ドキドキ☆ケツダイナマイト神判デスゲーム! 

下垣

汝はケツダイナマイトなりや?

 背中に冷たい感触が広がる。その不快な感触に俺は目が覚めた。


 薄暗い部屋。少し湿り気を感じる。なにもない殺風景な部屋だ。


「俺は――」


 俺は誰だ? 自分の名前すら思い出せない。俺は記憶を失っているのか?


 昨日までの行動を呼び起こそうとしても。全くわからない。


 とにかく、この部屋から出よう。この部屋にいると頭がおかしくなりそうだ。


 俺は目の前の扉を開けた。するとそこには証言台のようなものが蹄鉄型に配置されていた。


 真ん前にはモニターらしきものが設置されている。そこには青いツナギを着たいい男がベンチに座っている映像が流れていた。


 その証言台には1つの空席を除いて埋まっていた。証言台は全部で5つ。俺の他には4人の男女がいて、それぞれ証言台の前に立っている。


「最後の1人がきたようだな。では、その空いてる席の前に立たないか?」


 モニターのいい男は俺に語り掛けているようだった。俺はなぜかこのいい男の命令に逆らうことはできずに証言台の前に素直に立った。


「おい、どういうことだよ。俺らをこんなところに集めてナニをさせるつもりなんだ! 早くおうちに帰して!」


 モヒカンの男がモニターのいい男に向かって怒鳴りつけた。どうやら彼もこの状況を飲み込めていないようだ。


「静かにしないか? お前たちは既に盤上の駒だ。駒がゲームマスターに逆らったところでいいことはなにもないぜ?」


 いい男にたしなめられてモヒカン男は黙ってしまった。


「そうね。ここはそのゲームマスターさんの言うことを素直に聞いた方がいいかもね」


 髪型が昇天ペガサスMIX盛りのクール系美女がそう言った。髪型がアレなだけで、中々冷静そうだ。これからはこいつのことはペガサスと呼ぼう。


「お前たちにはこれからデスゲームをしてもらう」


「はぁ? デスゲームだぁ?」


 角刈りの男がデスゲームという言葉に反応した。いや、その単語を聞かされたら誰だって反応せざるを得ないだろう。デスゲーム。それはフィクションの中だけの存在かと思っていた。まさか、自分の身に降りかかることになるとは思いもしなかった。


「お前らは官軍の兵士だ。しかし、この中に賊軍が1人紛れ込んでいるんだ。そいつを特定すればお前らの勝ち。そいつを特定できなかった場合、お前らの負けだ」


「要は人狼みたいなものね」


 ペガサスがそう呟いた。人狼か。やったことないけれど、難しそうだ。


「その通り。当然、賊軍は運営側の人間だ。今からその見分け方を教える。賊軍はケツにダイナマイトを仕込んである」


 その発言を受けて、全員が固まった。ケツにダイナマイト? いきなり突拍子もないことを言うなこいつは。


「もちろんこのダイナマイトはこの部屋全てを爆破する威力を秘めている。もし、賊軍を見つけ出すことができなければ、ダイナマイトが爆発して全員死亡だ。賊軍を見つけ出すことができれば、賊軍含めて全員生還できる」


 そのルール説明を聞いて、モヒカンは安堵した表情を見せた。


「なんだそんなの簡単じゃねえか。賊軍だって死にたくはねえんだろ。なら、さっさと名乗り出てもらおうじゃないか」


 確かにモヒカンの言うことには一理ある。けれど、そんなに簡単な話なのだろうか。


「残念ながらそれは不可能な話だ。賊軍は多額の生命保険金がかけられている。家族のために死にたい。それが賊軍の願いだ。もし生還したら地獄の生活が待っている。奴はなんとしてでも死にたいだろうよ」


 やはり一筋縄ではいかないようだ。俺らが生き残るためには、ケツにダイナマイトを入れている賊軍を議論の中で見つけ出す必要がある。


「賊軍を見つけるためのヒントはそれぞれの証言台のモニターに仕込んである。モニターに今から情報を表示する。その情報は個人個人違うものだ。その情報を掛け合わせて、賊軍の情報を特定してくれ」


 俺は証言台に備え付けてあるモニターに目を向ける。そこに表示されていたのは――


【賊軍の身長は160cm~170cmの間である。この情報を他プレイヤーに悟られなければ生還時に1000万円獲得】


 な……なんだこれは。賊軍の情報は確かに書いてある。けれど、この情報を悟られなければ1000万円もらえるだと。


 本来なら、賊軍の情報は全員に共有すべきである。しかし、そうすると1000万円がもらえなくなる。


 もし……もし、この1000万円獲得の文字が全員のディスプレイに表示されていたら、恐らく情報の信頼性が全くなくなるだろう。全員が出鱈目な賊軍の情報を言うに違いない。


 それはこのゲームが崩壊することを意味している。生きて帰りたいなら、全員が自分の情報を包み隠さずに言うべきなんだ。


 でも、果たしてそれが成立するのか。誰か1人でも嘘つきがいれば、そいつが得をしてしまう。


 もし、嘘をついているのが自分だけだとしたら、1人だけ嘘をついてるんだったら、特定はギリギリ可能だと思う。ってことは、俺だけが得できるのか?


 いや、全員がそう思って嘘の情報を提供したら、賊軍を特定できなくなる。


 くそ、よく考えられたシステムだ。生還するためには真実を言う必要がある。けれど、真実を言わないメリットを提示されることでそれが揺らぐ。全員が利益を求めれば、爆死してしまう。それがこのゲームだ。


「全員情報共有できたな。それでは参加者のプロフィールもこの端末で確認できる。ぜひ、確認してみてくれ」


 俺は端末を操作して、参加者のプロフィールを開いた。身長が掲載されていれば賊軍の根拠になりえる。


――――――――――――――――――――

名前:大島オオシマ タケル

年齢:29歳 性別:男性

身長:175cm 体重:62kg 血液型:AB型

職業:警察官 配偶者:有

――――――――――――――――――――


 大島の顔写真を見る。そして、参加者の顔全員と見比べてみる。大島の特徴と合致する参加者はいなかった。どうやら、俺の名前が大島のようだ。そして、俺の身長は175cmであるから、賊軍ではなさそうだ。よかった。記憶がないだけで、俺が賊軍の可能性は十分あった。他の4人も見てみよう。


――――――――――――――――――――

名前:男狩オガリ 伍理ゴリ

年齢:21歳 性別:男性

身長:168cm 体重:63kg 血液型:A型

職業:とび職 配偶者:無

――――――――――――――――――――


 モヒカン男の名前は男狩と言うらしい。如何にもな名前だ。身長の特徴からこいつが賊軍である可能性も十分ある。要注意人物だ。


――――――――――――――――――――

名前:天馬テンマ 香織カオリ

年齢:32歳 性別:女性

身長:162cm 体重:52kg 血液型:B型

職業:家政婦 配偶者:無

――――――――――――――――――――


 ペガサスの名前はどうやら天馬と言うらしい。名前は体を表しすぎだろう。ってか、家政婦でこの髪型はどうなんだ。苦情がきそうではある。



――――――――――――――――――――

名前:真宮寺シングウジ 魁人カイト

年齢:25歳 性別:男性

身長:172cm 体重58kg 血液型:A型

職業:漫画家 配偶者:無

――――――――――――――――――――


 角刈りの男の名前は真宮寺と言うらしい。こいつは身長170cmを超えているから賊軍ではない。特に警戒する必要はなさそうだ。


――――――――――――――――――――

名前:染谷ソメタニ ハル

年齢:30歳 性別:女性

身長:155cm 体重:42kg 血液型:O型

職業:事務職 配偶者:有

――――――――――――――――――――


 そして、最後のさっきから一言も口を発していない無口でチビな女が染谷か。こいつは身長160cm未満だから賊軍ではない。


 となると、俺の中での賊軍の候補者は男狩と天馬の2択になる。後は、他の参加者の情報を照らし合わせれば賊軍は特定できそうだ。


「では、これより60分間の議論を開始する。60分後に自分が賊軍だと思う人物に投票してくれ。賊軍が最多投票なら、官軍の勝ち。賊軍が逃げ切れれば賊軍の勝ちだ。なお、最多投票が複数いた場合、そこに賊軍が含まれていても官軍の勝ちだ。健闘を祈る」


 それだけ言い残すとモニターはプツっと切れてしまった。そして、代わりに[60:00]とタイマーが表示される。タイマーのカウントダウンが始まる。どうやら、もう議論は始まっているようだ。


「おいおい。これって楽勝じゃね?」


 男狩がニヤニヤとした表情でそう言い放つ。楽勝? なにがだろう。


「全員右隣の人に投票すれば、全員が1票で最多投票になる。賊軍にも当然、票が入るわけだから楽に突破できるぞ」


 こいつ……アホだな。


「きゃは。なに言ってるの? おバカさん。賊軍が素直に従うわけないじゃん。賊軍が左隣の人にいれないで別の人にいれたら、その人が2票入って私たちの負けじゃん。そんなこともわからないの?」


 染谷が男狩の発言につっこみを入れる。そのつっこみを受けて、男狩の顔が真っ赤になる。


「う、うるせえ! 今のはお前たちが使い物になるのかどうか試しただけだ! 今の発言に賛成したやつはアホだからな」


「ねえ、いいかしら。私の情報を開示するわ。賊軍の正体は女よ」


 天馬がそう言った。え? 賊軍の正体が女? この情報が正しければ、俺の情報と照らし合わせれば賊軍が特定できる。


 賊軍が女、身長が160~170。これに該当する人物は天馬 香織しかいない。


 でも、なぜ賊軍である天馬がそんなことを言ったんだ。賊軍は自分が死にたがっているはずだ。多額の生命保険金が欲しくて……


 いや、待てよ。このゲームに生還しても金が貰えることがある。それは、賊軍の情報をプレイヤーに悟られなければ1000万円貰えるのだ。


 あれ? でも、もし開示されている情報が女だとした場合、それを素直に言ったら1000万円が貰えないはず。天馬が賊軍ではないのか?


 いや、天馬が悪質な官軍で本当は賊軍の正体が男なのに、女だと嘘をついている可能性がある。1000万円欲しさに嘘をついてな。その場合、賊軍は男狩だ。危なかった。騙されるところだった。


 俺は賊軍が男狩だと確信しかけた。その時だった。どこか胸にもやもやのようなものが残っている。この違和感の正体はなんだ……


 いや、天馬が賊軍の可能性は残されていた。天馬は正直に賊軍の正体が女だと言う。そして、俺みたいなやつが深読みして、天馬が嘘をついていると思って男に投票をする。そしたら、天馬は賊軍として逃げきれるのだ。


 くそう。混乱してきた。少し整理しよう。


①天馬が賊軍の場合

└女が賊軍が真実

 この場合、天馬が狙っているのは、天馬が嘘をついたと思わせることによる賊軍の逃げ切り。


②天馬が官軍の場合

└女が賊軍は虚偽

 この場合、天馬は1000万円欲しさに嘘をついていることになる。この場合の賊軍は男狩である。


 どっちだ……どっちが正解なんだ……


「じゃあ俺からもいいか?」


 男狩が手を上げる。


「賊軍の血液型はA型ではない。これが俺の情報だ」


「じゃあ私の情報を開示するね。賊軍の体重は60kg以下」


 染谷が情報を開示する。


「わしからもいいか? 賊軍には配偶者がいる」


 真宮寺も情報を開示した。これで俺目線の情報は出揃った。後は、俺が真実を伝えるかどうかだ。


「ははーん。賊軍の正体がわかったぜ」


 男狩がにやにやとしている。そして、男狩は染谷を指さした。


「賊軍の正体はお前だ! 染谷 華!」


 指名された染谷は驚いている。まさか自分が賊軍に指名されるとは思ってもみなかったのだろう。


「な、なんで私が?」


「賊軍は女。そして賊軍の血液型はA型ではない。賊軍の体重は60kg以下。賊軍には配偶者がいる! この情報を全て満たすのはお前しかいないんだ!」


 違う。染谷は賊軍じゃない。だって、俺の持っている情報と食い違っているから。


「待った!」


 俺は大声を上げた。このままではまずい。染谷をなんとかして守らないと。


「なんでテメーは」


「染谷は賊軍じゃない」


「いいや。染谷は賊軍だ。全ての情報がこいつを賊軍だと指し示しているんだ!」


「まだ俺の情報は開示されてないだろ? 俺の情報を聞いてからでも遅くはない」


「チッ……それもそうだな。じゃあ言ってみろ。お前の情報とやらを!」


 ここで俺は真実を語るのか……それとも金欲しさに嘘をつくのか……俺が取った行動は――


「俺の情報は賊軍の身長は160cm以上だってことだ。染谷の身長は155cm。情報と食い違っている」


 俺は半分だけ真実を混ぜることにした。本当は170cmを超えていれば賊軍ではないと判断される。けれど、ここで必要なのは染谷を守るための情報だけだ。余計な情報は言わない。金のために。


「おいおい。それじゃあ情報が食い違ってくるだろ! テメー嘘ついてんじゃねえだろうな!」


「仮に染谷が賊軍だとして、俺が嘘をつくメリットはなんだよ! 俺には嘘をついてまで染谷を守る動機がない」


「ぐぬぬ……だけど、なぜ情報が食い違うんだ。真実の情報を提供したら100万円がもらえるんじゃないのか? 嘘をつくメリットがあるのは賊軍だけだぞ」


 俺は男狩の言葉にハッとした。そうか。賞金をもらえる条件も賞金額も全員違っていたんだ。俺は全員嘘をついているものだと思っていたけど、そうではないのか。


 今の話が本当なら男狩の情報が真実だと思っていい。賊軍はA型ではない。そして、身長が160~170cm。この条件に合致する人物はやはり1人しかいない。


――賊軍は天馬だ!


 その時だった。タイマーが鳴り、再びいい男が画面に映る。


「やあ、議論は終わったかい? それではお手元の端末に賊軍だと思う人物を投票してくれ」


 俺は迷わず天馬 香織に投票した。大丈夫。これで合っているはずだ。


「結果発表ー! さあ、賊軍に選ばれたのは誰だ!」


大島……1票

男狩……0票

天馬……3票

真宮寺……0票

染谷……1票


「選ばれたのは天馬でした。果たして、天馬は賊軍なのかー!」


 俺は天馬の方をちらりと見た。天馬は青ざめている。


「ち、違う……私じゃ……」


「残念でしたー! ケツにダイナマイトを入れた賊軍は男狩でした!」


 いい男が無情なことを告げる。バカな! 男狩が賊軍だって。


「ふう……危なかった。なんとか騙しきれたようだな」


「お、男狩! お前騙しやがったな!」


 真宮寺が男狩に掴みかかろうとする。男狩はそれをひらりとかわした。


「ん? ああ。真実を話せば100万円もらえるなんて真っ赤な嘘さ。そう言うことで、俺の発言の信用度が上がるだろう。結果、A型の俺は容疑者から外れるってことさ」


 これは男狩の作戦勝ちだった。俺らはまんまと男狩に騙されてしまった。


 カチッカチッと男狩の方から音がする。


「ふっ、どうやらタイマーが作動したようだな。もうじきにダイナマイトが爆発して、俺らは全員死ぬ。それまで指くわえて待ってな」


 ここまで来て諦めてたまるか! 俺は生きて帰るんだ!


 その時、俺の記憶の全てが蘇った。そうだ。俺は警察官だった。しかもただの警察官ではない。


「男狩ィー!」


 俺は男狩の腹に向かって思いきりパンチした。その時、男狩のケツからダイナマイトがひょっこり出てきた。俺はそのダイナマイトを引き抜いた。


「な、なにをしやがる! そんなことしても無駄だ。俺たちは死ぬんだ」


「いいや。俺がこの場でダイナマイトを解体する。俺は警察で、しかも爆発物処理班だ! これくらいのダイナマイト解体してみせる!」



「生還おめでとう。まさか、爆弾を解除する方法で抜け出すやつがいるとは思わなかった」


 生還した俺たちを迎えたのは青いツナギを着たいい男だった。男は5枚の小切手を手に持っていた。


「ほら、約束通り、全員に1000万円をやろう」


 俺は1000万円とかかれた小切手を受け取った。男狩もみんなを騙し通せたわけだから貰えるわけだが、浮かない顔をしている。


「これじゃ足りねえんだよ……」


「男狩! 俺の小切手やるよ」


 俺は躊躇することなく男狩に小切手を渡した。


「い、いいのか? 俺はお前らを殺そうとしてたんだぞ」


「お前は金が必要なんだろ。なら黙って受け取れよ」


「うぅ……ありがとう大島。お前のお陰で俺はやり直せる気がするよ」


 こうして、ケツダイナマイトデスゲームは終わりを告げた。ケツダイナマイトをした男狩もまたこの社会の犠牲者なのだ。ケツダイナマイト。それはこの日本社会が生んだ闇なのかもしれない。

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