第24話 番外 2人の冒険者①
俺の名前はマルク。Cランクの冒険者だ。
今年で冒険者になって5年目になる。
まぁー、どこにでもいる『中堅冒険者』ってやつだ。
日々堅実に依頼をこなし、Bランクへの昇格を目指して頑張っている。
「あっ! シャクナク草みぃ〜っけっ!! よしよし。これで8本目ねっ♪」
彼女の名前はカミラ。
依頼を何度か一緒にこなしたこともある、顔馴染みのCランク冒険者だ。
今朝たまたまギルドで会って、軽く世間話をしてる時に、お互い回復ポーションをちょうど切らしていることで意気投合。
目ぼしい依頼もなかったので、街から半日ほど歩いた距離にあるこの森まで、回復ポーションの材料になる3種類の薬草を取りに来ている。
「マルクーっ! そっちは今どんな感じ?」
「こっちはちょうど7本目ってところだな」
「おっ? じゃあピッタリポーション2個分だねっ!」
「あぁ。キリもいいし、このあたりで少し休憩をとっとくか?」
「ん〜……。そうね。それがいいかも。じゃあ、あそこにある岩場で少し休みましょ?」
カミラが指差した方角を見てみると、座るのにちょうど良さそう岩がいくつか転がっていた。
彼女は岩の上に腰掛けると、額の汗を軽く拭い、持参した水筒の飲み口を口元に運んだ。
「ぷはーっ! 生き返るぅ〜っ!」
俺も周囲を軽く警戒しつつ、妻が作ってくれた肉と野菜を挟んだパンを口に頬張る。
「美味しそうなパンね。あっ、奥さんの手作り?」
「あぁ。朝早く起きて作ってくれたんだ」
「へぇ〜……。たしか娘さんもいたわよね? 今いくつになったの?」
「今年でもう5歳になる」
「もう5歳になるんだっ! はぁ〜っ。子供の成長はホントあっという間ね……。マルクが娘の名前に悩んで眉間にシワを寄せてたのが、つい間のように感じるわ」
「またその話しか……。もう5年も前のことだぞ?」
「あはははっ! だってぇ! あの時のマルクの顔っていったら──」
カミラが笑いながら昔の俺の様子を語ろうとしたその瞬間。
木の枝がへし折れるような『バキバキッ!』といった音と、葉と何かが擦れ合うような『ガサガサッ!』といった音がした直後。『ドンッ!!』と重みのある衝撃音が周囲に響き渡った。
俺とカミラは慌てて周囲を警戒する。
「な、なに今の音……」
「分からん……。だがあっちの茂みの方から聞こえたような気がする……」
「いってみましょっ!!」
「あ、ああっ!!」
◆◇◆◇◆◇◆◇
周囲を警戒しながら茂みを掻き分けて奥へと進んでいくと、大きな金属の塊のようなものが地べたに転がってる様子が視界に映った。
(なんだ? あの金属の塊は……?)
その金属の塊は、鉄のような銀色の見た目をしていたが、地面との接触面だけが僅かに赤黒く、全体的に刺々しいというかなんというか……。表現のしづらい異様な形をしていた。
──それが『金属の塊』なんかではないことに俺達が気づくまで、そう時間はかからなかった。
「ひぃっ!?」
『金属の塊』が目視できる距離までくると、カミラの口から引きつるような短い悲鳴が漏れた。
俺は目の前の光景に思わず息を呑んだ。
「な、なんだこれは……? どうしてこんな……」
「ひどい……。うぷ……ッ!」
顔を青褪めながら、カミラが口元を両手で押さえた。
それは鎧を着た人だった……。
両腕、両足は曲がってはいけない方向に曲がり、地面には赤黒い血溜まりができていた。
着てる鎧を見る限り、恐らく王国の騎士団に所属している兵士のひとりなのだろう。
王国の騎士団に所属している兵士や騎士が着ている鎧は、街の防具屋で売っているものと違い非常に品質がいい。
それこそ本来であればパッと見ただけで分かるほどに……。
だが俺が断言できないほど、目の前の兵士の鎧は傷つき、ボコボコにヘコみ、至るところが無惨にひしゃげていた。
(だが一体何が……? 何をされれば頑丈な鎧がこんな状態になるんだ……?)
「まさか……。少し前にギルドに依頼がきてた、ワイバーンの仕業なんじゃ……?」
「……いや。恐らく違うな」
「どうしてそんなこと分かるのよっ!!」
「まぁ、落ち着けよ。よく見てみろ」
「……?」
「おかしいと思わないか?」
「何がよ? 別におかしいとこなんてどこにも……。あっ……!」
「気づいたか?」
「え、えぇ……。こんなにボロボロで傷だらけなのに、ワイバーンの爪跡らしきものが一つもないわ……」
そうなのだ。こんなに鎧がキズだらけなのに、あるのは細い傷ばかり。
もし仮にこの兵士がなにかしらの理由でワイバーンに捕まり、遙か上空から地上に叩き落とされたとして、ワイバーンの爪跡が鎧に一切残らないとは考えづらいのだ。
そもそもワイバーンが一度捕まえた獲物を地上に落とす状況が想像できない。
この辺りにワイバーンの外敵になりうる魔物が出没するなんて話、聞いたこともないしな。
「ぁ…………が……ぁ……ッ!」
「えっ!?」
「なっ!?」
俺が思考を巡らせていると、死んだと思っていた兵士から声が聞こえてきた。
慌てた様子でカミラが兵士に駆け寄る。
「ちょっと! マルクっ!! この人まだ息があるよ!?」
「信じられん……。こんな状態でまだ息があるなんて奇跡だ。だが──」
(どっちみちもう長くはないな……。せめて最後の言葉だけでも)
「ここで会ったのも何かの縁だ。なにか言い残しておきたいことはあるか? 出来る限り力になろう」
「……ぁ゙の……おんな゙あ゙……ば…化けもの゙か…ッ……!」
「あの女……?」
息も絶えだえに、兵士は俺達に何かを伝えようと、絞りだすように言葉を続ける。
「た……頼む゙……王に…伝え……でぐ…れ゙……ぁ゙れは……あ……の……お…んな゙……は……」
そこまで言葉を発したところで兵士の声は途切れ、彼の荒い息遣いがピタリと止まった。
「お、おいっ!! あの女って誰のことだ!?」
兵士から返答はない。
隣にいたカミラが腰を落とし兵士の首元に指先を当てると、ゆっくりと目をつむり首を横に振る。
その様子を見て、俺は彼の死を悟った。
「奇跡はそう長くは続かないか……。どうかこの兵士に安らかな眠りを……」
俺は目をつむり祈りを捧げる。
しかし……。化け物。それに女か。
女の身を案じた言葉だったのか。はたまた死の間際の譫言だったのか……。
まぁ、どちらにせよ俺の一存だけでどうこうできる問題じゃないな。
一度ギルドに戻って報告するか。
「マ、マルク……」
「ん?」
俺が考えを巡らせていると、カミラが俺の名を呼んだ。
カミラの方に視線を向ける。
が、カミラは正面を見つめたまま、一向に俺の方を見ようとしない。
それに彼女の唇が僅かに震えてるように見えるのは気のせいだろうか……?
「カミラ? どうかしたのか?」
「あ、あれ……」
彼女が指差した方向を見てみるとそこには──。空を半分覆うほどの大量の砂埃がモクモクと渦を巻いて、空中を漂っていた。
その現象に前触れなど一切なかった。
「なんだありゃ……?」
あまりにも不自然で、目を疑うような異常な光景を前にして、俺の背中に冷たい嫌な汗が流れた。
異世界で史上初の魔法使いになったので、世界は私のものかもしれません! ヨモギ餅 @keita0915
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