宅配

あかりんりん

宅配

僕は子供達と家で遊んでいるとインターフォンが鳴った。

Amazonの宅配だった。


何気無くAmazonの箱を開けてみると中身はボイスレコーダーだった。

もちろん僕は発注した覚えは無い。

では妻が発注したのだろう。

妻は今、乳飲み子と寝室でお昼寝だ。


ふと僕は、このボイスレコーダーは何に使うのだろうかと考えた。


だが何も思いつかない。


仕方無くネットで「ボイスレコーダーの活用法」を検索した。


便利な時代になったものだ。

なんでも簡単に調べられる。


例えば昔クリア出来なかったスーパーファミコンのゲームなども、今では攻略サイトがほとんど有る。

昔は攻略本を書店で探して、記憶するまで読み込んだものだ。

例えばドラゴンクエスト、通称ドラクエの攻略本の「エッチなしたぎ」を装備したキャラクターのイラストは30才を過ぎた今でも鮮明に覚えている。


人の記憶は簡単に消去する事が出来ず、ある脳科学者は

「人の記憶について、良い記憶が6割、悪い記憶が3割、どちらでもない記憶が1割」

だと言っている。


では僕の「エッチなしたぎ」のイラストはどの記憶に該当するのだろうか。

おそらくは良い記憶だが、もっと良い記憶はあるはずだ。

それとも、「エッチなしたぎ」のイラストを超える良い記憶が無い人生を過ごしてきたのだろうか。


それはなんて寂しい人生なのだろうか。


昔から友人は多く有り、仕事も変えずに中堅となって一部の後輩からは信頼され、理解のある妻と結婚して子供にも恵まれ、充実した人生を過ごしているつもりだ。


その人生よりも「エッチなしたぎ」のイラストが勝ってしまうとは、僕は病気かもしれない。


いや、病気だ。


ではいつから病気なのだろうか?

また病名はなんになるのか?


少し不安になり、僕と似たような人がいるかもしれないと期待を込めてネットで探そうとすると


「ボイスレコーダーの活用法」の検索結果が表示されていた。


これはなんだっけ?僕は一瞬戸惑った。


そうか、おそらく妻が発注したボイスレコーダーが届いたから活用方法を検索していたのか。


検索結果は以下の通りだ。

「ビジネスでの会議やセミナーの議事録、パワハラ調査など。英会話などの語学学習。楽器演奏。浮気調査。」


妻は専業主婦なので該当するのは後者の3つか。


まず英会話についてだが、僕が以前英会話教室に通っていた時の教材があるため可能性は低い。


次に楽器演奏だが、妻はフラダンスを趣味でやってはいるが、自らが演奏する素振りは無い。


では最後の浮気調査の可能性が高い訳か。


いや、結論を急ぐのは愚か者のすることだ。


だいたい浮気調査のために、僕にコッソリとボイスレコーダーを仕掛けることなど出来るだろうか?

酔った僕になら可能だろうが、シラフでは無理だろう。

それとも家に置いて家で浮気することを想定しているのか?

家には子供がいるしそれも絶対無い。


ではなぜ?


もう一度検索結果を見直した時、1つの言葉に目が止まった。


「パワハラ」


専業主婦の妻であるためビジネスは関係ないと勝手に除外してしまったが、パワハラやモラハラは家族間でも存在する。


僕のモラルが欠けていることは言うまでも無い。

だとすると妻は僕の失言を録音するために購入したのか。

可能性は有る。


「見ざる🙈。言わざる🙊。聞かざる🙉」とはよく言ったものだ。


それから僕は妻との会話の言葉を選ぶようにした。

考えて話すため、今までよりも会話のテンポが悪い。


やがてだんだん家の居心地も悪くなって外出も増えた。


今日も行き付けの店で一人で飲んでいたら、たまたま知り合ったバツ1子持ちの魅力的な女性と仲良くなり、その後も何度か一緒に飲むことになった。


僕はその女性に恋をしてしまった。

久しぶりの恋だった。


でも自分の気持ちにウソはつけない。


思い切って告白した。


彼女は笑って「ありがとう」とだけ言った。


それから数日経ったある日、

妻「離婚届を用意したから、ここに署名して」


僕「なぜ?」


離婚届の隣には見たことがあるボイスレコーダーが置いてあった。

妻は何も言わずにボイスレコーダーの再生ボタンを押した。

そこにはあの日の僕の告白が録音されていた。


そうか、僕にボイスレコーダーを仕掛ける訳では無く、相手側に持ってもらえば良いのか。

だとすると僕が恋をしたあの女性は妻の知り合いか。

すべて妻の計算通りだったと言うことか。


僕は思った。


今はなんでも簡単に調べられ、人の言葉も簡単に保存することが出来る良い時代になったものだ。


だが、そのせいで僕は大切なものを失ってしまった。


「エッチなしたぎ」のイラストを忘れる事が出来ない残念な僕は、泣きながら離婚届に署名した。




以上です。

読んでいただきどうもありがとうございました。

ちなみに、最初にこれを読んでくれた妻の感想は

「Amazon勝手に開けないで」である。

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宅配 あかりんりん @akarin9080

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