あの綺麗な景色をもう一度

えーあーる

第1話

「ホームルーム始めるぞー。席につけ」

  そんなありきたりな言葉でいつも通りの生活が始まる。転校生の一人や二人来てくれたっていいのに。

「今日は転校生を紹介する。入れ。」

  マジで来た。これで美少女だったらなおよし。最悪でも女子にしてくれ。

  教室のドアが開き、美少女が入ってきた。美少女だ。正真正銘の美少女だ。髪型は、ボブ?っていうのか?ブロンドの綺麗な髪だ。見た感じ大人しめに見える。

「軽く自己紹介をしてくれ。」

「若森英奈(わかもりえな)です。好きな物は―――」

  やばい。可愛い。なんて思っているうちに彼女の自己紹介は終わっていた。

「席はあそこだ。みんな仲良くするように。」

  うん。俺の横だ。ここまではお決まり。この挨拶はミスれない。

「よろしく、俺は水月英斗(みずつきえいと)。分からないことあったらなんでも聞いてく……え?」

  彼女は泣いていた。クラスがざわめく。

「いきなり泣かすなよぉー!!」

「顔キモすぎて泣かれたんじゃね?」

  仲良い奴らがいじってくるが突っ込む気にもなれない。どうしてだ。転校生イベント失敗?俺がなにかしたのか?いやそんなはずはない。

「大丈夫?」

  聞きながら顔をあげると彼女はそこにはいなかった。後ろのドアが開いている。どうやらどこかへ行ってしまったらしい。

「水月、何やったんだー?後で謝っておけよ。」

  何もしてない。答えようと思ったが口が開かなかった。一応後で謝っておこう。

  そう思いながら一時間目が始まったが彼女は帰ってこない。早退したのか?

  そんなこんなでもう午前が終わり昼休み。

「まじでお前何やったんだよ。」

「なんもやってねえって。多分。」

  声をかけてきたのは福島海里(ふくしまかいり)。小学校からの親友だ。

「でも若森さんすげえ泣いてたぜ?もうこの世の終わりみたいな。」

  何笑ってんだ。一大事なんだよこっちは。

「俺は英斗がなんかやったと思うけどねぇ〜。」

「なんでだよ。」

「お前、覚えてないの?小学校の時隣になった女の子にちょっかいかけて泣かせたこと。好きだったんだっけ?あの子のこと。」

「覚えてねーよ。つかなんでいちいちそんなこと覚えてんだよ。」

「なんでって…うーん、面白かったから?」

 なんだこいつ。友達やめようか。

「とにかく俺は焦ってんだよ!」

「なんで?一目惚れでもした?」

「うるせー。そんなんじゃねーよ。」

 誰だって焦るだろ。あんなん。

「あやしーな。英斗がぶっきらぼうに返してくる時は図星の時だ!」

「あーもーじゃあそれでいいけどよ、どうすればいいんだろ。」

「そうだなー。土下座?」

「いやなんでだよ。そんなに俺の土下座が見たいのかよ。」

「うん、見たいね。」

 あ、そうですか。見たかったんですね。

「なんの話してるのー?」

「お、花鈴聞いてくれよ。英斗がさ―――」

 こいつは東山花鈴(とうやまかりん)。隣のクラスのマドンナ的存在だ。そして海里の彼女。爆発しろ。マドンナと付き合っている海里の顔は…察してくれ。

「英斗くんわかってないねー。」

 一通りの話を聞いて花鈴がこんなことを言った。

「それはね、、、運命の人を見つけた時の涙だよ!」

「ないな。」

「うん、ないな。」

 海里と意見が合うとは。

「せっかくフォローしたのに全面否定!?」

「あのなあ花鈴、見てないから分からないかもしれないがすっげー泣いてたんだぜ?もうそれはこの世の終わ」

「うるせーぞ海里。お前何回世界終わらせるんだよ。」

「まあとにかくそんくらい凄かったんだって。」

 そんなに泣いてたのか?正直まともに顔を見れなかったからあまり覚えてない。

「うぅ。そんなに否定しなくてもいいじゃんかぁー」

 ポカポカと海里を叩いている。くそ、悔しいが可愛い。

「でも、英斗くんが女の子泣かせるなんて珍しいね?」

「いや泣かせてねーよ。まじで。」

 そうだ。そもそも前提が間違っている。

「それがな、珍しくないんだぜ。こいつ小学校の時に」

「もういいって海里。同じ話しすぎ。」

「へいへーい。」

 そんなやり取りを見て花鈴は笑っていた。

 

 

「じゃあここ、水月読んでくれ。」

「はい、春はあけぼの―――」

 だいたいこういう時、授業に集中できずに当てられても気づかない。なんてことがありがちだが、俺は成績優秀だ。気づかないなんてことは出来ない。自分で言うのもなんだがな。

「おい、水月そこじゃないぞ。」

 優秀じゃなかった。正直五時間目と六時間目の記憶がほぼない。もう七時間目なのに。

 部活でも

「おい、英斗ボール行ったぞ!」

「あ、、すいません。ぼーっとしてて。」

「ったく、もうすぐ先輩の代は引退するんだぞ。しっかりしてくれよ。」

「すいません。」

 俺はバスケ部で二年ながらも試合に出ている。というか三年が二人しかいないからなんだが。エースは海里だ。なんでも出来るんだよな。あいつ。

「どうしたのー英斗く〜ん若森さんが気になって仕方がないって顔してるよぉ〜?」

 煽んのも上手いですねわーすごいすごい。

 帰り道で海里がふとこんなことを言う。

「お前マジでどうしたよ。授業はまだしもバスケでもへまするって相当じゃん?」

「いや、転校初日一時間目からいなくなるほど傷つけたのかなーって。」

「そうだな。お前みたいなのが横だと誰でもあーなるわ。」

 いやひどい。慰めてよ海里くん。

「うそうそ。顔はかっこいいしそんなに気にしなくてもいいじゃん?」

 こいつこの手口で何人の女を落としてきたのか。

「でもよ、みんながみんな俺が悪いって雰囲気だったじゃん?だからまじでなんかやったのかなって思ってきて。」

「お前ほんとに昔から打たれ弱いよなー。あんなのいじってるだけだって。気にすんなよ。」

 本当にそうならいいのだが。

「まあ明日また話しかけてみればいいっしょ。」

 俺にはその明日がとても遠く感じた。が、それはすぐにやってきた。

 

 

 

「おはよー、お二人さん。」

「はよー。」

「おはよっ!」

 俺は毎朝海里と花鈴と学校に通っている。ちなみに帰り花鈴がいなかったのは、クラス委員長の仕事で遅くなるから。というのが理由。部活は入ってない。

「今日若森さん来るのかな。」

「どうだろうねー。昨日英斗がやらかしたから来ないかもよ。」

「海里、そういうこと言わないの!」

 リア充が朝から僕の心をえぐってきます。神様どうかお助けを。

「来なかったら俺のせいだよな。」

「英斗くんもそんなに気にしないの!」

「そうだな、ありがとう。」

 とは言いつつもめっちゃ気になる。まじで来なかったらどうしようか。来ていたとして話しかけていいのか。だが、そんな心配は杞憂に終わった。

「英斗、良かったじゃん。ほら、若森さん。」

 彼女がいた。そして彼女の方から話しかけてきたのだ。

「昨日はごめんなさい!前の彼氏の顔にすごく似ていて、思い出してしまって、それで泣いてしまったんです。決して顔がキモイからとかではなく―――」

 よかったあああああああああああああ!ほら見ろなんもやってねーじゃねーか!焦った。マジで焦った。つか顔がキモイってとこ聞こえてたんですね。

「あ、いやいや大丈夫だよ。それに、敬語もいい。気軽に英斗って呼んでよ。」

 どうだ!!全力を尽くした渾身の挨拶!!

「ありがとう。英斗って呼ぶね?私も英奈でいい…」

 彼女は少し照れくさそうに、顔を赤めながらそう言った。何この生き物めっちゃ可愛いんだけど。

「良かったな、英斗。おもしろくない展開……あ、何もやってなくて。」

「おい、おもしろくない展開って言おうとしたろ。」

 でも、本当に良かった。上手くやっていけそうだ。すると担任の桜井先生が入ってきた。

「誰か若森に学校の案内してくれないか?」

 海里が肘でつついてくる。わかってるよ。

「先生、俺行ってもいいですか?」

「水月か。いいぞー。もう泣かすなよ。」

 なんであんたにもいじられないといけねーんだよ。

「泣かしませんよ。昨日だって泣かしてないです。」

「冗談だよ。まあよろしくな。」

 ここで絶対に英奈と距離を縮めてやる!

「ありがとう、英斗…くん。」

 何その時差の君付け可愛すぎてどうかなりそうなんですが。

「それじゃ行こっか。」

 教室を回っているうちに彼女のことを色々と知れた。

「本を読むのが好きで―――」

「スポーツを見るも好き―――」

「一番は綺麗な景色を見ることかな。」

 そんなことを話す彼女に俺は完全に心を奪われてしまったのを感じていた。

「それじゃあ、今度一緒に綺麗な景色探しに行こっか?」

 言ってしまった。今絶対顔赤い。

「うん、いいよ。」

「え?」

「だから…一緒に行こっか?」

 うつむいているから表情は分からないが、、まじかよ…こんな美少女とかよ。俺、君が一番綺麗だよとか言っちゃうのかな。あらヤダ恥ずかしいわ。なんて、そんなことを思っているともう自教室だった。

「ありがとうね。案内してくれて。」

「ああ、うん。」

「朝から熱いね〜お二人さん。」

「やめろよ海里。しかもお前には言われたくない。」

 マジでやめてやれよ。英奈の顔茹でダコみたくなってるぞ。

「戻ったか、じゃ席ついてくれ。ホームルーム始めるぞ。」

 そんなありきたりな言葉でいつも通り、いや、いつもより少し幸せな生活が始まった。

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