落蟲流水

作者 名取有無

37

14人が評価しました

★で称える

レビューを書く

★★★ Excellent!!!

主人公は社会の輪から弾かれたくなくて、必死に「普通」の人間の真似をする。しかし心の根っこの部分は変えられず、他人に関心がなく、他者を人間として敬意を払うことができない。

うじゃうじゃした虫が苦手なので、リアルな描写に血の気が引きました。

終始、不思議な世界観でした。

★★★ Excellent!!!

 素晴らしいと思いました。思想や考察、それらを支える文章力に構成、演出、文句ありません。

 以下、ぼくの感想を書くため、内容に触れざるを得ないと思います。ネタバレ等は気をつけますが、読んでいない方は緊急回避願います。




 隠キャラとは何か。陽キャラとは何か。あくまでこの物語の中で、隠キャラとは、陽キャラの存在を認知し対比として自らの位置を認識する性質を持つ者である、と感じました。つまり、自分の評価を周囲との比較に依存してしまう人間のことです。この意味で外面的に陽キャラの資格を満たしたとしても、この性質を持つ以上、永久に陽キャラになることができないのです。真実の陽キャラは自分が陽キャラであるという自覚を必要とせずに陽キャラなのですから。
 これは人間に固有な孤独に通ずるものがあります。人は誰しも完全に孤独です。孤独の点で差異はありません。差異は孤独を自覚しているか否かにあるのだと思います。孤独を誤魔化し得るか否か、盲目的に孤独を否定できるか否か、隠キャラと陽キャラの差異もまた、ここにあるのではないでしょうか。
 主人公は陽キャラの資格を満たすために恋人を求めます。獲得した恋人は主人公と目的を同一にする者であり、恋人と主人公の関係は他者と自分の関係ではなく、自分ともう一人の自分の関係なのです。
 恋人は、こうなりたい自分、こうでありたい自分の象徴としての存在であり、彼が執拗に執着する理由はここにあります。
 恋人が死に至ったのは、陽キャラ、という理想の虚像が限界に達したからであり、死んだ恋人の意味するところは彼自身の虚偽や欺瞞の露呈なのです。理想像はおそらく二人が出会った瞬間に腐り始めていたのでしょう。
 謎の男が突きつけた愛とは、恋人に対する愛ではありません。上記の理屈より、陽キャラになりたいと醜く浅ましいエゴを持ち、体のうちにはおぞましい蟲を飼う、おそらくは主人公… 続きを読む