君が望むのなら

広田 スイ

第1章 春

恋とは、キラキラしていて輝いていて、好きな人がいるだけで幸せで一緒に笑え合えたりなんかしたらもっと幸せで、でも時には醜く残酷なものだと知識として知っている。

僕は恋をした事がない。生まれてから今まで、16年間。友達には恵まれていたし告白されることもあった。なんとなく付き合ってみたりもしたけど、やっぱり恋は分からないものだった。

そんな僕は今日高校の入学式に来ている。新しい制服に着られてる感は否めないが念願のブレザーなので数ヶ月で着こなしてみせようと思う。校庭では新入生達がこれからの高校生活に意気揚々とし、交流したり家族と写真を撮ったりしている。

「健人、入学式の受付終わらせたか?」

「あー、まだ。体育館に行けばいいんだっけ?」

「入り口でやってるからさっさと済ませて来いよ。和泉達もう終わらせて待ってんぞ。」

「おー。ちょっと待ってて。」

「ほんと、危機感がないというかマイペースというか…。」

1人桜を見ていた僕に話しかけてきたのは、幼馴染の林田夏希。僕とは正反対の性格でめちゃくちゃ世話焼きでオカンみたいな存在だ。

体育館に向かうと、在校生の先輩達が数人で受付をしていた。僕は空いていた所へ向かう。

「入学おめでとう。中学校名と名前を教えてくれるかな?」

受付してくれたのは一言で言うと綺麗な女の人だった。

「明野中学、相田健人です。」

「明野の相田くん…、はい確認オッケーです。1年C組だね。じゃあ先輩からこれをプレゼントしよう。」

そう言って先輩が付けてくれたのは桜で作られたブローチだった。

「高校3年間、楽しく過ごしてね。」

「ありがとうございます。」

先輩と手を振り合って僕は体育館を出て校庭へ向かう。が、校庭へ向かったつもりがさっきとは違う場所に出てきてしまった。校庭と同じ様に桜の木が植えられているが、ここが校庭でないことは一目瞭然だ。人がいない。夏希いわく、僕は極度の方向音痴らしい。1人辺りを見回すと桜の木と木の間に隠れる様に人がいた。とりあえず校庭に出て夏希達と合流したいので、僕はその人に話しかけた。

「あの…ここから校庭って…。」

話しかけて振り向いたその人があまりにも綺麗で、僕は言葉が途絶えた。その人は白衣に黒縁の眼鏡を掛けていて、背は僕より10センチほど高かった。

「そのブローチ、新入生か?体育館はこっちじゃないぞ。」

普通の男の人より少し高い、顔も少し幼げなその人は僕をジッと見た後少し笑った。

「やっぱり制服に着られてるな。君みたいな子の成長が楽しみだよ。ほら、体育館はここを真っ直ぐ行って右に曲がればあるから。もう入学式始まるぞ。」

「あ、はい。」

手を振るその人を後ろ目に見ながら、僕は体育館へと向かった。桜が散る小さな中庭で出会ったその人が頭から離れなくて、僕は皆とは違ったドキドキを抱えながら入学式に参加した。

その人と再会するのはそう遠い話ではない。

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