カノの独白

「うぅぅ、寒い」

頬に刺す寒さが憎たらしい。こんなに寒いといつ雪が降ってもおかしくない。しかももう夜遅く、道には誰一人としていない。住んでいたところからは追い出されて、いや出てこないと行けなくなった。以前、住み込みで家庭教師をしている家があったが、私が人殺しをしているところをそこの娘に見られてしまったから、一家もろとも殺したら流石に家にはいられないでしょう。今頃警察にも私がやったってわかっているだろうなー。逃亡生活ってやつ?あぁ!楽しそう!偽名とか使って?偽造したもの使ってとか?スパイ映画とかに出て来る生活ができるわ!スリリングな新生活の予感がしてきた。

「こう思うと何かわくわくするわね!潜伏先を探さないと!」

私がそんなことを考えていると、どこからか喧嘩をするような声が聞こえてきた。私は、歩くのをやめて耳を澄ました。どうやら声は私が立ち止まった左側の家からだった。私は気になって、ちょっと敷地内にお邪魔させてもらって、声が大きくなる方に向かった。窓からすこーしだけ拝見させてもらうと、リビングらしい部屋に三人人がいた。まぁ!私の嫌いな耳にキンキン響くような声で怒鳴り散らす母親らしき人と、それをめんどくさそうに諫める父親と声が低めの女の子、娘だろう、親子喧嘩ってやつ?ちょっと聞かせてもらうわよ・・・

「私たちが、どんなに周りから変な目で見られているのか知らないでしょ!いっつも惨めで仕方がないわ!」

「そんな周りの目が気になるからって、そんなの知らないわよ!自分たちが周りから変な目で見られるのが、いやなだけでしょうっ!私はあんたたちのことなんて知らないわ!」

「なんてことを言うんだ!実際、俺たちがいい目で見られていないことは事実なんだ!分かっているのか!」

「うるさいわね!父さんはうるさい母さんを慰めに来ただけでしょう!さっさと連れて行ってよ!」

・・・・決めた。私、ここを潜伏先にする。決定打は、母親の声ね。私の嫌いな煩わしい声、耳に響くわ。背負っていたリュックから布に包まれているナイフを取り出す。まだ、血が付いたままだったけど、まぁいっか。

私はリビングから離れた部屋の窓を割って、侵入することにした。どうせ喧嘩が白熱していたから、気付くことはないだろう。私はナイフの柄を使って、窓を割った。そこから手を入れて鍵を開け、家の中に侵入した。喧嘩しているからといって、こうもスムーズに入れるとは。そこから、声の大きくなる方へ息を殺して、忍び寄っていった。歓喜で手が震える。リビングらしき部屋のドアの前まで来た。

「もう、うっとおしい!私に関わらないでよ!」

そう娘が叫ぶとこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。私はナイフを構えると、それと同時にドッという音が聞こえ、何かが倒れる音がした。母親が私の嫌いな高い声の悲鳴を上げた。

「あなた、何をしているの!」

「ち、違う。こんなことをするつもりは・・・」

「どうするのよ!」

わぁわぁ、母親が泣きだした。どうやら、怒りに任せて娘を殺してしまったらしい。怒っていたとはいえ、理性くらい残しておきなさいよ。しかしながら、何か凄いところに遭遇したものだわ!これからどんな行動をとるのかしら?

「いいか、落ち着くんだ。俺たちは明日から四日間旅行に行く。死体をこの子の部屋に隠しておくんだ」

「隠しておくってどういうことよ!」

「旅行から帰ってきたら、死んでいたということにしよう。それかどこかに隠すという手もある」

「これで俺たちは、引きこもりの娘を抱える家ではなく、娘が殺された可哀想な親となることができる。今までの評価がガラッと変わるんだぞ!これでいいんだ!やるぞ」

「わ、分かったわ。二階のこの子の部屋に隠しておきましょう。基本あの子の部屋には誰も入らないし」

何だか面白いことになってきたわ。先に二階に隠れて、様子見でもしましょうか。

 親は娘を抱えて部屋に運んでいた。でもいいわ。醜くて、醜くて仕方がないわ!自分たちの評価をひたすら気にしてきたこの人たちにとっては何という僥倖なの。四日間旅行に行くって言っていたけど、この人たちは不安で一杯になることを知らないのかしら?醜くて、バカなの、私、嫌いじゃないわ!むしろそういうの大好きよ!

そう思っているうちに、どうやら娘を部屋に隠したようで、一階に降りていっているようだった。私は、娘の部屋に入った。死体は無造作に床に置かれていた。どうやら後頭部を殴られたようだ。あの人たちをどうしようか考えながら、娘の部屋を物色することにした。漫画や参考書、パソコンに・・・どこにでもいる女の子の部屋って感じね。何だかつまらないわ。クローゼットの中を物色しようとしていた時だった。足を掴まれた。

「な、にして、るの?だ、れ?」

娘が生きていた。これは驚きだわ。まだ死んでいなかったのね。

「大丈夫?あなた、親に殴られて、気を失っていたのよ。何ともない?」

そう平然と答えると、こちらを睨んできた。

「だから、だれ、って、言っているの」

体を起こしながら、しつこく質問をしてくる。生きている。この子も大概バカね。状況分かっているのかしら。

私は娘の口を手で塞ぎ、なぎ倒した。娘は、何とか抵抗してくるが、うまく力が入れられないようだった。私は、隠してあった血の付いたナイフを娘の首に近づけた。そこでようやく自分の状況が理解できたようだ。全く、遅いのよ?気付いた時には、もう。

「別に死んだって、親は何とも思わないわよ。第一、もう死んでると思われているわよ?君が死んだから、自分たちの評価がとか、意味わかんない事を言っていたわ!だから、殺したっていいでしょう?」

そう淡々と言っていると娘は死を感じているのか、涙目になって、力の入らない体に鞭を打って抵抗しようとしていた。実に滑稽!ナイフをさらに首に近づけて、こう問いかけた。

「ねぇ、ねぇ?今、どんな気持ち?」

そう言うと、娘は、涙を流しているだけで私の質問には答えてくれなかった。自分の質問には答えてもらおうとしていたくせに私の質問には答えないなんて、図々しいわ。そうして私は彼女の首をメッタ刺しにした。本当は頭を狙いたかったんだけど、ごめんね?彼女の死体を部屋のベッドの下に隠して、一階にいる彼女の親をどうしようか考えていた。そう言えば、私が侵入した部屋の近くに使われていないレンガがたくさんあったはず・・・こっそり持ち出そう!善は急げ、だわ!私は、バレないように一階に降りて、侵入した部屋に入った。窓から身を乗り出して、レンガがあるか確認すると、たくさんのレンガがあった。これなら十分に足りる!レンガを部屋の中にせっせと五個くらい運んだ時だった。

「誰よ!あなた!」

嫌いな金切り声が聞こえた。しまった!見られた!母親は、金切り声を上げて、何か言っているようだったが、獲物がこうも簡単にのこのこと現れてくれるとは、本当に今日は運がいい日だ。私は、こっそりとレンガを掴み、

母親の方へ走った。それを見た母親はひどく怯えながら、あなた、あなたと叫んで、廊下を走った。もう少しで追いつく、というときに 母親はある部屋に入ろうとした。私はようやく追いつき、母親を部屋に入れるために強めに突き飛ばした。しかし、そのドアは開けたらすぐ階段だったようで、母親はあっけなくゴロゴロと落ちていった。私は後を追うように階段を駆け下りて、母親の傍に駆け寄り、気を失っている彼女の頭にレンガを振り落とそうとしたときだった。

「うるさいなぁ!今度は何だ!」

めんどくさそうな声とともに、左横に会ったドアが勢いよく開いた。いきなりのことで驚いてしまい、反射的に父親の頭を殴ってしまった。勢いよく殴ってしまったが、父親はまだ生きていたため、頭を執拗に殴った。最初は、抵抗しようとしながらうめき声を上げていたが、私は殴り続けた。次第に声も上げなくなり、気付いた時にはもう息絶えていた。 血まみれのレンガを見ると少し欠けていた。少し眠くなってきた。時間なんて気にしていなかったが、書斎にあった時計を見ると、午後十時半ごろだった。どうりで眠くなったのか。ここの家のベッドでも借りようかな。その前に冷蔵庫からご飯でもいただこうかと、考えていた時だった。うぅぅ、とうめき声が聞こえてきた。書斎の前で母親が生きていることをすっかり忘れていた。もうお腹空いているし、眠いからさっさとやろうと思い、欠けた、血まみれのレンガを力強く三回ほど殴れば、母親は息絶えていた。私は冷蔵庫を漁り、親の寝室で寝かせてもらった。この時の私はまだ知らなかった。この後に起こる出来事を・・・

 パッと目が覚められるほど、私はよく眠れたらしい。時計を見ると午前八時半を過ぎていた。お腹空いたから、また冷蔵庫で何かいただこう。呑気に階段を下りていると階下を誰かが通り過ぎていった。心臓がキュウとしまって、冷や汗が出て来た。まさか、もう警察に居場所がバレたの?いくら何でも早すぎる。また二階に上りなおして、階段の影から階下を観察していると、昨日殺したはずの娘がリビングの方に通って行った。思わず娘の部屋に行き、ベッドの下を確認したが、血まみれの状態で転がっていただけだった。ますます頭を悩ませる。今見たものは一体何だったのか。兄弟でも・・・いや子供部屋はここしかなったはず。もしかして、もしかして、オカルト的な考えが頭によぎった。まさか、幽霊?いや、こんなところで考えていたって仕方がない。彼女か向かったと思われるリビングに行こう!少しの期待を込めながら笑みを浮かべて、リビングへ向かった。

 リビングのドアを少し開け、中の様子を伺った。やはり私の見間違えではなく、殺したはずの娘は確実にそこにいた。しかし、顔の色は生きている人間の色ではない。一見して、この世の人間とは思えなかった。彼女はひどく怯えていた。もしかして、地下書斎の中でも見ちゃったかな?何だか面白くなってきて、この幽霊に話しかけてみることにした。ついニヤニヤしてしまうが、心配したような顔をして、大丈夫?と声をかけた。すると、ぎゃんぎゃん何かを喚いてきた。もしかすると、彼女は自分が幽霊だということを分かっていないのでは?もしそうならば、面白い。私が君の代わりに幽霊になってやろう!私はニンマリと笑いが堪えられず。

「私、幽霊で、あなたの家に憑りつくことにしたの。よろしく!」

そう言えば、彼女は訳が分からないという顔をした。どうやら私の考えは間違えていなかったようだ。


これは二日前の話。あれから彼女の事を聞き出そうとしても、彼女は頑なに自分のことを話そうとしない。私の話(作り話)をしても何の反応もない。・・・というかこの部屋寒すぎ。彼女に冷房を付けてもいいか、と聞けば、彼女はそっけなく付ければ、私は寒くないみたいなことを言っているけど、こんなんやってられないよ!暖房、暖房!アンタは幽霊だからいいけど、私は生身の人間!寒いに決まっているじゃない! まぁ、幽霊役はやっているけどさ!あんまりだよ!

そう言えば、親子喧嘩をしている時、引きこもりとか言っていたな。もしかして、そこのところ教えてくれるかもしれない!これで彼女との仲を縮めよう、と思っていたが、どうやら彼女の怒りに触れてしまったようだ。しつこく聞いていれば、教えてくれるだろうと高をくくっていたら、怒りのまま彼女は自身の部屋に行ってしまった。部屋、か。彼女の死体は、出血が多かったからなのか、死臭が凄い。あんなに鼻の曲がりそうな空間には居たくなかった。何も感じないということは、幽霊には嗅覚はないようだ。しかし、めんどくさいことになった。彼女に謝りにいって、彼女の心に少しでも入らないと。彼女の心に入りきって、彼女が私を信用して、そして、私が自分自身を殺した犯人だと知った時の反応が気になるわ!そのためにも、今は彼女との関係改善に努めるしかないわね!

それにしてもうまくいったものね。少ししおらしくして、下手に出たら、あっさりと許した。ちょろすぎる。それに追い打ちをかけるように、引きこもりだったという話をした。そうすると、彼女は私に同情してくれた。でも、懐かしいわ。この自殺の話。私が初めて殺しに関わった時の話だというのに。自殺したいというから、手伝ってあげたら、首吊っている時にやっぱり死にたくないようなことを言ったけど、放置した時の話だったわね。その後に、後悔してるだの、自分と重ねているだの言った。まぁ、私が後悔しているんじゃなくて、その子なんだろうけどね。ふと彼女の方に意識をやると彼女は、話あぐねている状況だった。あともう一息何だろうな。あぁ、そうか。彼女は今、引きこもる原因となったことよりも、死体を見てしまった事について悩んでいるのか。このままじゃいけないよ、という意味も込めて、彼女に二日前のことを実は見ていた、と嘘を言えば、彼女は見られていたことにひどく怯えていた。私は、幽霊だから、言う伝なんてない、と言えば、彼女はぽつりぽつりと話始めた。やっぱり、ちょろい。私は、ニンマリと笑ったままだった。

彼女が話した内容は、実に馬鹿らしかった。自分のせいにされる、記憶がないなんておかしい、と蛙の子は蛙ね。保身のことをすぐに考えるあたり、親と似た考えを持っているわ!イライラしてきて、ついつい本性が出てしまったけれど、適当にごまかしたら、簡単に信じた。幽霊って設定は本当に便利ね!ここで、いかに幽霊が大変かを適当に言っていたら、彼女は床に伸びている影を見つめていた。本当に何にも気付かないのね。今伸びている影は、まっすぐ伸びた私の影だけなのに、自分の影だと思い込んでいる。それに、床に血痕が付いているに、全く気付かないなんて、本当に鈍いのね。その鈍さがどこまでいけるか、見物ね。心の中で私は、ほくそ笑んだ。

私は彼女と違って人間だから、お腹が空くの。ポテチを食べていると、彼女は怪訝そうな目でこちらを見つめていた。お腹空いてるの、と言えば、空いてないという。まぁ、当たり前だよね!彼女は、私を見るのをやめて、テレビを見ていた。あっ、私のニュースやってるじゃん。彼女も殺されたって事が分かれば、ニュースに報じられるわね!自分が死んだというニュースを見て、どう思うのかしら?そんな事を考えながらポテチを食べ終えたので、彼女の方を見た。じっと彼女を見つめていると彼女は私の視線に気が付いたようで、色々と話しかけてきた。ちょうど彼女が考え込んだので、引きこもった理由を聞くことにした。どうせ警察にはバレてしまうし、話した方がいいよ、と言えば、簡単に話すことを決意したらしい。私は、ニンマリと笑って彼女の話を聞くことにした。本当に面白い。

彼女の話は実にくだらないものだった。友達が自身を裏切って、いじめられて、引きこもった。それを彼女は怒ったような、悲しそうな目で語っていた。裏切られた事への怒り、許せないってアホらしい。気付いていないのかしら?自分も、いやそれ以上のことをしたってことを・・・本当に自分勝手ね。自分の罪には目もくれず、自分の親友を非難し続ける愚かな娘。類は友を呼ぶって、面白いわね。そこで私はあることを提案した。

「親友ちゃんは君に会いたいんでしょう?会ったら?」

彼女は言ったとたんに声を荒げた。びーびーうるさいのよ。だが、彼女は何を思ったのか、少し考え始めた。彼女の答えは、明日、そのお友達に会いに行って、警察に自供しに行くらしい。罪悪感につぶされながら生きていくなんて無理だなんて、もう死んでいるのに何を言っているのだか。しかし、ネタバラシは、予定より早くなりそうね。真実を知った時の彼女を見るのが楽しみだわ。私は、彼女に向かってニンマリと笑いかけた。

 私は今日も彼女の親のベッドを借りて寝ていたが、今日という日が楽しみで仕方がなくて寝付けなかった。リビングに来て、窓を見ると雪が降っていた。私は窓に寄り、外をジッと眺めた。確か、あの日もこんな雪の降る日だった。私の人生で、一番美しかった日。

 私には、兄がいた。私の兄はとても美しい人だった。私はまだ幼かったけれども、彼の美しさに惚れ惚れしていて、自慢の兄だった。年が離れてたため、共働きの両親に代わって私を育ててくれた。あれは、私の誕生日だった。雪の降る、美しい日。私は、兄に連れられてケーキを買いに行った帰りだった。兄に手を引かれて歩いていた時、私は兄に突き飛ばされた。その瞬間、大きな音が鳴って、何か嫌な音がした。私は振り返って見てみると車の傍に兄が倒れていた。兄は車が影になって、どんな様子か見えなかったから、心配で近寄った。私は声が出なかった。兄は、頭部を損傷していて、顔なんて見られる状態じゃなかった。変わり果てた兄の姿を見て、私はただ、美しいと思った。兄は美しい人だったが、この姿が一番美しいと感じていた。私は、美しい兄に見惚れていた時、突然手を掴まれた。車に乗っていた女の人のようだ。私の手を痛いほど掴んで、耳に響く金切り声で今見たことを話すな、と叫んだ。車の方を見ると若い男の人が顔を真っ青にして、茫然としていた。響く、うるさい、女の醜い声。女はそう言うとさっさと車に乗って、男と去ってしまった。私は近所の人に見つけられるまで、兄をじっと見ていた。その後、私はあったことを全部話し、結局犯人は捕まったそうだ。私には、そんなこと関係なかった。私は、兄の姿を見て思った。人は、頭を損傷して死ぬということが一番美しい死に方だと気が付いた。しかし、段々人殺しをしていくうちに、人は誰かに殺されてこそ、美しい死に方ができるということに至った。だけど、いつのことだったか。私のこの話を人に話した事があった。その人は、私が兄の姿を見て、抱いたのは深い憎しみだった、幼かったから、その感情が分からなかった、突然のことで頭が混乱していた、と言われた時、私はその人の言っている意味が分からなかった。兄は、ああいう姿になってこそ、自身の美しさを最大限の美しさを出せるのだと、何故わからないのだろうか。あの血生臭い臭い、変わり果てた姿・・・全てが美しい。

 物思いにふけっていると、彼女に話しかけられた。私のおかげで一歩踏み出せたと言う。私は、自分の当初の計画通りになった。どうやら彼女を懐柔することに成功したようだ。その嬉しさに私は頬を赤く染めて、彼女に返事をした。さぁ、お楽しみの時間はこれからだ。私は、期待を胸に彼女に着いて行った。

 私と彼女は、家から出て一言も話すことはなかった。彼女は悶々と何かを考えていた。きっと緊張していたのだろう。まさか一歩踏み出そうとしている時、絶望の底に叩き落されるなんて思いもよらないだろうな。しかし、随分友達が来るのが遅いと感じた。こっちは寒いのよ。幽霊のあなたは関係ないんだろうけどさ。そんなことばかり考えていると、一時間くらい経っていた。彼女は、遠くから歩いて来る女の子に走っていった。どうやらお目当ての子のようだ。彼女は一心不乱に走っていった。自分の思いを伝えるために、もう届かないのに愚かでたまらなかった。友達の体を透けた彼女は、何が何だか分からない様子でいた。友達は私を避けて、淡々と歩いて行った。私は、笑いが抑えられない。

「私が今まで向き合ってこなかったらから、親友は私のことをもう・・・」

「違うわよ・・・」

気付くまで黙っているつもりだったのに、馬鹿なことを言うから、私が話してあげようと思った。彼女の反応を見られると思うと甘い声が出てしまう。

「何が違うっていうの?何もかも遅かったんじゃ・・・」

「何のことやらさっぱりって顔しているわね。そうそう、君に言うべき言葉はこうだったわねぇ?」

「この機に及んで何にも気づかないなんて、実に滑稽だわ!この三日間自身のことについて何も考えないなんて」

彼女はこの機に及んで、何にも考えていなかったなんて、自分の都合のいいように何でも考えているなんて、ここまでだなんて、思いもよらなかったわ。

『ねぇ、ねぇ?今、どんな気持ち?』

そう呟けば、彼女の顔は絶望の一色に染まった。全てを思いだしたようだ。私のことを信用しきって、全部話して、愚かな娘。本当に愚か。彼女は私の顔を憎いという顔で見ていた。何でそんな目で見るのよ。私はこの世で一番美しい死に方を提供してあげたのに・・・まぁ、いいわ。幽霊ごっこも面白かったわ。ありがとう!

 

 私はそれから二日後、彼女の家を出て、別の場所に潜伏していた。彼女はあれからずっと私に憑いている。殺す、ニクイと延々と言っている。私はそんな彼女のために彼女自身のお墓に訪れていた。

「どう?自分のお墓は・・なんだか不思議な感じでしょう?ねぇ、どんな気持ち?」

笑いながら彼女に言えば、彼女は物凄い形相でこちらを睨んでいた。

「何よ?本当にあなた、性格悪いわよね。信じられない!絶対に許さない!」

幽霊の彼女が喚いていると、誰かに話しかけられた。降り向くと彼女の友達だった。

「初めまして、私、カノっていいます。この子の親戚でして・・・この子のお友達ですか?」

そう言うとお友達・・・チトセは自分の行いを語りだした。私にはもう聞いた話だったので、軽く聞き流していたが、チトセは彼女を殺した人間が憎いと言った。この子も面白い子だ。自分の目の前にいるこの私が、お友達を殺したというのに・・・

「・・・長々とすいません。初対面なのに、私の話を聞いてもらって・・・カノさん」

「いえいえ、いいのよ。私、人の話を聞くの、大好きだから」

獲物を見つけた気分だった。つい、ニンマリと笑ってしまった。フッと横を見てみると、彼女は涙を流していた。自分が向き合ってこなかった分の後悔の念か何なのか、友達の言葉が聞けたからなのか・・・

 私はチトセと別れた後、彼女に話かけた。

「ねぇ、チトセちゃんだっけ?いい子じゃない。私、ああいう子大好きなのよ」

そう言えば、彼女は顔を真っ赤にして、声を荒げて叫んだ。

「チトセに何かするつもりなの?チトセになんかあったら許さないから!」

威勢がいいのは良い事だと思うわ。だけどね、別に私は、チトセをより美しくしてあげるためなのに、そこまで怒らなくてもいいと思うの。

「大丈夫よ!安心して!チトセちゃんは髪の毛が綺麗だから、きっと赤は映えるわよ!それに、チトセちゃんをもっと美しくして、話し相手にしてあげるわ!」

彼女はキッとさらに睨んできた。私は、彼女に出したことないような低い声でこう呟いた。

「幽霊の君には、何もできないのにうるさいのよ。何にもできないから、せいぜいチトセが死ぬところを大人しく見ていなさい。特等席よ?私が、君のために連れてきてあげるから、ね?」

ニンマリと笑えば、彼女は顔を真っ青にし、泣き出してしまった。さぁ、次の獲物は決まった。どうやって美しくしてあげようかしら?やっぱり、頭を狙うのが一番だと思うけど、どうしよう・・・カノが足取り軽く帰る中、私は何もできない自分に絶望し、悲しみに暮れていたが、カノの言葉を思い出していた。カノがチトセを殺せば、私は一人じゃなくなる。私のこの憎い気持ちを共有できるかもしれない。私はチトセが来ることが楽しみといわんばかりに、穏やかに笑っていた。

                                     終

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幽霊と私 錆びた十円玉 @kamui_4869

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