第45話 『やっと見えてきた』
――――遥か彼方の山から朝日が登る。モノトーンだった山々がじわじわと色づき、俺の周りの木々もどこか明るげに染まってゆく。頬をなでる朝の清涼な風。どこかから聞こえる小鳥のさえずり。
そう、俺の人生初めての野宿が朝を迎えたのだ。
遠い昔の油絵にでも出てきそうなそんな情景の中で、俺はというと……
「あーーーマジで疲れた!夜長えよ!つか太陽って眩しくね!?風寒いし鳥うるせぇ!野宿とかマジでクソだな!」
――――――文句たらたらだった。
いや、これは仕方ない。マジで疲れた。そもそも一日歩きづめの後野宿とか言うのが馬鹿げてるんだよ。馬車が壊れる事態なんて普通ないからな。
「この洞窟寒いしさあ……」
壁にポツポツと苔の付いた狭い洞窟の中、俺の声が反響する。石の地面は冷たく、一晩中俺の体温を奪っていた。
「ま、こんな場所ともこれでおさらばだ。距離的にそろそろ王都に着くだろうし…………え?着くよな?」
俺は脳内文句大会を開催しながら荷物を片付けてカバンを背負い、洞窟を出た。ふと足元を見ると、小さな羽虫の死骸が転がっていた。昨夜の事件を思い出し、眉をひそめる。
そう、昨夜偶然いい感じの洞窟を見つけられたのは運が良かったけど、問題はマジでそっからだった。魔物除けはしていたとはいえ結局野生動物には気を使わなきゃいけないし、虫は湧くし、寒いし、お腹は空くし、喉は乾くし……。こんなことなら、予め『建築』スキルでも借りておけば良かったかもしれない。盗賊からはなんとか逃げ切れたんじゃないかな。知らんけど。
「よし、行くか」
盗賊を過小評価しつつ、俺はまた獣道を歩き出した。体感距離的にはそろそろ王都に辿り着いてもいい頃だ。何度もそう自分に言い聞かせる。
ここで俺は歩きながらストレージを確認した。昨夜気づいたのだが、ストレージ操作に手は必要ない。視線だけで画面を動かせるし、アイテムも取り出せる。
「無駄な機能ばっか増えてくんだな……」
俺はストレージ内容を見ながらぼやいた。
【所持品 トカゲ(死体)】
「トカゲ、ねぇ……いざとなったら食うかな」
昨晩、せめて何か役立つものをと思ったが、トカゲしか入れられるものがなかったのだ。あの時の絶望といったらもう言葉では言い表せない。ため息をつきつつ、俺は歩みを進める。
ふと俺は道脇に目を留めた。
「おっ、食べれるやつだ」
俺はそう言うやいなや黄色い葉の草を引っこ抜いた。山歩き数日も経つと、俺の目も植物の区別がつくようになっていた。この草はそのまま食べると苦いけど、外の皮を剥いてやれば美味いんだよな。
「って、俺は何を学んでんだ!?王立学校行く前にこんな無駄な知識つけてられねえよ」
ぶつくさと文句を言いながらまた歩く。
すると、遠くに何か見えたような気がした。
外れEランクスキル「ストレージ収納」で美少女魔王と世界征服 名取有無 @mymtttsk
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