第6話:駆け落ち

「聖女に選ばれ公爵家に戻れたパウリナに、こんな事を言うのは身勝手だと分かっているけれど、どうしても言わずにはおられないんだ。

 愛している、パウリナ、一緒に逃げてくれ。

 騎士の地位を捨て、この国を捨てて逃げるんだ、貧しい暮らしになると思う。

 思い描いていたような、騎士の奥様にはしてあげられなくなってしまった。

 それでも、君と一緒にいたい気持ちを抑えられないんだ」


「ああ、うれしいは、ダヴィド。

 聖女も公爵令嬢もどうでもいいの、私の願いはダヴィドの側にいる事。

 地位がなくても貧乏でも構わないわ。

 ダヴィドのお嫁さんになれるのなら、私は夢のように幸せなの。

 どうか私を連れてここから逃げて!」


 氷のような冷たい態度で、汚物を見るような蔑みの視線を向けて、全く口を利くことなく私と会ったアーシム、ウリヤーナ、アイリン。

 当然私も一言も発せず、聖女として断固として頭も下げませんでした。

 頭を下げるくらいなら死んだ方がマシですし、今のあいつらには、私を殺すどころか、傷一つ付けられないだろうという読みもありました。


 このような状況になった原因を探り出し、それを利用して復讐する。

 そう深く心に誓っていましたが、もうそんな事はどうでもいいです。

 ダヴィドが命懸けで手に入れた地位も名誉も捨てて、私を選んでくれたんです。

 復讐などといった矮小な事のために、ダヴィドを一瞬でも待たせるなんて、誰ができるというのですか!


 それに、畜生腹を公表してまで私を戻すほどの非常事態に陥っているのです。

 公爵だけでなく、国王までも巻き込むほどの非常事態です。

 回避に必要な私がいなければ、国難となるでしょう。

 私には最高の復讐ですが、よく考えれば黙って逃がしてくれるとは限りません。

 追手がかかり、ダヴィドにも、とても迷惑をかけます。


「ダヴィド、多分私、凄く重要人物なの。

 公爵家と王家の存亡にかかわっているようなの。

 私を連れて逃げたら、王国から追手がかかるわ。

 それでも私を連れて逃げてくれる?」


 私は、本気で神に祈りました。

 ダヴィドに王家を敵に回してでも私を連れて逃げると言わせてくださいと。

 身勝手なのは分かっていますが、嘘偽りのない本心です。

 それ以外の願いなどありません。

 いえ、違います、嘘です、許してください、ごめんなさい。

 ダヴィドと結婚して、末永く幸せに暮らしたいのです。

 どうか神様、私が聖女だと言われるのなら、願いをかなえてください!


「もちろんだよ、パウリナ!

 この国どころか、全ての人間を敵に回してでも、君と逃げるよ。

 さあ、見つかる前に逃げよう」


「はい、あなた!」

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双子だからと捨てておいて、妹の代わりに死神辺境伯に嫁げと言われても従えません。 克全 @dokatu

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