証言二:少女Qの秘め事

 殺人衝動というものはふとした時にやってくる。例えば、抑え切れないほどの怒りや殺意、恨みが起こった時。簡単な奴はちょっとしたことで殺人衝動が湧く。インターネットには「死ね」なんて書いて人を脅し、恐怖を与えて嘲笑う奴、妄想の中でしか人を殺せない人間が蔓延っている。だが、一体どれだけの人間がその殺人衝動に従順になるのだろうか。自ら手にかけたら後ろめたさが残るし、この素晴らしい世間というモノから欺いて生きることは不可能だと感じているから、頭の片隅では悪い事だと感じているから、殺人を犯さないのだろう。もう一つ。殺人を犯すものは、腹を刺したり、首を絞めたり、バラバラにしたり・・・いくら憎いと言っても、これは間違っている。人は頭を損傷して殺されるのが最も美しい殺され方だと思うのだ。髪の黒に赤は実に映える。髪が綺麗な人間ほどいい。それこそが至高である。しかし、勘違いしないでもらいたいのは、私は決して快楽殺人者ではない。私は、まだ人を直接的に殺したことはないが、これから先そうなってしまっても決して快楽的に殺すことはないだろう。私は、周りに危害を及ぼす人間が嫌いなわけであって、何でもかんでも殺す奴とは一緒にしないでもらいたいものだ。


 最近、自殺したいという同級生がいたから、手伝ってあげた。そうしたら、首吊る直前、死にたくないなんて言うから、無視して首に輪っかかけてきた。学校でその子が死んだと伝えられてたから、あの後死んだのだろう。今回は惜しくも首吊りだったが、今度からはちょっとした裏サイトを作って、自殺をしたい人を誘い込んでは、練習をさせてもらおう。これなら、生きたいと願う人たちを殺さずにすむでしょう?なーんて考えているとつまらない授業が終わった。全く長いったらありゃしない。あとは、帰るだけ。早く待ち合わせ場所にいかないと。自然と顔が綻んだ。


 ミーン、ミーンと蝉の鳴く声が聞こえてくる。夏のうだるような暑さは、じりじりと私の肌を焼いている。日焼け止めなんてめんどくさくて塗らないから、夏はすぐに黒くなる。あー、アイス食べたい。帰りにコンビニ寄ろうかな。

「ごめんね。こんなに暑い中待たせちゃって・・・」

うだうだ考えていると待ち人がやってきた。他校の子であるが、幼なじみってやつ。頭も良くて、可愛らしい子だ。しかし、ぼんやりしすぎているような気がする。

「いや、全然大丈夫。もうこの暑さには慣れてきたような気がする・・・暑いっ!」

「あははっ!慣れてないじゃん!」

そう言葉を交わして、二人で真夏の暑い炎天下の中を歩きだした。暑さは相変わらず私を焼いている。彼女との帰りはだいたい学校であったことを話す。

「今日は何にも嫌なことされなかった?」

「ううん。大丈夫だよ!」

 彼女は妬みからいじめられてしまっている。彼女から相談を受けて、初めて気づいたときは気づけなくて申し訳なかった。彼女の話を聞いていると、どうやらクラスの子も先生も助けてくれている感じがしない。何回かいじめっ子のもとに文句言いに行って、喧嘩になってしまったこともある。しかし、その時から彼女は私に気を遣っていじめに関する事をあんまり話さなくなってしまった。何かあってからでは遅いのだ。大けがしてしまってからでは、自殺してしまっては遅いのだ、そう、遅い。彼女は心配しすぎている私をよそに嬉しそうに話出した。

「少女Eちゃんから肝試しに誘ってくれたんだー」

思わず耳を疑った。今、少女Eって・・・

「少女Eですって?普段から嫌がらせしてくるじゃない。行くのやめたら?」

「そうだけど。ごめんねの意味を込めてって言っていたよ。それに、少女Qちゃんのことも誘っていたよ!一緒に行こうよ!」

彼女はこういう風に言っているけど、絶対裏がある。何かするつもりだ。いつもロクなことしない奴が、急にこんなことを言い出すなんて、絶対ロクなことが起きない。本当は行ってほしくないが、彼女の意志を無下にしてはいけない。

「そうだね。一緒に行こう。私も久しぶりに肝試ししたいし」

そう言うと、彼女は、ぱぁっと嬉しそうに笑った。これでよかったのかもしれない。

 暑さに耐えながら獲得したアイスは実に最高なものである。いかにもお腹を破壊しそうな不健康なフォルムだが、おいしい。彼女も嬉しそうに食べている。

「アイスおいしいねー。こんなに暑いから、余計においしく感じるね」

彼女はイチゴのアイスをよく好んで食べる。嗜好が本当に似ているのだ。おまけに性格も・・・私は、暑さで赤くなった顔がさらに赤くなったような気がした。


 彼女と別れた後、顔を綻ばせながら家までの帰路を歩いていた。私は、彼女もといい少女Pのことを思い出していた。彼女のことは幼なじみで大事な友人だ。どうしてもお節介をしてしまう。しかも少女Pは兄にひどく似ている。私が、この世で最も美しい存在だと思っている兄に。顔は似ていない、が、性格が少しひ弱で、ぼんやりしているところやイチゴアイスが好きなところ・・・とても兄に似ている。私と兄は一回り以上年が離れていたから、ただ兄にお世話をされていたけど、今は何だか逆な気がして、不思議な感覚がするし、とても懐かしく思えてくる。兄が美しく死んでしまった後も私のことを気にかけてくれて、良くしてくれた。ひ弱だけど、私が嫌がらせを受けた時も、真っ先に助けてくれた。だから、今度は私の番。くだらない気持ちで彼女を傷つける輩が許せない。それに、彼女といるとあの日のこと、兄が死んだ日のことがさらに記憶に定着していくような気がする。彼女が兄と同じような行動をとるたびに、私の本当にやるべきことを強く語りかけて、肯定しているような気がする。笑いが止まらない。だが、彼女を傷つけることはしたくない。が、ずっとずっとモヤモヤした気持ちがある。ひどく矛盾している考えだが、今の私が愉快ならそれでいい。

 

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少女達の証言 錆びた十円玉 @kamui_4869

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