ついてる男
ナロミメエ
ちんたら走ってんじゃえよバカヤローが、てめえもひいちまうぞ、って、ダメダメだ、心、入れ替えんだろ、俺。
そうだよ、あともう少しなんだから。
飛行機に乗りさえすりゃあ、俺は生まれ変われるんだからな。
ついてんだ、俺はついてんだ。
もし都会でひき逃げなんかしちまったら即アウト。早かったら、もう留置場にいたかもしんねー。
でもみろ、ほら、俺は捕まっちゃいないぜ、へへっ。
しかももうすぐ国外に出ちまう。もう誰も俺を止めらんねえんだ。
わかってる。
もちろん、しないに越したことはない。
でも、もうしねえ。
当たり前だろ。
こんな面倒なこと、もう二度とごめんだ。
宣誓、わたくしはこれから、運転には人一倍注意するのでありますです。
そうさ、一度もひき逃げしたことのねえ奴より、よっぽど俺の方が慎重に運転すんぜ。
もうなんもかんも、これを機に完璧に足洗ってやる。
いやぁ、俺はほんとについてるよ、ほんと。
都会と郊外の間ぐらいかな。ちょーど、人気もなけりゃカメラもねえところ。しかも誰にも探されそうにねえ、たぶんありゃあボケてんじゃねえかな、着流しのジジイだった。
まぁ道路に血痕は残っちゃったけどさ、ブツがねんだもんブツが、だれも気づきやしねえ。
血なんて雨で流れんだろ。
したら万事解決。
とにかくサツにさえ追われなきゃ問題ねえんだ。
いやー、ついてんなあ、俺。
トランクに積み込む時もさ、他に一台も通らねーの、これもうあれだね、神だね、神様が俺に憑いてると思うんだよね、あ、違うか、悪魔か、ははっ、まあどっちでもいいや。こんだけついてんならさ、もう天国でも地獄でもどっちでもいいぜ。
ほんと、まさかだよ。三県も越えた先の山にだよ、あんなに都合よくさ、ちょうどジジイサイズの穴なんかあるかねぇ普通。
もち、こんなチャンス逃す手はねーよな。
放りこんでさ、周り削って均して終了、はい、お仕舞い。
この忙しい時にさ、もうつきまくりだよね。
ほんっと、今日は散々な日だったからね。
朝の四時、急にだよ、店のプール金、全部持って来いなんて言いやがってさ、あのクソ豚野郎。
そんな金一円も残ってねーよ、全部ヤクに使っちまったよ、なんて言ったら即殺されるし、かといって今から用意するのもぜってえぜってえ無理、あーもーどうしよう、って思ってた時にだよ。
ピカーン、キラキラキラー。
キラリンキラリン、キラキラリーン。
思いついちゃったかんね。
要はさ、これ、裏金なわけ。
通報できるわきゃねえよな。
だからサツの心配はねえってこと。
とはいえだ、実際はサツなんかより奴らの方がよっぽどヤバいんだけど、でもそれはこの国にいたらの話。
要は、国外に出ちまえばいいってこと。
キャハー、俺って天才、キター。
返す金はねえけど、店の売り上げはたんまりあったし。こんだけありゃあ、ちまちま数年は生きられる。
したらしれっと戻りゃあいい。
なあに、やつらはドライだよ。
金になんねえことを長々と覚えちゃいねえ。
いやぁ、最高についてるぜちくしょー、ほんっと、まったく、なんだってんだよな、このクソ人生はよお。
別にさ、何ってわけじゃなかったんだぜ。
みんなと同じ、ガキなんてあんなもんだろ。
中坊でさ、なんか、くさくさしてただけなんだよ。
まさか中に人がいるなんて、思ってなかったんだ、ほんとだよ。
ぼろっぼろで、完全に空き家だと思った。
俺も悪かったよ、でもあいつらが。
結構やべえ中学でさ、悪ぶってないとこっちが目えつけられる。
必死でイキって、できねえことでもやらないと生きられなかった。
まさか人がいたなんて。
今でも目に焼きついてんだ。
火だるまの、こっちに向かってくるのが。
あいつらは逃げたけど、俺は腰を抜かしちまった。
じわじわ寄ってきて、そして、俺の前で。
それからは、ヤクしか頼れなかった。
誰にも言えねえのに、忘れさしてくれねえんだから。
ヤクをやってる間だけしか、俺は。
ちくしょー、怖ぇーよ、ちくしょー、切れちまったよ。
なんでだ、なんで、なんで着かねえんだよぉ。
もう何時間も走ってんのに、とっくに空港に着いていいはずだろ。
どこなんだよここ、道が見えねえよ。
臭えし、うるせえし、汗が止まんねえよ。
あー、うるせーうるせーうるせー。
ふざけんなよっ。てめえはしっかり埋めただろ。
ジジイは埋めたんだ。
俺の前で燃え尽きたんだ。
かねはある、やりなおせる。
もうすこしなんだ。
なのに、なんでつかねぇ。
おれはついてんだろ、ついてるはずだろ、おしえてくれよ、いったいどうしたらよかったんだよ。
わかってんだろ、ちくしょー。
わかってんだよ、ちくしょー。
ついてる男 ナロミメエ @naromime
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます