第18話 後日談
俺が盛大にやらかした日の昼休憩中。
俺と柊は屋上に続く階段の前でひっそりとお昼ご飯を食べていた。
この場所は俺が前に周りからの視線に耐えられずに授業をサボった時に見つけた場所だ。屋上に入れないため、まず誰もここに来ることは無い。正直見つけた時は屋上に入れずイラっとしたが、ある意味そのおかげでここには人が来ない。だから人目を避けるにはもってこいの場所なのだ。
柊はお昼ご飯のサンドウィッチをリスみたいに頬張りながら俺に話しかけてきた。
「あんたさ~」
「ん、なんだよ」
「今日のこと学校中に広まってるわよ」
「みたいだな」
だからこうしてひっそりとお昼ご飯を食べているわけだ。俺が神崎やクラスメイトに宣言してから噂が広まるのはあっという間だった。元々、俺と神崎どちらが優れているか話題に上がることが多かったらしいし、中間テストや部活で神崎に負けたのがついこの間のことだ。そのことに加えて今回の件だ、噂があっという間に広ろがるのも無理はない。
そのせいで休憩時間になると、学校中から俺を一目見ようと教室に野次馬たちがやってくるのだ。
俺はそんな様子に鬱陶しさを感じて、落ち着ける場所に避難してここにきた。柊も着いてきたのは想定外だったがな。
「あんなこと言って大丈夫なわけ?」
「なんだよ、心配してくれてるのか?」
「な、なわけないでしょ!あんたと一緒にいるとあたしまで睨まれるんだからねっ!?」
一緒にか…。
思わす俺は柊の言ったことに対して笑みをこぼしてしまう。柊の奴、無意識で言ったのか分からないが、暗に一緒にいてくれると言ってるようなものだ。俺は嬉しくなり、笑いながら柊にお礼を言った。
「ははっ、分かってるって……ありがとな」
「な、なんか勘違いしていない!?だから違うんだからね!」
柊が顔を真っ赤にしてポカポカと俺を叩いてくるが気にならなかった。
そして俺は、先ほどの質問に真剣に答えた。
「大丈夫だ、俺は一人じゃないからな」
「佐藤……」
そうだ、俺には俺は信じてくれる人がいる。目の前にいる柊もその一人だ。
急に真面目なことを言ったため柊の手が止まった。良かった……徐々に俺を叩く威力が上がっていたため、これ以上やられると笑い事じゃなくなっていた。決して話を逸らすために真面目なこと言ったわけでないが結果オーライだ。
「それよりさ、柊って中間テストで俺に追いついただろ?」
「あ、あんた覚えてたの?」
ちょっとシリアスな雰囲気になったので、話を変えるべくこの前のテストの話した。柊は俺が覚えていたことに驚いたのか、目を丸くして俺の事を見上げた。
「ああ、前は伝えられなかったから今伝えておくわ。おめでとう、やっぱ柊は凄い奴だ」
「----」
あの時は自分の事でいっぱいいっぱいだったので無理だったが、ようやく伝えられて良かった。
俺は柊のこととっくの前から認めている、そんな意味を込めて伝えた。
柊は、最初驚いた表情をしていたが、徐々に目が潤み、歯を食いしばって、涙を耐えていた。そして最後には俯いてしまった。
俺は驚いて「大丈夫か?」と声を掛けたが「うっさい、ちょっと待ってなさい」と一蹴されてしまったので、暫く柊が落ち着くのを待つことにした。
柊が落ち着いたのを見計らって俺はある提案をした。
「引き分けだったけど、今回は柊に迷惑かけたからな。柊の言うこと何でも聞いてやるよ」
「え、いいわよ、そんなの……」
「遠慮するなって、何でもパシってくるぞ。柊、甘いもの好きだったよな?駅前に新しくできたケーキ屋の……」
「じゃ、じゃあさっ!あ、あんたのこと……こ、光希って呼んでいい?」
「へ?」
想定外の命令に俺は面を食らってしまった。てっきり今までの仕返しにあり得ないほどの無理難題を押し付けられるかと思っていたが、まさかの名前呼びとは……
「あ、あんたの佐藤って苗字多すぎるのよ!周りの人が勘違いしちゃうでしょ!だからこれからは光希って呼ばせてもらうからね!」
「あ、ああ、そ、そうだな」
「~~~っ」
柊は最後には顔を真っ赤にしてぷいっと後ろ向いてしまう。確かに、佐藤という苗字は学校に沢山いる。が、同じクラスにはいないので正直勘違いすることは無いと思うのだが……
まあ、正直俺は全然かまわないのだが、そんな命令でいいのかと思っていた。そう思ってると俺はふと、良いことを思いついた。
「そうだ、引き分けなんだからこっちの言うことも聞いてもらうか」
「は、はぁ!?なによそれ!?聞いてないわ!」
「今思い付いたんだからしょうがないだろ?」
「思い付きで命令されるこっちの身になってよ!?」
柊は俺からの急な命令に先ほどまでの態度から一変して身構えている。俺が言えた義理ではないが、今日の柊、泣いたり怒ったりと大変だな~と場違いなこと思いながら命令を伝えた。
「香澄」
「へ?」
「俺も柊のこと香澄って呼ばせてもらうぞ、いいか?」
「え、あ、その、あの、えっと……はい」
柊、いや香澄は俺からの名前呼びに急にしおらしくなっていった。俺は前から違和感を感じていたのだ。香澄とは一年以上ライバルとして競い合ってきて、お互い認めあっているのに関わらず、どこかよそよそしさを感じることに。
今回の件で、香澄に助けられたし、香澄が俺の事を認めて信じてることも分かったのだ。香澄と今まで以上の関係になりたいと思うのは必然だろう。
だから香澄の名前呼びの命令が良い切っ掛けなると思い、俺も乗っかることにしたのだ。
「決まりだな、じゃあ改めて……これからもよろしくな香澄」
「っ!……しょうがないわね、これからもよろしくしてあげるわ光希」
最初は戸惑っていた香澄だったが、俺の呼びかけに我に返ったのか、いつもの調子で答えてくれた。
俺は香澄に見捨てられないように頑張らなければなと改めて思ったのであった。
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