第20話 プライドのない主人公2

 俺は昨日のこと思い出しながら改めて香澄に頭を下げた。


「頼む!!!香澄しかいないんだ!」


「な、なに言ってるのよ!ま、紛らわしい言い方しないでよ!てか、光希の方が頭いいじゃない!?」


 香澄はなぜか俺の言葉に顔を真っ赤にして怒りだした……そして香澄からしたら当然の疑問を問いかけてきた。

 そりゃそうだろう、俺の方が香澄よりテストの結果は良いのだ。自分より上の奴に教えれることなんてないと思うのも当然だ。


「神崎に勝つためには今まで以上に勉強をする必要があるんだ!だけど俺の力だけじゃ、ただ単に勉強量増やして、体調崩して試合終了の結果が見えてるんだよ!その結果を打開するためにも香澄の力が必要なんだ!」


 だから俺はしっかりと考えがあって香澄に協力を求めていることを伝えた……のだか、香澄は最初、目を丸くして心底驚いた表情を浮かべ、そして直ぐに目を潤ませ、心底感激した様子で声を漏らした。


「あ、あんた……ようやく自分を客観的に見れるようになったのね……あたしは嬉しいわ」


「おい、お前絶対に俺のことバカにしてるだろ」


 香澄が我が子の成長を見守るような視線をしてきたので俺は少しイラッとしてしまった。ったく俺をなんだと思ってるんだ。


「取り敢えずあんたの言い分は分かったわよ。でも、神崎という共通の敵がいるとはいえ、あたしたちも一応敵同士でしょう?」


「だからこうして頭を下げてるんだ!頼む!香澄も俺のこと応援してくれてただろ!?」


「うっ、た、確かにそうだけど……」


「もちろん俺も香澄に勉強を教えるし、香澄の言うことなら何でも聞く!だからお願いだ!」


「……」


 俺にはこうやって誠心誠意頼むことしか出来ない。お互いが勉強を教え合うこと事態、お互いの学力向上という面で見れば悪い話ではないことは香澄も分かっているはずだ。

 だが、これまで競い合ってきた関係上、どうしてもプライドが邪魔してしまうのだろう。

 それは分かる。俺ももし神崎が現れなかったら、勉強を教えるなんて考えもしなかったと思う。

 まあ、今の俺のプライドなんてものは、昨日学校中に宣言してしまった時に捨ててきたからな。

 話が脱線してしまったが、香澄が如何に自分の中のプライドに折り合いをつけれるかにかかっている。もちろん、無理だったら潔く諦めるつもりだ。流石に嫌がることを無理強いしたくない。その場合はまた一から作戦を練る必要があるが……。


「はぁ~、わかったわよ、神崎に勝つまでの間だからね」


「本当か!?助かるよ、香澄!」


 香澄は長い沈黙の後、ため息をつき、呆れながらも了承してくれた。俺は正直なところ半分諦めていたので、香澄の返答には一瞬驚いたが、気持ちを切り替えてすぐさまお礼を伝えた。

 香澄の奴、なんだかんだ言いつつも結局はやってくれるから本当良い奴だな、と感激していたら、


「た、だ、し!さっき言ったことはちゃんと守ってよね」


 と香澄が俺が言ったことに対して念を押してきた。


「あ、ああ。わかってるさ」


 もちろん、俺の勉強方法の全て教えるつもりだし、香澄の言うことも何でも聞くつもりだ。何故今更念押す必要があるんだ?

 はは~ん、さては早速俺をパシらせるつもりだな。やれやれ、しょうがない奴だ。部活で鍛えた足を見せてやるかと俺は意気込んでいたが、香澄は俺の予想を上回ることを言ってきた。


「なら良いのよ、じゃああんたは神崎を倒すまであたしの奴隷ってことね」


「……へ?」


「神崎倒すまで何でも言うこと聞くって言ったじゃない、なによ今更」


 確かに俺が「何でも言うこと聞く」と言った後に、香澄が「神崎を倒すまで」って言ったからそう捉えられてもしょうがないと言えるが……


「あの~、香澄様。それは言葉の綾と申しますか、なんと申しますか……」


「男に二言は!?」


「あ、ありません!」


 香澄の有無を言わせない発言に俺は抗うことが出来なかった。さっきの良い奴だな発言は撤回だ。やっぱり香澄は香澄だったと改めて感じたのであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「で、あんたいつが空いているの?」


 早速香澄が、具体的な勉強会の日程を決めようと俺の予定を確認してきた。


「テスト前までは部活の練習があるから平日はきついな。だから休日とかにお願いしたいんだが大丈夫か?」


「部活って、あんたねぇ~、部活やりながらテストで神崎に勝てる程、神崎は甘くないわよ?せめてテストで勝ってから部活に専念するとかの方が良いんじゃない?」


「分かってる。でも、神崎だって両方やってるだろ?それに俺はお前の力を借りるんだ。せめて戦う条件ぐらいは一緒にしときたいんだ」


 我儘を言っているのは分かってる。しかし、そこまでしないと神崎やみんなに認められるなんて夢のまた夢だ。


「光希……。ったく、しょうがないわね。最後まで付き合ってあげるわよ」


「すまん、迷惑かける」


 香澄は呆れながらも、俺の意図をくみ取ってくれた。そんな香澄に俺は感謝するしかなかった。


「引き受けたからには責任は持つわ。取り合えず明日とかどう?」


「その日は一日大丈夫だ。場所はどこにする?勉強できるところとなると、図書館とかになるか?」


「そうね。草薙駅前の図書館にしましょう。あそこは確か朝9時からやってるから、朝9時に草薙駅集合でいいわね?」


「わかった。一応なんかあった時の為に連絡先を交換しておくか」


「れ、れ、連絡先!?そ、そうよね!必要よね!レイン確認するからちょっと待ちなさい!」


 勉強会の日時と場所は順調に決まっていったが、途中連絡先交換の話になったあたりから、香澄が顔を赤くして急に慌て始めた。スマホを取り出して慌てて操作している。連絡先交換を仕方を忘れてしまったのだろうか?

 ふふっ、しょうがない奴だな、俺が手本を見せてやる、と思いながら慌てている香澄を横目に俺はペンを走らせた。


「はいっ!こ、これがあたしのQRコードだからっ!ありがたく読み込みこみなさいよねっ」


「?なんだこれ?、それよりこれが俺の連絡先だ」


 俺が自信満々に連絡先を渡すと香澄が驚きながら俺に詰め寄った。


「なによ、この紙は?……って電話番号を手書きで交換って今時あり得ないわよっ!レインは!?」


「レイン……?ああ、あれか、レインの方が良いのか?」


「てか、今時の連絡手段はレインが主流よ。あんた本当に現代人?」


「なんだと……!でも、電話の方が早いからいいだろ!?」


「チャット機能のあるレインの方が便利でしょ!?後、いきなり電話は恥ずかし過ぎるし…」


 最後の方が聞き取れなかったが、確かにレインのチャット機能は便利だ。自分の確認したいタイミングで見れる。電話だとそうはいかないからな。

 しかし俺をレインでの連絡先交換方法を知らない。その旨を香澄に伝えると、


「はぁ~、ちょっと貸しなさいよ」


 と呆れながらも香澄はそう言って俺からスマホを受け取るとテキパキとレインで連絡先交換をしてくれた。途中「ったく、あたしのドキドキ返しなさいよ。普通連絡先交換するときは、連絡届いた?とか言い合って盛り上がるところなのに、何一人で連絡先交換してるんだろ……」というつぶやきが聞こえた気がした。


「あたしの連絡先登録しといたから。明日なにかあったらレインで連絡してよね」


「ありがとう。わかった」


「じゃあ、明日よろしくね」


 そういって香澄は一足先に教室に戻っていった。

そして俺は、打倒神崎に一歩近づいたこと安心したのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

主人公になりたい!~主人公に憧れた凡人が本物の主人公を倒すまで~ 宮本武蔵 @miya-k

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ