青年の追憶
sol
第1話
あ、おーい!そこの人!こっちこっち!怪しい者じゃないから!こっち来て!
......あ、来てくれた。ありがとう。
はじめまして。僕の名前は......教えないよ。......何だそれって思った?まあ、気にしないでよ。僕の名前に君の記憶のキャパを使うなんて勿体ない。
さて、君に頼みがあるんだ。僕の話を聞いてほしい。ああ、話を聞いて欲しいという頼みなんだけどね。そんな事解ってる?いやあ、すまない。
つい数秒前に言った事を覚えているかと言いたげな顔をしているね。僕の名前を知ることも無駄なのに、僕の話を聞いてくれ、なんて、たしかに矛盾してる。
あっはは、まあ、君が聞いてくれなくても僕は勝手に話すけどね。
勝手な僕の独白を、暇なら聞いていってくれ。
何から話そうか。そうだな、僕の小学生時代の話から始めよう。 今の年齢?そんなもの気にしなくていいじゃないか。
小学生時代の僕は、まあ普通の子だったと思うよ。成績も、運動も、性格も。
特に目立ったこともなく、クラス順位でちょうど真ん中をとった時があったのは今でもよく覚えてるね。ある意味、普通をとる天才だったかもしれないな。はははっ。まあ、脱線はここまでにして続きを話そうか。
そんな普通の子の僕は、クラス内のモブQあたりだったと思う。友達づきあいにもそれが出たのはまあ吉だったかな。高学年になっても孤立することなく、広く浅くの人間関係が保てていた。
まあ小学生時代の話はそんな普通の子だったというだけでサラッと流そう。重要なのはここから。僕は中学生になった。
そこでも普通を貫き通そうとしたんだが、これは失敗だったな。言われちゃったんだよ。クラスの主人公的なやつに。「誰にでもヘラヘラ媚びを売っていて気にくわない」って。
それから、僕に好意的に接してくれるやつはいなくなった。小学生の頃からの付き合いのやつも、すぐに縁を切ってきた。広く浅くが仇になったんだよ。
いじめ、なんて大げさなものじゃない。モブQが空気になっただけだ。何も変わらない。僕も僕であの頃は普通に飽きていたんだ。今思えばただの中二病だけどさ。
......ごめん、少し自分で言ってて笑ってしまった。
要するに、僕は空気になったわけだ。単純なものだよ、友情なんて影響力持ってるやつの一声で消えるんだから。友情って言ったって実際は孤立しないための保険みたいなもんだったんだから当然だけど。
さあ、話は飛んで高校時代に行こう。普通の子が空気になったあとどうなったかは乞うご期待!
......恥ずかしい。ちょっと調子に乗った。
高校は普通の、中学から一緒に行くやつも多いところに行ったな。頭いいところじゃなかったから勉強しないで入学した思い出はある。
いやあ、高校なんてそんないいところじゃないよ。中学のメンバーも多い中すでに浮いてた僕が行って平穏に過ごせる高校じゃなかったのもあるだろうけど。
高校には、ろくな思い出もない。思い出すのも嫌だから、詳しい部分は割愛するよ。
端的に言えば、本気で飛び降り自殺を考えるぐらいの地獄......だったかな。
いや、一回飛び降りたよ。大怪我で済んだけどね。その時の傷見る?いい?そっか......
まあ......そういうことだ。悟ってくれ。
どうだった?ここまでの逆サクセスストーリーは。面白くはないだろうね。
終わりかって?いやいや、まだ少しだけ続きがある。
僕は伊達に逆サクセスストーリー辿ってないよ。高卒で就職したんだが、その就職先が超のつくブラックでさ......辛かったよ。
ろくに寝ることも食事を取ることすら出来ずにさ、罵詈雑言が飛び交う中ひたすら押し付けられ非効率な作業を続けるんだよ。
最悪なのは、高校からすぐにまた地獄に飛び込んだことかな。僕は二度目の自殺をした。
ふっと思いたって、死んだんだ。僕を追い詰めた会社と同級生、両方追い詰めてやるって思ってね、しっかり遺書を残して、然るべき機関に届けて、少しでもことが大きくなるように手を尽くして、最後の仕上げに会社で片腕を切り落として置いて行って、高校内で首を吊った。これで話は終わりだ。
その目は僕のことサイコ野郎だと思ってる目だろ。でも結構おおごとになっただろ?
......そうじゃない?死んだって言ってるのに生きてる、腕もあるって?
えっと......僕が生きてるって、一言でも言ったっけ......?
え?うんそうだよ。僕は幽霊。この話を誰かに聞いて欲しくてさ。ずっと待ってたんだ。ここ、僕の高校前。通りがかった人に片っ端から声をかけて、やっと君が気づいてくれたんだ。......こんな深夜に通りがかってくれるとは思わなかったけどね。ちょっと油断してた。
うん、君のおかげで、ようやく成仏できそうだ。
うん、うん......
ありがとう。
最後に一つ。人生はあんまり無駄にしないほうがいいよ。やるなら、自分に関わった奴ら全員にトラウマ植え付けてやるぐらいの勢いで頑張ってね。アドバイスがおかしい?気のせいじゃないかな。それに、僕が生きてれば良いことあるよなんて言ったって説得力ないだろう?
それじゃあ、いつか遠い未来で、また逢えるといいね。
青年の追憶 sol @22so_43
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