1、2、3、4、5、6、7、8、9…その次は?

ちびまるフォイ

もっとも忌むべき二桁のはじまり

二桁は呪われている。


子供は生まれてすぐに小指の1本を落とされるので

「9」から先を数えることはない。


広場では教祖が「フェスティバル」という名の粛清会が行われていた。


「おお、民よ! この男は忌まわしき数字を口にした!!

 9以上の数字はけして口にしてはならない!!」


教祖はナタを振り下ろして背信者の首を落とした。


粛清された男は外から入手したカレンダーを見せびらかし、

9月の次の月があることを言いふらして回っていたと後で知った。


「ハッピーバースデー!!」


それからしばらくして私の誕生日会が行われた。


「9歳の誕生日、おめでとうーー!」


「あ、ありがとう……」


「あれ? 嬉しくないの? 年長さんじゃない」


「そうだね……」


すでに何回も9歳の誕生日を迎えていた。

けれどこの場で9以上の年齢を名乗ることはできない。


お誕生日会が進んでいくと、誕生日の話題になった。


「そういえば、9月19日の誕生日なら○○ちゃんとも近いんじゃない?」

「あ、そうだよね~~」

「お祝いしなくちゃ」


奥からやってきたのは正真正銘の9歳の少女だった。

並ばれると明らかに自分のほうが年上であることに気付かされる。

それはみんな同じだった。


「なんか……大きくない? いろいろと」


全員が"ほんとに9歳?"と疑うような顔になった。

いたたまれなくなってその場から逃げてしまった。


「どうしよう……完全にバレちゃった……」


あの誕生日会の出席者の誰かが告げ口をしたらどうなるか。

年齢をいつわり、忌まわしき二桁になったことで処刑されてしまう。


もうここにはいられないと確信した。


荷物をまとめて出よとしたとき、友達がすでに先回りしていた。


「どこいくつもり?」


「私、ここを出る。もうここにはいられないから……」


「逃げられると思ってるの? 門の外には門番がいるのに」


「ここにいてもどうせ同じだもん! だったら逃げて処刑される方がいい!」


「処刑なんてさせない!」


「えっ……」


「黙って出ていくなんて寂しいよ。

 私達がきっと外へ連れ出してあげる」


「みんな……!」


自分と9人の仲間は協力して外を目指して進んだ。

外とを隔てる門は9個あり、それもまっすぐ直線状に並んでいる。


「おまえら! なにをしている!」


1の門の横にひかえていた門番が私達に気づく。

ひとりが飛び出して門番に捕まりに行った。


「行って! はやく!!」


次に待ち受ける2の門。

そこでもまたひとり、3の門でもまたひとり捕まっていく。


ついに最終門である9の門へとたどり着いた。

9人目の親友が門番の動きを封じるようにして捕まりに行った。


私は最後の門に手をかける。


「9人目の次の脱走者が外へ出るぞーー!!」


9つ目の門番が必死に叫んだ。けれどもう門番はいない。

門が開いて外の世界が一瞬見えたかと思ったとき、門が閉じられた。


「いけませんねぇ。外にはたくさんの忌まわしき数字があるというのに」


門を閉じたのは教祖様だった。


「教祖様教えて下さい! どうして外へ出てはダメなんですか!

 どうして二桁は呪われているんですか!」


「あなたはここから外の惨状を知らないんですよ。

 二桁を得てから人間は数字に飲まれ、数字に溺れ、

 身に余るほどの富を得るためにあらゆるものを犠牲にしたんです」


「でも……」


「それに、仮にあなたが外へ出たとしても二桁をしゃべることはできません」


「どうして!? 私は本来の年でいられるんじゃないんですか!」


「この国にいる人間には頭の中に爆弾が入っているんです。

 二桁を口で発したときそれが作動するので、あなたは二桁を話すことはできない」


「そんな……!」


「爆弾を取ろうとした男もいましたが、

 まあそれは私の手でじかに粛清しましたがね」


脳裏にはフェスティバルで首をはねられた男のイメージが浮かんだ。

この人をなんとかしないかぎり、もう自由は得られない。

追い詰められた私は最後のかけに出た。


「教祖様、反省しました……。最後にひとつだけいいですか」


「なんでも聞いてください。迷える子羊よ。汚れを払い、導くのが私の仕事です」


「この門を抜けるまでに捕まったのは、私を含めて何人ですか?」


9人の仲間と私。教祖はにこりと迷いなくその数字を答えた。



「9+1人ですね」



教祖の言葉に私の顔が凍りついた。


「私が二桁をしゃべって爆死するとでも思いましたか?

 9より先の忌まわしき数字を話すわけないでしょう?」


しょせんは子供の浅知恵に過ぎなかった。


9つの門で捕まった仲間たちも教祖の前に集められる。


「教祖様、この背信者たちどうします?

 生かしておいても教祖様を襲いかねませんよ」


「そうですねぇ。ああ、そうだ。そういえば次の"フェスティバル"に向けて育てている獣がいましたね」


「見せしめ用に襲わせるオオカミたちのことですか」


「それですそれです」


生きたまま食われる恐怖が頭を侵食していく。

私はすべての希望を捨てた。


教祖は高らかに私と9人の処分を宣言した。



「この背信者どもを猛じゅうどものエサにしてしまいなさい!」




二桁に反応した爆弾が教祖の頭を吹き飛ばした。

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