何が足りない

私の中にある一番古い記憶は海外の学校にいる記憶だ。親は来ず、一人で寮暮らしだったのを覚えている。異国の土地、まだあいうえおも覚え切れていない時だった。正確な歳や場所はすでに記憶から消えていて、覚えているのは海、そして海より冷たい大人の視線だった。

よく鼻血が出てしまう子だった。起きたら枕が血だらけ、なんてよくあることだった。自分で洗濯しようにもシャワーも一人で浴びれないような子がどうやって自分だけで生きていこうと思ったのか。周りに助けられて生きていた、と人々は思っていた。だが、私が覚えているのは大人に罵声や差別用語、同じ寮の子には抓られ、クラスメイトには蹴られていたことだけだ。当時、その国では「日本」という国は存在していないにも等しく、サッカーで日本代表チームが優勝したことで少し知名度が上がった程度だった。それなのにアジア人を意味する「イエローモンキー」などの差別的な言葉だけはしっかり広まっていて、廊下を歩くとすぐに聞こえてくるレベルだった。

愛や友情を一度も感じることなく、数年が経った。

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自我がない一般人 @ippandaigakusei

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