第10話

ところが半分あきらめかけていた頃に、また会えた。声こそかけられなかったが、家はちゃんと記憶した。

家に帰ってクローゼットを引っかき回した。書き終えた、『君と結婚できないなんて』という小説を探したのだ。それを見つけ、次の朝、渡しにいこうと決心した。結婚というものを暗に示したかったのだ。

朝六時、少し早い目に待ち伏せした。和歌子の出勤時に小説を渡そうとした。季節は、春を過ぎた頃で、そう暑すぎもなく、人を待つには苦労もなかった。

七時ごろ、和歌子が昨日会ったマンションから出てきた。よし、行くぞ。そう決めて向かっていったところに、隣に男がいた。

眼鏡をかけた中肉中背くらいの男だ。その男の腕をかかえ、肩を組もうとしていた。

仲むつまじきという感じだった。あまりの仲の良さに入り込む余地はなかった。二人に軽く頭を下げるだけだった。二人が通り過ぎころに、少し経ってから振り返り様子を見た。二人は駅のホームの中に入っていった。。

それが、俊一郎の二十七歳の恋だった。

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二十七歳の恋(前編) 林風(@hayashifu) @laughingseijidaze4649

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