共闘する主人公
第19話 プライドのない主人公1
とある日の昼下がり、人気のない階段の踊り場である男の叫び声がこだまする。
「頼む!!!俺に勉強を教えてくれ!!!」
その男はそれはそれは見事な土下座をしていた。
背筋はしっかり伸ばし、おでこは床にこすり付け、完全に相手に対して平伏している状態だ。そんな見事な土下座をするとは、その男はプライドがないのだろうか。
一方でその男を見下ろす女性がいた。その女性、いや少女と言ったほうが良いだろうか。その少女は階段を半分ぐらい上ったところ腰掛け、膝を組んでいる。
「絶対に嫌よ!!!」
その少女は男のお願いを頑なに拒絶していた。大の男が土下座までしているのに何故そこまで拒絶するのだろうか。
それは、その男女二人が佐藤光希と柊香澄だからであろう。
佐藤光希は思う。
(くっ、やはりダメか……そりゃそうだ、ライバルに手の内を明かす奴なんているわけがないか)
柊香澄は思う。
(なんで、あたしが光希に勉強教えなきゃいけないのよ、光希の方が頭いいのに。ま、まさかあたしへの当てつけのつもり!?)
そうー二人はライバル同士だったのだ。
二人はテストの度競い合っており、テストの結果はお互いに五分五分。若干佐藤光希に軍配があるような関係なのだ。佐藤光希の方が優位にもかかわらず柊香澄に勉強の教えを乞う。柊香澄に当てつけだと思われても仕方がないだろう。
しかし、佐藤光希には引くに引けない思いがあったのだ。
時は前日の夜まで遡る。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺は一人ベットの上で悶えていた。
ー俺はっ!佐藤光希はっ!神崎隼人から学年一位もエースも必ず取り戻す!そして、お前らに俺の事を認めさせてやる!見てろよ、お前ら!俺のこれからの活躍を!俺の物語を!ー
ああっ、何てことを言ってしまったんだ…。
なんだよ、あの宣言は。恥ずかし過ぎるだろ。なんだよ、認めさせてやるって。上から目線過ぎるだろ。なんだよ、俺の物語って。意味分からんだろ。
そうーー俺は今日のことを思い出して一人悶えていたのだ。そりゃそうだ、普段は落ち着いていて、どちらかというとクール系のキャラだった俺があんなこと言ってしまったんだ。恥ずかしがるなという方が無理がある。まあ、クール系キャラは俺が勝手に思ってるだけかも知れないが。
……
ああっ、俺のイメージが……。
俺の今まで積み上げてきたものが……。
と、また悶えはじめたところでふと思い出した。
ー嫌いな奴は好きにさせてやる!俺の物語を創っていく中で虜にしてやるよ!ー
そうだ、周りなんて関係ない。
嫌いなら好きにさせてやるって決めたじゃないか。なのに何で悶えているんだ。悶える必要なんかない。自信持って堂々としていればいいんだ。
そう思うと何とか落ち着くことが出来た。
取り敢えず今日のことは黒歴史になるなと思いながら思考を切り替える。
神崎を倒すと宣言したがどうしたもんか……。
今俺の頭を悩ませる一番の問題だった。
あの神崎だ。テストでほぼ満点、運動神経抜群で豪速球を投げる神崎だ。そんな直ぐに思い付くわけがなかった。
俺は一先ず、直近で神崎と勝負出来る可能性のある学校行事を洗い出すことにした。
今は五月下旬。
先週に二年最初の中間テストが終わったところだ。となるとだ、直近だと六月下旬にある期末テストと野球部で夏の大会前に毎年行うレギュラーメンバーvsそれ以外のメンバーでの試合だ。他だと、体育祭や文化祭、生徒会選挙等あるが、まだ先なので取り敢えず先に挙げた二つに絞って対策を練る必要がある。
野球に関しては正直俺一人じゃどうしようもないので、後で松浦に相談することにした。
そうなると、期末テストの対策を考える必要があるのだが、どうしたものか。
今まで以上に勉強量を増やすことは簡単だ。しかし、それで体を壊して負けましたじゃ洒落にならん。沙耶姉も心配するしな。
となると、勉強量増やすこと以外で対策する必要がある。
悩んだ俺はスマホで「テスト いい点 取り方」で検索してみた。正直俺はあまりスマホとか使用しない。だが、俺一人では思い付かなかったので藁にも縋る思いで使用してみたのだ。
テストで良い点を取る10のやり方
東大受験一発合格の現役大学生が実践した勉強方法
テスト勉強完全マニュアル
……
などなど
俺はあまりの情報量の多さに目を回してしまう。
そうーー俺はこういったものに疎いのだ。スマホも電話とかチャットといった必要最低限のものしか使用していない。前に沙耶姉にレインというアプリを入れてもらうまではチャットもしたことなかった。そんな俺が検索機能を使ってみたのだ。目を回してしまうのも許してほしい。
しかし、それでも試行錯誤しながら調べていくと気になることが書かれている記事を見つけた。その記事は簡単に言うと頭のいい人の勉強方法を真似しろというものだった。他に記事は沢山あったが、塾に誘導する内容だったりした為これに目を付けたのだ。
俺が真っ先に思い浮かんだのは神崎だったが、これから勝負を挑む相手に教えて貰うとかあり得ないと思い除外した。そうなると、次に思い付いたのは香澄だったが、正直香澄も神崎と似たような理由で除外する必要がある。結局誰もいないじゃないか、と更に頭を悩ませていると
ーあたしは信じてるわ。佐藤は絶対に神崎に勝つってー
ーあたしにさ、見せてよ。佐藤の創り出す物語をー
と柊が言っていたことを思い出した。
俺は思考を走らせる。
香澄とはライバル関係ではあるが、一応香澄は俺のことを応援している、はずだ。なら、一か八かで頼んでみるのもいいのでは……。
正直、神崎を絶対に倒すと意気込んでいるのに、若干賭け要素が入るのには気が引けるが、もうこれしかない。
香澄、お前は俺を焚き付けたんだ、巻き込ませてもらうぞ…。
そう思いながら俺は一人不敵な笑みを浮かべた。くくく、と俺の静かな笑い声が静かな夜にとけて消えていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして時は冒頭に戻るのであった。
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