姫は単純に器量の良さから、鬼は討伐対象に対する容赦のなさから来ている。

氷というのは、俺が教えた氷属性の魔法をよく使うこと、男への態度の冷たさからだ。


まあ、もう俺にエカテリーナの性格へ口を出す権利はないのだが。


「あなた、名前も知らないけれど、一つだけ忠告しておくわ。

もし命を助けられたからってこの男を信用しているのならそれは大きな間違いよ。

この男は信頼にも、信用にすらも値しない塵芥なのだから。」


そういうエカテリーナに対し、イヴは猛然と反論する。


「あなたとアレクさんとの間に何があったかは知りませんけれど、

私はアレクさんが助けてくれていなかったらここにはいない。

自分の命を助けてもらった代わりに命の続く限り恩を返すのは当たり前のことじゃないんですか?」


少し険悪な雰囲気になってきたな。

ここは…ミーシャに協力してもらおう。

そうおもい、ミーシャへと視線を向けると、

ミーシャも険悪な雰囲気を察したのだろう。

イヴを止めにかかってくれた。


「イヴさん、あなたの気持ちはよくわかりますが、

命を助けてくれたらどなたでもいいのですか?

違うでしょう。アレクさんならではのいいところを言ってくれないと、

私もエカテリーナさんも納得できませんよ。」


アレ?なんかしれっと敵側に回ってないか?


「まあ私は何と言われようが納得する気はないけれど。」


そう言って俺をさらに温度のない目で見つめるエカテリーナにイヴは、


「それはアレクさんが誠実だからです!

私が小竜のブレスで倒れて、食われそうになっているとき助けに入ってきてくれただけじゃなく、逆鱗を切り裂いて硬直させた後に私の剣に魔法までかけてとどめを譲ってくれようとしたんですよ?

…まあ結局私の力が足りず首は切れませんでしたけれど。」


そうイヴが話した瞬間、エカテリーナが剣呑な雰囲気を醸し出す。


「そう。まだ同じことを繰り返しているのね。」


何事かを小声でつぶやいた後、


「あなたはクロエのことを忘れてしまったんでしょう?

自分のせいで殺した娘のことなんてなかったことにしてしまったほうが楽だもの。」


「カチューシャ!」

「その名前で二度と私のことを呼ぶなといったはずよ!!」


激高した彼女はギルドから走り去ってしまい、

事情を知らずにおろおろするイヴや周りの人間と、

気まずい沈黙だけが残った。

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過去と今 -青年の追想- @kaerutti

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