幼馴染をざまぁしたら、幼馴染がまざぁになった

下垣

この話理解できる人いる?

「アンタって本当にダメね」


 俺はいつものように幼馴染の木嶋きじま 沙友里さゆりになじられていた。


 沙友里は昔は優しい子だった。中学生までは普通に接してくれていた。家族ぐるみの付き合いで塾講師をしている沙友里のお母さんに勉強を見てもらったこともある。


 沙友里と同じ高校に進学し、この関係も続いていくのかと思っていた。けれど、沙友里は変わってしまった。


 俺は高校に入ってから成績がガタ落ちしてしまった。中学まではそこそこ優秀な成績だったのに、最初の試験で躓いてしまったのだ。


 小中まで神童だった子が高校で落ちぶれるなんてよくある話だ。なのに、沙友里はそれを機に手のひらを返しやがった。


「成績が悪いアンタになんの価値があるの?」


「やめてよね。アンタみたいな出来の悪いのと幼馴染だなんて思われたくない。近寄らないで」


「昔はカッコよかったのに。今じゃ見る影もないね」


 この2年間。俺は、散々なことを言われて俺は完全に自信を失っていた。もう、沙友里の顔を見るだけで吐き気を催すレベルになっていた。教科書を見るだけで息切れや動悸が止まらない。俺は勉強というものに恐怖を覚えるようになっていた。


 だが、俺にも転機が訪れた。俺には滅茶苦茶美人な年上の恋人ができたのだ。その人に勉強の面倒を見てもらうことで、俺の成績はみるみるうちに伸びて行った。


 その結果、高校3年の最初の中間テストにて、俺は優等生の沙友里よりもいい点数を取ることができた。今まで散々俺をバカにしてきた沙友里に仕返しできる。そう思うと俺は自然とほくそ笑んでいた。


「おお! つばさ。良かったじゃない。元の成績に戻れて。これも私の愛のある叱咤のおかげね!」


 いきなり馴れ馴れしく話しかけて来る沙友里に俺の怒りは有頂天になった。


「は? 沙友里。お前なに言ってんの? 今まで散々俺をバカにしてきて言うセリフがそれかよ! 人をバカにするのもいい加減にしろよな!」


 沙友里は俺がキレるとは思っていなくて、ポカーンとしている。するとことの重大さに気づいたのか急に慌てだした。


「あ、いや。違くてね翼。私、あなたのためを思って、あえて冷たくしてたの。そこはわかって」


「わかるわけねえだろ! 俺がどれだけ傷ついてたと思ってんだ! ふざけるのも大概にしろ! ぶち犯すぞオラ!」


 俺の恫喝に沙友里は目に涙を浮かべる。今にも泣きだしてしまいそうな雰囲気だった。けれど、泣きたいのは俺の方だ。俺はこいつのせいで、ずっと辛くて苦しくて嫌な思いをしてきたんだ。


「えっぐ……ひっぐ……そんなこと言わないでよ。私、翼のこと好きなのに」


「アレが好きな相手に取る態度なのか! それに残念だったな。俺には既に恋人がいるんだ! お前なんかよりもずっと綺麗で優しい恋人がな!」


「え?」


 沙友里は唖然とした。まさか、俺に恋人ができているとは夢にも思ってなかっただろう。


「ちょ、ちょっと誰だよその女! ぶっ殺してやる!」


「やってみろ! できるもんならな!」


「あーそうですか。わかりましたよ。翼がそんな態度なら私にも考えがあるからね! 後悔しても遅いんだから。べー!」


「後悔なんかするもんか。お前とはもう縁切るからな! はい、今から絶縁。ぜーつつえーん! はい、縁切った!」


「なにそれバカみたい! 小学生かよ! 頭の中いつまでたってもガキなんだから。バカじゃないの! アンタなんかこっちこそお断りだよ!」


 沙友里は捨て台詞を吐いて去っていった。あースッキリした。言いたいことは言えたし、沙友里の悔しそうな顔も見れたし、俺は満足だった。


 沙友里と絶縁宣言をした翌日。俺はのどかな休日を過ごしていた。父さんと2人きりの昼食を取っている時のことだった。


「なあ、翼。父さんな。再婚しようと思うんだ」


「ええ! 父さん、本気!?」


 俺は驚いた。父さんは死んだ母さんのことを想って再婚しないものだと思っていた。息子の俺が言うのも難だけど父さんはカッコいい。中年男性特有の渋い魅力があり、俺もあんな風な歳の取り方をしたいと思っている。正に俺の憧れの存在なのだ。


「ねえ父さん。相手はどんな人なの?」


「実は、もう既に家に来ているんだ。さあ、入ってくれたまえ」


 父さんがそう言うとリビングと廊下を隔てる扉が開いた。父さんの再婚相手。どんな人だろう。


「やあ、翼」


 俺はその姿を見て、声を聞いて驚愕した。ありえない。ありえない。こいつがこの場にいるのはありえない。だって絶縁宣言したんだぞ。


「沙友里! お前、どの面下げてこの家に来たんだ! おまわりさーん! ここに不法侵入している人がいます! 捕まえてください!」


「コラ! 翼! 自分の母さんになる人になんてことを言うんだ!」


「は?」


 俺は思考停止した。え? 父さんの再婚相手って? え? いや、だってこいつまだ18歳になったばかりよ。え? そんな相手と結婚するの?


「木嶋 沙友里 改めて、神藤しんどう 沙友里です。よろしくお願いします」


「いやいやいや。冗談だろ?」


 本気で意味が分からない。なんで?


「冗談じゃないぞ翼。父さんは沙友里さんと結婚することになった。婚姻届けも昨日提出してきた」


「いやいや! 頭おかしいだろ! 父さん! 考えてみてくれ。息子と同い年の女に手を出すってどういうことかわかってんのか!」


「18歳以上はセーフだから! もう自由恋愛してもいいから!」


「18歳以上でもまだ高校生だよ! 限りなくアウトに近いセーフだよ!」


「セーフなら良いではないか! 良いではないか!」


 なんだこの親父。今まで尊敬してたけど、一気に生ごみに見えてきたぞ。


「大体にして、沙友里! お前もお前だぞ!」


「こら、翼ちゃん。お母さんを呼び捨てにするんじゃありません」


「お前はちゃん付けするなよ!」


 本気で意味が分からない。なんで母親面してんの? 同い年だよ俺ら。


「はあ……んで、沙友里」


「お母さんって呼びなさい。もしくはママでもいいでちゅよ」


「死ね」


「こら! 翼! 母親に向かってなんて口の利き方するんだ!」


「仕方ないですよ。お父さん。翼は反抗期なんですから」


「もう話が進まない! ってか、なんで俺の父さんと結婚してんだよ!」


「はあ……その質問?」


 なんでお前が呆れてんの! 呆れたいのこっちなんだけど。


「いい? 私は翼が好きだった。ここまではわかる?」


「ん? ああ。昨日言ってたからな」


「それで私は翼に振られた」


「うん」


「だから翼のお父さんと結婚することにしたの」


「だから、じゃねーよ! 前後がなにも繋がってねーよハゲ!」


 もうわけわかんねーよ。この女、頭にチンアナゴが沸いてんじゃねえのか?


「いい? 翼。翼とお父さんは遺伝子的には50%同じなのよ! 十の位を四捨五入したら、100%同じだよ。これは翼と結婚すると言ってもいいよね!?」


「その理屈なら100%別人だろうが! 超理論やめろ!」


 なんなんだこの女は。意味わからない通り越して、感動すら覚えて来たぞ。


「翼……とにかく、沙友里さんは正式にお前の母親になったのだ。法律的にな。だから認めろ。それが法治国家に住むものの末路だ」


「ふざけるなよ! 法律が認めても俺が認めねえよ!」


「翼! 言うことを聞きなさい!」


 父さんが俺に怒鳴った。今まで俺を叱ったことがない父さん。なのに、初めて怒られた。こんなくだらないことで怒られた。俺はショックで涙がでてきそうだった。


 俺は段々腹が立ってきた。相手がちゃんとした相手ならいい。だけど、こんな沙友里と結婚するなんて母さんが天国で泣いているに違いない。


「認めてたまるか! 俺の母さんはな! 一人しかいないんだよ!」


「いやー。照れるなあ」


「いや。お前じゃねえよ!」


 俺はもうキレた。こうなったらこっちも奥の手を使うしかない。


「父さん。言ってなかったけど、実は俺も結婚してたんだ」


「なぬ! なぜ父さんに言わなかったんだ」


「相手が相手だから言えるわけねーよ……」


「ちょっと、どこの女よそれ! お母さん、認めないからね!」


「残念だったな。婚姻届けは昨日出している。正式に法律で夫婦と認められてんだよ。ちょっと今から呼び出すから待ってて」


 俺は電話で嫁を呼び出した。こんなこともあろうかと思って事前に結婚しておいてよかった。


 しばらく待っていると嫁が到着した。


「はーい。こんにちはー」


 おっとりしたその声は相変わらず癒される。俺の好きな年上の彼女。その姿を見た沙友里が顔を青くしている。


「な、なんで……なんでお母さんがここにいるの!」


「なんでって翼君と結婚したからに決まってるじゃない」


「残念だったな、沙友里。お前は俺の母親になったつもりだったけれど、実は俺はお前の父親だったんだよ」


 勝った! こいつはもう俺の娘になったんだ! 父親権限でシメてやる!


「は! 認めないし! アンタが父親だって絶対認めないから!」


「こら! 沙友里! お父さんになんて口をきくの!」


「いや、待って。翼は私の息子だよ」


「いや、俺はお前の父親だよ」


「「「「えっ」」」」


「いや、だからお前の息子は俺で、お前の父親で。お前は娘で、お前は母親で……」


「ちょっと待って。私は翼の母親で、私は翼の娘で。翼は私の父親で、翼は私の息子で……」


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