第7話 崇継、初めてのお使いに行く

「あら、まぁ」




 流石に元転移者と言えど中途半端に魔物化している澪を伴い、現在レィティの家に厄介にはなれないと「世話になった」と理由と滞在費をいくばくか置いていこうとしたのだが。




 目の前にはエルフらしからぬ体躯の持ち主と、縮こまったままの澪の姿。




 はらはらしながらそれを見守っているしか無くて。




「……別に人を襲う訳じゃないし、角は布で隠せばいいし肌色だって似たような人はいるわ」


「それって」




 ひとしきり澪を見たレィティから出た言葉。




「幸い部屋は余ってるくらいなのよねぇ、タカツグ達が居てくれたら何かと楽だしせっかくにぎやかになっていて楽しくなってるのに、出ていくなんて寂しいわ」


「でも、これ以上甘える訳には」


「何言ってるのよ、水臭い」




 何で、と思う。何でここまでしてくれるのだろう。




「貴方は一度変わりたいと望んだんでしょう?何もかもどうでもいいって思えた人生、変えたいって」


なら


「変えちゃいなさいよ、そういうの私好きだわ」




 わしわしと、頭を撫でられながら自分より高い身長のレィティを見上げる。




「私だって毎日同じことの繰り返しが耐えられなくて、エルフの里を出て来たの……何かをしたくて、変えたくて」


だから


「大した力にはなれないけど、変えちゃいましょ…勿論ミオ貴女も一緒に、ね」




 ぽろぽろと、見開かれた澪の大きな目から涙がこぼれ落ちていく。




「いいの?だって僕…‥崇継達襲おうとしたんだよ」


「未遂でしょ?今は一緒にいる、仲間だわ」




 と、云う事でなんだかんだと引き続きレィティの家に滞在する事になり。




「ただいま、帰りました」




 ドアが開き、聞き覚えがあるが見覚えが無い美女の姿が現れた。




「え、誰?」


「ミルフィですよ、タカツグ様」


「へ?」




 面影はある、だけど。身長も伸び身体つきもこう曲線が…。




「女の子をそんな目で見ない!」


「いや、だってこんなに変わったら見ちゃうでしょ?レィティは見ないの?女の子大好きなんだろ?」


「確かに綺麗にはなったわね」


「オレダケデスカ」




 しかし改めてみても、成長したらこんなかなぁと思うほど変わっている。




「バグが生じたと言ったでしょう、パートナーとなったタカツグ様の成長が私にも影響したようです」


「俺の?」




 確かに以前の俺だったら面倒事はごめんだと、澪の事も放り出していたかもしれない。


 好き放題に魔力を使い稼ぎまくったら、遊んで暮らせるだけの報酬だって手に入る。




 だけど。




「成長……か」




 掌を一旦握り、開く。




「そんな大したことじゃない、ただ絶望してせっかく新しい世界でやり直そうとしているのに今までと同じじゃ意味が無いって気付いたんだ」




 澪に至っては、此方にくるなりモンスター化させられそうになって…と、はたと気付く。




「なぁ、澪。お前のパートナーはお前をモンスター化しようとしたんだよな?」


「そうだよ」


「でも失敗した」




 うん、と頷く彼女にミルフィを見る。




「何が違ったんだ?ミルフィとお前の天使は」


「僕はこちらに来ても変わらないと思ったんだ、金持ちは金持ち貧乏人は所詮貧乏人だって……向こうと大して変わらないこの世界で何が出来るんだって」


だけど


「こんな姿になっても受け入れてくれる人がいるって、そう思った」


「タカツグ様、城下町に行ってみませんか?」




 それまで黙っていたミルフィが口を開く。




「城下町?」


「こちらのギルドでは大した情報もありません、大きなギルドなら多少なりとも情報もあるでしょう」


「……確かにな」




 魔族化している天使と、そうではない天使。


 そして、何かを隠しているらしいギルド。




「分かった…澪、お前はここに残れ」


「うん、このままの恰好だと崇継に迷惑かけちゃうもんね」


「そう言う意味じゃない、お前が危ないだろう」




 何があるか分からない。




「レィティ、すまないが澪を頼んだ」


「任されたわ」




 頼もしい仲間の声に背中を押され




「行こう、ミルフィ」


「はい」




 俺たちは、胸のひっかかりを確かめに城下町へと向かう事を決めた。

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至上最弱のニートがチートになったはいいけど、至上最悪で最凶の魔導士になってしまいました。 選乃ミライ @sennomirai

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