家には柿の木が二本ある。隣接して植えられた二本に行き渡る栄養が偏るのか毎年交互にしか実をつけない。その年は不思議と両方に実がついた。そんなとき……。木を兄との関係のように見いだすのが深いです。切ないお話でした。
兄と生き別れ、養子に出された主人公。家族を慕う気持ちがありながらも、一緒に暮らすことは叶わず、柿の木に兄への想いを寄せます。切り刻まれ、切り捨てられたのは誰なのか。一見すると主人公のように思えますが、家扶の清野との対話。「お前は私を切り捨てたりはしないよね?」「当たり前です。いつも一緒です」献身的に仕える関係性に、背徳的な美しさを感じます。短い作品ですし、終わり方も余韻あるものですので、読者の想像力の翼でいかようにも世界観が広がっていきます。
短い中に肺を絞られるような切なさが詰まっている。心がざわつき、息が震えました。このような悲しみと理不尽が、生にありふれていて、どうしようもなく共感してしまいます。
旧家にある2本の柿の木。長年交互に実をつけてきたのだが、ついに切られてしまうことに……。短編とは思えぬ完成度です。これ、2000字もないんですよ。なのにすべての情景が目の前に画像として浮かんで来ました。お見事です。脱帽しました。