ウツクシイかおに関する男子生徒三人の珍妙なる会話(コメディ)

昼下がり、制服を着た三人の男子生徒が、飲食店の中で何やら話をしている。今日は日曜であるから、恐らく部活帰りで共に昼食を済ませたのであろう。食べ終わった皿がいくつか机の上にある。その三人の中の一人がある疑問を持ちかけた。


「ふと思ったが、世界で一番美しい顔面とは、一体どの様なものであるだろうか?」


「唐突だな」

「笑止。僕のマイスウィートハニー、ノイーネちゃんに勝る顔なんて、有るわけがないだろう?」

「ああ、ああ、これだから二次元だけにしか眼中にない奴は………。残念だ」

「残念?何を言っているんだか、君はお馬鹿すぎて、呆れるような事をのたまうんだな。三次元などいう現実より、人の妄想によって具現される、架空のキャラクターの方が、洗練された顔をしているに決まってるではないか」

「仮にそうだとしても、お前の好きな、その架空は人間の形をしているが、実際は人間の顔じゃねぇ。だってそんなもんは、現実にはいない、デフォルメでしかない。そもそも現実にいないものをここで語りたいんじゃない、そうだろ?質問者さん」

「ああ、そうだね。君にはすまないが、今回は現実の人間という枠で考えたい」

「ほらな」

「ふん、つまらん」


「んー何かあるかな。あっ、アイドルの黒川明日香はどうだ?最近、滅茶苦茶人気あるからな」

「ブツブツ………なんであんな女が世に売れているんだ。たとえ現実の女だとしても、手が届く事はまず無いというのに………この世の男どもはなんで、あんなのを彼女にしたいとかほざくんだ。テレビに映った実際の女に発情する方が気持ち悪いだろ………。ブツブツブツブツ………」

「いや、別に全員が欲情してるわけじゃねぇから」

「はい、そこ黙ってー。ちゃんと考えてくれよー」

「分かった、分かった。そこまで言うなら案を出してやろう、女優の雪代佳奈とかは、周囲にチヤホヤされそうだ。なんとなくの意見だが」

「ほうほう、成る程。世界規模ではないが、参考になる」

「というか今思ったが、調べたら出てくるんじゃないか?顔が良い人の世界ランキングみたいなの。そっち調べた方が早い」

「そうだな、調べてみよう」


調べてみると、そういうものを纏めたランキングがあったようだ。


「へぇ、日本人も載っているんだな」

「ふむふむ、鼻は引き締まり目は大きく、髪は艶やかで顔全体は血色が良く、体に対して小さい、と言ったところか。そして、これが世界一位の美女と」

「これが世界一位か!?レベルが低すぎる!!」

「見て、開口一番がそれかよ!?」

「少し聞いてみたいが、もしこの娘がそのノイーネさんというキャラに及ぶ為には、どういう努力をすれば良いと思う?」

「人間辞めればいいと思う」

「それを真顔で言える君は凄いな」

「そう言うお前こそ人間辞めれば良いと、俺は思うぞ、このオタク男」


「む、どうやら男の方のランキングもあるようだ。少し見てみよう」

「こっちは女性と比べると色んな顔があるな。顔の凹凸の激しさや目の涼しさ加減、骨格とか、違いが豊かだ」

「ほう、でもどれにもひとつだけ共通点があるな」

「そうなのか、それはなんなんだい?」

「僕のゲームの暗転した画面に映る麗しき男の顔よりは………遥かに劣る。例えるなら、ペガサスと腐ったサトイモくらいの差かな」

「要するにテメェの顔が一番だと言いたいのかよ。お前ハッピーそうだな。頭の中」

「それなら、二次元の男性キャラクターと比べたら、どうなんだい?」

「ああ、あれね。あっちは吐瀉物みたいなもんさ、大差ない」

「オマエ最初の方に言ってた事思い出せる?記憶大丈夫か!?はぁ、イカレキチガイ野郎の話は聞いてて疲れるわ」

「たしかに君の話は疲れるよ」

「オマエの事じゃい!!」


「うーん、君たちにもう一つ質問をしたいのだけれど、もし君達が、世界一美しい人間に生まれるとしたらどう思う?」

「幸せなんじゃないか?顔だけで金を稼げるんだ。周りの目には縛られるかもしれねぇけど、それさえあれば生きていけるんだ。それにチヤホヤされるし。これ程幸福なこともないさ」

「それには反対だ。もし仮に、僕がこれより更に美しい顔で生まれたら、それは絶対に不幸だな。強い陽の光はそれだけ強い陰を作るものさ。縛られるだけじゃない、きっと恨まれる。そして、同時に光には薄汚れた蛾共も集まる。悪意だけが敵ではない。それ故にこれ程までに恐ろしい事もそうは無い、のかもしれないと思うよ」

「へぇ、意見が割れたね」

「君だとしたらどう思うんだい?」

「そうだな、僕はきっと多分、なんとも思わないかな。何故なら人間は自分が全てだ。さっきの君達だってそうだ。己の物差しでしかはかれない。自分の世界でしか見ることが出来ない。だから自分の顔とそれにより得られる状況は、他人にどう言われようが、自分にとって至って普通。不幸だと愚痴る事もあるだろうが、本心ではそうは思わないと推測する」

「そうか。まぁ、考えようによるのかもな。でもその"考えよう"に到達できる確率って、それぞれどんくらいの確率なんだろうな」


そのような事を話し終わった後に、その3人組は店から出た。一人は美しい顔立ちをしていて、もう一人は醜い顔をしていて、三人目はありふれた相貌をしていた男たちだった。でも、それは見え方によるやもしれない。どこかの誰かが見たらハンサムでも、それはそれ以外の誰かが見ればブサイクなのかもしれなかった。逆もまた然り。それはきっと住む場所と、時代と、各人の感覚によって変わるものなのだ。それでも人は顔に束縛される。難しい世界だ。

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短編集みたいなの 蚕札 @S5971770

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