指先

紫蘭

指先

もし、世界が一度全て吹き飛んでいたとして、人類全員が実は幽霊とか魂だけの存在だったとしたら?


今わたし達が操っていると思っているこの肉体が本当は、わたし達の妄想に過ぎないのだとしたら?



これはわたしの脳内で、何千、何万回と考えた問いかけ。



夏、教室の窓からは、むくむくとした入道雲が見えて。


わたしは頬杖をついて、ぼんやりをする。


身近に起こった嫌なできごとが、気付けば自己嫌悪に変わっている、なんてことはよくあることで。


そんなとき、わたしはいつも、地球が滅びる瞬間を想像する。


爆弾でも、隕石でも、なんでもいい。


アインシュタインの法則にのっとって、地球がエネルギーになる日を考えてみる。


結論はいつも同じ。


地球ごと、わたしも含めた全人類の肉体が消え去ったら、やっぱり残るのは魂だけのように思う。


だって、供養してくれる人が誰もいないし、その方が夢があるでしょ?


でもそう思うと、今度は今が信じられなくなる。


わたしの身体だって、本当は、ここにないのかもしれない。


今ぼんやりをしているのは、魂のわたしかも。


頬杖だって、触ってるような気がしてるだけかも。


わたしは本当に、ここにいるのかな。







「はいプリント」


前の席の男の子が振り返って、こちらを向いた。


プリントを受けるとき、微かに指先が触れる。


心臓がとくん、と高鳴って。


わたしの妄想は終わる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

指先 紫蘭 @tsubakinarugami

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ